チースタル
第18話です!
時間も昼時となり、二人は草原に座って昼食を広げていた。その光景はさながら楽しいピクニックのようで、とても授業中には見えなかった。
「『双児宮』のご飯食べたい……」
ピクニックとはいえ、手に持って食べているのは学校から支給された質素な携帯食。ポリポリと味気ない音を立ててイルミとコーデリアは食べていた。
「作ってきても来てもいいけど、動いてグチャグチャになったり腐ったりしても勿体無いからね」
「……残念」
すっかりイルミ達、『双児宮』のスタッフが作った料理の虜になったようでコーデリアは本気で残念そうにしていた。
「『双児宮』に帰ったらまた作るよ」
「うん」
と、微笑みを見せるコーデリア。
「あ、そういえば、今日は先に寄るとこあるんだった。どうする? 先に戻ってる?」
「どこに寄るの?」
「俺が弟子入りしてる鍛治師のところ」
「鍛治師? また熟練度を上げるため?」
コーデリアもそろそろイルミの行動理由が想像できるようになっていた。
「うん。昔からお世話になっている所なんだ。まぁ、俺に初めて鍛治を教えてくれてた先代は引退しちゃったから、今は別の人から教わってるんだけど」
「鍛治は昔から教わってるんだ」
世代が変わるくらいにはイルミは鍛治について教えてもらっているようで、その経験も長そうだとコーデリアは予測する。
「そうだね。親父の行きつけの鍛治師のとこだったからツテがあって紹介して貰いやすかったてのはあるかな。他にも親父のツテで弟子入りさせて貰ってるとこも多いかな。そこは親父の人脈には感謝かな」
世界の英雄にもなろう男は国の至る所にコネの根が張ってあるようで、熟練度によってステータスを上げているイルミにとって、その人脈を活用出来るのは不幸中の幸いといった所だった。
実際、鍛治もそうだが『双児宮』もイルミの父親の昔馴染の店で働かせて貰っている訳だ。ただガムシャラにしていただけでは今のステータスには辿り着いていないだろうなとコーデリアは思う。
「イルミの一番得意なものってなんなの?」
「ん? それは冒険職の話を抜きにしてって事?」
冒険職の話を抜きしてという言葉にイルミが冒険者としての自覚と自信が窺える。正直、底が見えないイルミの得意な冒険職の話は聞きたかったが、質問の意図としてはイルミのいった通りであったのでコーデリアは「そう」と答える。
「まぁ料理かな」
「あ」
思わず出たこ声と納得といった表情のコーデリア。昨日の賄いでイルミの料理を食べたコーデリアにとってこれ以上に腑に落ちる回答はなかった。
「上手だもんね、料理」
「いやいや、まだまだだよ」
謙虚そうに装うが、料理を褒められる事は嬉しいらしく顔が綻んでいる。
「私も料理してみよう……かな」
せっかく『双児宮』で働かせてもらっているのだから、色々と経験をしたいとコーデリアは思う。ただ、先程の錬金での失敗が頭にチラつく。イルミは失敗しても諦めない事だと言ってくれてはいるが、単純に教わる時間と作る際の材料をまた無駄にしてしまうのではないかと言う気掛かりがコーデリアにはあった。
「俺が教えるよ。教えるのも経験のうちだから」
コーデリアの気掛かりとは裏腹にノリノリなイルミを見てコーデリアは少し安心する。
――ガサガサ、ガサ。
「ん?」
ノンビリとして空気に水を刺すように、草原の草を掻き分けながら何かが近づいてくる事に二人は気づく。
招待の分からない何かに対して二人は急いで立ち上がる。こんな平和そのものの場所で危険があるとは思ないが、急速に接近する何かに対して自然と防衛本能を働かせてしまう。そして
――ガサッ!
と、遂には二人の前に飛び出してその姿を表す。
「……チースタル?」
「え、なんでここに?」
目の前に飛び出して来たのは魔物の中でも最弱と謳われる兎のような見た目の魔物のチースタルであった。
チースタルは人間を怖がり避ける習性があるため、このように自分から人間の前に現れるという事はかなり珍しかった。
突如現れた最弱の魔物を相手に拍子抜けしたコーデリアは戦闘態勢を解く。しかし、それとは逆にチースタルは後ろ脚に力を溜め踏み出す体勢を取った。
「は? ちょっ! リア! 避けて!」
「え?」
子供でも倒せるとまで言われている、たかがチースタル一匹の突進に今更なんの危機も感じていなかったコーデリアは突然焦ったように叫ぶイルミに驚き気を取られる。そして、もう一度チースタルに注目しようとした時にはチースタルは視界から消え、代わりに強い衝撃がコーデリアの腹部を遅い後に吹き飛ばされる。
「かはっ」
と、攻撃された衝撃で体の内から声が漏れるが、しっかりと受け身をとり体勢を持ち直す。しかし、コーデリアの頭の中はパニック状態であった。
何をされた? 誰にやられた? さっきのチースタル? チースタルからダメージ? どういうこと? いや、それよりもーー
「イルミ!?」
ピースゾーンで起きた不測の事態。自分の守護するべき対象に危険が及んでいるこの状況でイルミの事をまず確認するコーデリア。
「落ち着け、落ち着けよ」
いつの間にかコーデリアとチースタルの間に入るイルミは落ち着けと言ってチースタルに近づいていく。
「ダメ、イルミ! そいつ普通じゃない!」
コーデリアを吹き飛ばした時点でただのチースタルではない事はイルミも理解しているはずだが、イルミは武器も持たずにそのチースタルに近付いて行く。
そして何もない所からイルミの手元に小さな焼き菓子が一つ現れ、それをチースタルに差し出す。
「え、うそ……」
懐くことがないと言われていた魔物であるチースタルがイルミが渡した焼き菓子をポリポリと食べ始めたのだった。そして、食べ終わると更に信じられない事に甘えるようにイルミの手に顔を押し付け始めるのであった。
「イルミ、それって」
驚きを隠せないコーデリアは振り絞って今思う最大の質問を投げかける。
「【調教師】?」
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