『双子宮』開店
第10話です!
「い、いらっしゃいませ」
来店してきた一人の男性客にコーデリアの辿々しく挨拶をする。
「お、なにルリさん、新しい子? いつからこんな可愛い子雇ってたの?」
「今日からだよ、若いのに手を出したらぶっ飛ばすからね」
「怖い雇い主だねぇ。お嬢ちゃん、名前はなんて言うの? 席に案内して貰ってもいい」
「コーデリアです。カウンターの席にどうぞ」
そう言って、コーデリアはカウンターの席へと客を誘導する。
「何が案内してだスケベオヤジ。いつも決まった席に座る癖に」
「偶にはいいだろ。俺だって少しくらい若い女の子に構って貰いたいんだよ」
と、ルリと男性客が話している声が聞こえる。話の内容的にどうやら、男性客はかなりの常連のようであった。
「どうだった?」
無事に初めての接客を終えて帰ってきたコーデリアは二人に出来を問う。
「ちゃんと出来てたと思いますよ」
「バッチリ、バッチリ! ちょーと笑顔が足りないかもだけど」
無表情に固まっている口角をリディアは2本の指で引っ張り上げる。
「ほら、可愛い。それで接客した方が何倍もウケがいいってものよ」
パッと、リディアが指を離すとコーデリアは触られていた頬の部分をさする。
「笑顔……」
そう言ってフニフニと柔らかそうな頬を自分で引っ張るコーデリア。
「あ、いらっしゃいませ!」
そんな話をしている間にも5人のグループ客が入店してきた。
「もう一回案内してみようか。あのお客さん達は、あそこのテーブルに案内してあげて。次は笑顔を意識してね」
コクリと頷いたコーデリアは「笑顔……」と再び呟いて客の所へ向かう。
「いらっしゃいませ、あちらのテーブルへどうぞ」
先程と同じように接客をするコーデリア。しかし、何故か客からは「ひっ」と小さな悲鳴をあげている。席に向かっている客がヒソヒソと何かを話しており、その中に「ルリさん、また変な子雇ったなぁ」と言う声も聞こえてきた。
「大丈夫だった?」
また出来を聞いてくるコーデリアに対してイルミは客の反応を鑑みて「あーえーと」とつい濁してしまう。
「えっと、コーデリアちゃん、どんな顔をして接客したのかな」
「こんな感じ」
と、接客をした時の表情と同じ顔を作ってリディアに見せる。
「…………」
無言で苦笑いを浮かべるリディア。イルミもコーデリアの表情を確認しようとしたが、いつもの無表情に戻ってしまっていた。
「うん、笑顔で接客するのは仕事にお慣れてからにしましょ!」
気持ちを切り替えるように、パンと手を叩いて爽やかな笑顔でリディアは言う。
「わかった」
と、コーデリアも了承するが、リディアがなぜそんな事をいったのかまでは理解出来ていなさそうであった。コーデリアの表情の確認が出来なかったイルミは気になって、ただモヤモヤするだけであった。
開店から少しすると客もどんどん増えていき、『双児宮』の中はついには満席状態になっていた。
コーデリア以外のスタッフはテキパキと仕事をしており、何の焦りも感じさせない。この状態がこの店の通常運転のようであった。
それでも、忙しい事に間違いはないようで、コーデリアに丁寧に仕事を教える時間もないようであった。
「コーデリアちゃん、これあそこのテーブルに運んでおいて!」
「はい」
「コーデリアさん、あそこのテーブルの食器を下げて貰ってもいいですか?」
「はい」
そんな忙しい中でも簡単な仕事をコーデリアにお願いして、仕事に慣れさせようとする気遣いが見える。
コーデリアも初めての経験ながら、簡単な仕事を振られているとはいえ、そつなくこなしているようであった。しかし、そんな中、
「おい、いつまで待たせんだよ! 俺たちここに来てから結構な時間経ってるぞ!」
と、満席だったため待たせていたガラの悪そうな客達からコーデリアに対して文句が飛ばす。
それを聞いたコーデリアがその客達に対応しようとすると、
「私が対応するからコーデリアちゃんはイー君と一緒にテーブルの片付けをしてきてちょうだい」
と、ウインクをしてガラの悪い客の元へとリディアは向かう。
「申し訳ありませんお客様。ただいま準備しているので少々お待ちください」
コーデリアと交代に対応したリディアは愛想良く接客を始める。
「ここは酒場なんで、あんな客も来たりするんですよ」
リディアに言われた通り、片付けにお手伝いに来たコーデリアにイルミは言う。
「とは言っても、他の酒場に比べてウチの客層はかなり落ち着いている方なんですけど……今日は運が悪かったと思ってください。大丈夫、リディ姉が何とかしてくれますから」
そう言いながら、ドンドン食器を纏めて片付けるイルミ。その手際の良さはコーデリアがほとんど何の手伝いも出来ない程であった。
「じゃあ、このテーブルこれで拭いといてくれる?」
とコーデリアに台拭きを渡すと、イルミは大量に積まれた食器を持ち上げる。奇跡的なバランスを保つ食器達は落ちる事なくイルミの手によって運ばれていく。
「リディ姉! もういけるよ!」
食器をキッチンに運び終えたイルミはコーデリアが机を拭き終わったのを見て、客の対応をしていたリディアに合図を送る。
「大変お待たせ致しました。こちらへどうぞ」
それを聞いたリディアが短時間の対応せいで、愛想の減った笑顔で客の案内を始める。
「やっとかよ、散々待たせやがって。サービスの一つもあるんだろうな姉ちゃん?」
「ひゃっ」とリディアの小さな悲鳴上がる。客のい一人がリディアの尻を撫でたようであった。そのリディアの反応を見た同じグループの客もニヤニヤとげ下卑た笑みを浮かべている。
「そういったサービスはございませんので〜」
一応、笑顔ではあるがピクピクと眉が動いているリディア。
「リディ姉に手を出す命知らずまだいたんだ……」
と、イルミは「うわぁ」と言った様子でそう漏らす。コーデリアは「命知らず」という言葉に反応して首を傾げていた。しかし、何事もなく席に案内したリディアが帰ってきたので余計に言葉の意味が分からなかった。
「あれ、リディ姉、怒らなかったんだね」
「コーデリアちゃんもいるから抑えたわよ。あれでキレてたら示しつかないし……あ、でも、コーデリアちゃんが何かされたら絶対にお姉さんに言うのよ! その時は容赦なくぶちのめしてやるから!」
「ぶちのめす……?」
イメージしていたリディアに合わない言葉ばかりで困惑するコーデリア。
「おい、注文だ! 早く聞きに来い!」
さっきのガラの悪い客が荒っぽく呼んでいる。
「あの席は俺が対応するから、リディ姉もコーデリアさんも別のお客さんをお願い」
「全然、私も対応するのに……イー君ばっかり無理させたくないわ」
「リディ姉、もし次何かされたら絶対耐えられないでしょ? コーデリアさんに不甲斐ないとこ見せたくないんでしょ?」
「そうだけど……」
「おい、早くしろ!」
注文を取りに、急かす声が聞こえる。
「はい! 今行きます!」
結局、イルミのゴリ押しでガラの悪い客を対応する事を決めたイルミ。「ちっ、なんだ男かよ」と、第一声から不穏な不満が聞こえてくる。
「大丈夫かな、イー君」
と、不安そうにするリディア。その不安な思いはコーデリアもしっかりと感じていた。
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