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イルミの努力

第12話です!

「大分、落ち着いてきたからイルミとコーデリアは休憩に行ってきな」


 慌しかった『双児宮』もピーク時に比べて客もまばらになり、まったりとした落ち着いた雰囲気が店内に漂っている。


「そういやイルミ、今日はお目当ての人物が来てるよ」


 と、一人カウンターで飲む初老の男を目配せで指す。


「あ、本当? ルリさん、ちょっと話してきてもいい?」


「失礼のないようにね」


 了承したルリに「ありがとう」とお礼を言うとさっさと初老の男の元へとイルミは向かっていった。


「あれは、誰?」


 一緒に休憩をもらったコーデリアは不思議そうにイルミの様子を見る。


「何でも有名な建築士らしいよ。王宮の建築にも携わっていたとか。さっき酒飲みながら気が良さそうに話してたよ」


「建築士……? イルミは建築に興味があるの?」


「それは直接本人に聞いてみな……それとコーデリア、守るべき相手を知るって事も騎士として大事な事だと私は思うよ」


 そういうとルリは厨房に引っ込んでいってしまった。


「守るべき相手を知る事……」


 そういえばまだ何もイルミについて知らないとコーデリアは思う。シンドレア学長の息子で【Lv.1】から上がらないという噂くらいは聞いた事がある。でもそれくらいの事だった。


 コーデリアはイルミを守って欲しいと言われた時、【Lv.1】なのに冒険職を目指す無謀を言う彼を怪我のないよう守ってくれという彼の父から彼を託すという意味だと思っていた。


 正直、その考えは今でも変わらないが、確かにイルミの事を何も知らない。


 少し目の話した隙に仲良さげに建築士の男と会話しているイルミの姿を見る。


 とりあえず、彼について分かる事は、接客の様子を見てもイルミはコミュニケーション能力がかなり高い。





「何を話していたの?」


 建築士の男と話が終わって帰ってきたイルミにコーデリアは話しかける。


「ん? いや、今度建築の仕事を教えてくれないかって頼んでました」


「イルミは建築の仕事に興味があるの?」


 最もな疑問のように思える。冒険職専門の学校に所属しておきながら建築の仕事を教わろうとしてるイルミの行為はコーデリアにとって本当に謎であった。


「えっと、興味があると言えばあるんですけど……」


「イルミは冒険職を目指してないの?」


 会話のクッションも何もなく聞きたいことをそのまま質問するコーデリア。あまりに単刀直入に質問イルミとは対照的にコーデリアは人との会話が下手のようであった。


「目指してますよ。その為にですよ」


「冒険職になる為に建築の仕事が必要なの?」


 何を言っているのか分からないと言うように首を傾げるコーデリア。


「俺には必要なだけですよ。レベルが一つも上がらないんで」


「レベルが上がらないと建築士の仕事が必要になるの?」


 サバイバルに必要なスキルを取るのは分かるが、建築のスキルをわざわざ冒険職の人間が必要とするのはコーデリアは過分に聞いた事がなかった。


「えっと建築というか、【技術ステータス】と【職業ステータス】が必要なんです」


「【技術ステータス】と【職業ステータス】……? それってーー」


「俺はレベルアップでステータスが上がらないんで、熟練度ボーナスでステータスを上げてるんですよ」


 ステータスを上げる方法は二つ、レベルアップに熟練度ボーナスの二つ。しかし、熟練度ボーナスをステータス目当てで上げる事はまずなく、スキルを獲得するためのおまけみたいに考える事が多い。それだけ、熟練度ボーナスで貰えるステータスは微量なものであった。


「そんな方法で本当に強くなれる? レベル1でも?」


「これしかないんですよ俺には。冒険者の世界はレベル重視社会なんて言ってますけど、結局、実力の全てはステータスと自身の技量ですから。ステータスを上げるために俺は一を極める事を諦めたんです」


 つまり全く冒険職に関係ない建築士の仕事を教わろうとするのも、ステータスを上げるため。冒険職で成り上がる為の【Lv.1】なりの工夫。


「もし良かったら、イルミのステータスを聞いてもいい?」


「いいですよ、今日もらった通知表がカバンにあるはずなんで」


 そう言って、バックヤードに向かったイルミはすぐに一枚の紙を持ってコーデリアに見せる。


「これは……」



【ステータス】

『力』50『耐』42『速』45『器』67『魔』55



「……凄い」


 コーデリアの口から自然と言葉が溢れる。とても【Lv.1】のステータスとは思えなかった。それどころか、同じ学年の生徒であればトップクラスと言える程、高水準のステータスであるようにコーデリアは思う。


「これを全部、熟練度を上げただけで?」


「そうですね」


 ステータスの近くの欄にある【Lv】の欄にも【Lv.1】と記載されている。信じられない事だが本当に熟練度を上げるだけでステータスを上げているようであった。


 一体どれほどの数の熟練度を上げたのだろうかとコーデリアは思う。【Lv.1】のステータスなんて一桁、よくて10と少しくらいの値しかない。それをここまで上げたイルミの努力は聞かなくても伝わってくる。


「……こまでして?」


「ん?」


 コーデリアの独り言のように小さな声を聞き取れずイルミは聞き返す。


「どうして、ここまでして冒険者になろうとしてるの?」


 冒険者じゃなければ、この努力を他に向ける事が出来れば彼はどんな職業に就いたとしても大物になっているとコーデリアが確信出来るくらいにイルミの努力を認めている。しかし、それは冒険者の道を選ばなければの話。


 ここまで努力をしても【Lv.1】であるが故に蔑まれ、ステータスは高いと言っても並よりも上くらいの値。しかも熟練度はレベルと同じで上がれば上がる程、ボーナスも貰いづらくなる。いつかステータスの頭打ちがくる。


 それはイルミも分かっていない訳がないはずだった。


「俺は英雄になりたいんですよ。誰も彼もを救える英雄に」


「英雄……? 貴方のお父様のようなって事?」


「そう言われると否定したくなるんですけどね……。まぁ、親父の影響がない訳でもないんで否定も出来ないんですが」


 と少し照れ臭そうにはにかむイルミ。


「別に親父に限った話じゃないですよ、物語の主人公でも、歴史上の偉人でも、その人達が生み出す英雄譚ってのはカッコよくて憧れるじゃないですか」


 と語るイルミの目は今までで一番活き活きしている様にコーデリアには見えた。


「カッコいいって理由だけで英雄になりたいってこと? 英雄に憧れてるからレベルが上がらないのに冒険者を諦めないってこと?」


「逆境を打ち破ってこその英雄じゃないですか。むしろレベルが上がらないのは英雄になる為に好都合だって今は思ってますよ」


 混り気が一切無い、本当にそう思っていると感じさせる堂々とした答えだった。


 コーデリアは思う。自分が同じ状況に立たされた時ここまで堂々と夢を語れるだろうかと。


 恵まれた環境に恵まれた体質。それに怠らず努力も人一倍以上にしてきた自覚はコーデリアにもあった。


 コーデリアにも彼女の祖母のような【聖騎士】になるという夢がある。


 しかし、目の前の彼ほど自分は夢に向き合えていただろうか、彼に負けていないと自分は胸を張って言えるだろうかと、コーデリアは考える。


「私、貴方に会えて良かった」


 思考の先、イルミに対してそんな台詞をコーデリアは言う。イルミは急にそんな事を言われて驚きで固まってしまう。


「イルミ、敬語は辞めにしよ? 私達はパートナーなんだから」


「だからそれは違――うとも言えないのかな……?」


 変に意識してしまったせいで気になってしまったが、タッグマッチを組む以上パートナーなのは間違いない。


「パートナーなのに敬語は確かにおかしいかも。でも、他所でパートナーって言うのは辞めて欲しいんだけど?コーデリア……さん?」


 敬語を使うのは辞めたが彼女の呼び方に若干迷うイルミ。


「リアでいい。仲の良い人は皆そう呼んでる」


 「他に仲の良い人がいるんだな」と口に出しそうになった言葉を飲み込み


「うん、よろしくリア」


 とイルミが言う。二人の結束が固まった瞬間だった。


「あ、そうだリア。好きな食べ物ある?」


「好きな食べ物?」


「仕事終わりに賄いを作るのは俺の仕事なんだよ」


読んで頂きありがとうございます!毎日21時に投稿しているのでブックマークを押して頂けると嬉しいです!またYouTube『熱き漢たかの熱唱熱遊ch』にてゲーム実況をしていますので良ければ遊びに来てください!

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