学外授業
第16話です!
「気まずかった……」
イルミは思わず口に出してしまう。
シャミアが激怒した後に教室に戻ったイルミだが、教室の席は固定されているため、隣の席には激昂状態の幼馴染が座っていた。話しかけるなオーラを全開にした彼女に事情を話ことも出来ず、結局、コーデリアとコンビを組まされた理由も話すことができないままであった。
「今日が学外授業の日で助かったかも」
野外授業は週に2回あり、学校外から出て、魔素が多い場所へと赴き魔物と戦闘し実践経験とエクスを習得するための授業の時間であった。
つまり、イルミにとって教室にいる時間がホームルームのみで短いこの日は不幸中の幸であると言えた。
「それで、リアは俺について来て良かったの? こんな所じゃ魔物との戦闘もないしエクスも得る事もないよ?」
「構わない。今は貴方が普段どんな事をしているのか知る方が大事」
「それならいいけど」
イルミ達は現在、『ピースゾーン』に認定されている学校近くの草原にいた。ピースゾーンとは、魔素の量が少なく魔物が湧きにくい場所を指しており、国や街はこのピースゾーンを中心に栄える事が殆どであった。
そしてイルミが野外授業にも関わらず魔物が殆どいない『ピースゾーン』にしか行けないのは、彼が【Lv.1】だからであった。【Lv】が高ければそれに見合った危険度の場所まで連れて行って貰う事が出来、逆に低ければ相応の場所にしか行く事が出来ないという事であった。
つまり【Lv.1】のイルミが行ける場所などどこにもなく、仕方なく学校近くの草原で時間を潰させられていると言う訳であった。他の場所では生徒達の安全を見守るためにも教師が付いているのだが、イルミに限り安全な地域にいるため誰も教師が付いていないのであった。
「でも、学外授業の日に俺がやってる事なんて地味なものばかりだけどいいの?」
「いい、もし貴方が邪魔だと言うなら遠巻きに見てる」
「別にいいよ。邪魔になるような作業もないから。なんなら手伝ってくれる?」
「手伝い?」
「イルミこれは?」
「毒草だね。かぶれるからあまり触らない方がいいよ」
「イルミこれは?」
「毒草だね。これを調合したら痺れ薬になるね」
「イルミこれは?」
「……毒草だね。上手く錬金出来たら簡単な解毒薬にもなるね」
と、コーデリアは先程からそこらに生えている野草ばかりをイルミに持っていっては訪ねている。
「この辺、毒草ばっかり」
「いや、そんなことないはずなんだけど……」
先程からコーデリアが持ってくるものはどこか禍々しさを感じる野草ばかりである。
「詳しいねイルミ」
「【採取】系の【技術ステータス】を獲得するのに必要なのは、その採取するものに対する知識だからね。それにこの辺の野草は一年の時から飽きる程見てるから……」
一年の頃からレベルの変らないイルミは野外授業の場所が変わる事がなく、ずっと同じ場所で野外授業を受けているためこの周辺についてはイルミが誰よりも詳しかった。
「大体、こんなものでいいかな。近くに小川があるからそこに移動しよう」
「わかった」
イルミは採取した野草をどっさり持って小川へとむかう。そんな大量に摘んでいてはいつかこの辺りの野草が全部なくなるのではとコーデリアが思ってしまう程であった。
コーデリアが何となく良さげに思う野草を摘んでいる間に、イルミは慣れた手先で目当ての野草を見つけては刈り取っていっていた。
流石に入学したころからこの草原に入り浸っているだけあって、何がどこに群生しているかは知り尽くしているようであった。
「あ、チースタル」
二人で小川に向かっている最中にコーデリアが何かに気付いたようであった。コーデリアの視線の先には兎のような見た目の小動物がそこにいた。魔物であった。
「どうせ無害だから無視しよう。リアのレベルなら今更チースタルを倒してもレベルアップの足しにもならないでしょ」
『ピースゾーン』とは言え魔物が全くいない訳ではない。微量の魔素があれば魔物はそれを糧に沸く事が出来る。ただ、沸く魔物の数も少なく弱く人に害をなす事もあまりない。
ただ小動物のような可愛らしい見た目をしているが、魔物は魔物であり人に懐く事がない。チースタルは自ら害をなす事はないが不用意に近くと牙をむく。
とはいえ、チースタルは魔物の中で最弱なため襲われたとしても、子供でも返り討ちに出来る強さであった。
そんな魔物しかいないからこそ、【Lv.1】のイルミがここに放っていかられる理由でもあるのだが。
二人は小川につくと野草を脇に退ける。するとイルミは持ってきていたリュックを下すと中から、フラスコやすり鉢、ビーカー、アルコールランプなど小道具を取り出していく。
「何するの?」
「錬金だよ」
あらかた、準備が終わったイルミは横で流れている川から水を汲んでくると、摘んできた野草をすり鉢に入れて細かくすり潰し始める。
「何を作るの?」
「回復ポーション。この辺りで取れる薬草じゃ、そんなに良質なものは作れないけど」
説明しながらもイルミは手を止めることなく続ける。
何の知識もないコーデリアはイルミがビーカーの中に薬草の粉末を溶いたり、自分で用意していた何か液体を混ぜたり煮たりなんだりしているのを横で見ていた。
冒険者とは無関係そうな事でもイルミが強くなるために必要な事である。こうしている間にもイルミは一歩ずつ強くなろうしている事をコーデリアは自覚する。
「錬金をすると何が強くなるの?」
技術と職業の熟練度を上げるとスキル以外にステータスを上げる事が出来る。イルミはそのステータスを得る事を目的として冒険職とは関係のない作業をしている。
「『魔』と『器』の能力かな。調合する時の配合とか手先の器用さ求められるし、魔力を込めて生成する錬金もあるからね。ただ【上級錬金術師】クラスにならないと魔力を込めるアイテムはほとんど作れないだろうけど。俺はそこまで極めるのは難しいだろうな」
冒険職を目指す代償。何でも一つの事を極めるのを諦める事で冒険者という道を切り開くのだった。
「あれ、これだけ色が違う」
イルミは錬金で作った回復ポーションを出来上がりしだい細い円柱のガラス容器に移していく。コーデリアはその移し終わった中に、緑色の液体の中に一つ色の違う青色の回復ポーションを見つける。
「色の違う奴は他のポーションよりも効果が少し高いんだ。【効果上昇】っていう【錬金】のスキルのおかげだね。一定の確率で錬金したアイテムの質を上げる事があるんだ」
熟練度を上げて得られる恩恵はこういったスキルにある。ステータスだけではどうしようもない能力を得られる事が最大のメリットであった。
「えっと、リアもやってみる?」
何もしないでただ見て貰っているのが申し訳なく思ったのか、イルミはコーデリアにそんな提案をしてみる。
「いいの?」
「うん」と言ったイルミはコーデリアが横に入れるだけのスペースを空けると、バイトの時に仕事を教えるように錬金術を教えようとする。
「【錬金】のスキルを持ってないけど私にも出来るの?」
「錬金自体はスキルがなくても出来るよ。じゃないと熟練度も上がらないしね。じゃあ、ちょっとやってみようか」
そうやってイルミは自分がやってきた手順通りに調合、錬金をコーデリアと共に始めていく。全く同じ手順で全く同じようにしたイルミとコーデリアだったが……
「……これは、【効果上昇】の影響?」
出来上がったのはスタンダードな色の緑色ではなく真っ黒のポーション。
「いや、これは失敗だね。飲んだら絶妙な副作用があるから罰ゲームで重宝されるアイテムだね」
「失敗……」
「ま、まぁ、初めてだったから、もう一回やってみようよ」
落ち込んでいるリアを励ますようにイルミは切り替えて、もう一度挑戦してみようと提案する。
「…………」
「…………」
しかし、何度やっても並ぶのは真っ黒のポーションだけであった。
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