プロローグ
手に取って頂きありがとうございます!以前書いたレベル1の英雄から設定をいくつか持ってきているので類似している個所はありますが内容は違うものとなっております。ご了承くださいませ!
教室に立つ女性は教壇に軽く手に持った紙の束をトントンと叩く。
女性だがその格好は黒い紳士服を着用しており、スラリ伸びる高い身長に立ち姿がやたらとカッコよく映える。
「それじゃあ、今月の通知表を返すから名前を呼ばれた奴は前に取りに来て」
少し気怠そうに彼女がそう取り仕切る。
「アルノート」
呼ばれた女生徒は軽く「はい」と返事をして自分の席から教壇へと向かい女教師が持つ紙束の一枚を受け取ると再び自分の席へと戻っていく。
その後も次々と生徒達の名前が呼ばれては同じように教師から紙を受け取りにいく。
男子はスラックス、女子はスカートという違いはあるが、生徒達は黒を基調とした制服を着ている。生徒達の中には制服を着崩しているものもおり、服装に対して厳しい規則はないようであった。
「グランデ」
「はーい」
クラスの誰よりも制服を着崩したその女子生徒は間伸びした返事をして立ち上がる。栗色の髪を人差し指でクルクルと遊びながら少女は担任の元へと向かう。
そして担任の元に着くとニヤニヤと生意気混じりの笑顔をむけ
「ねえねえ、エルシアちゃん。どう? クラスで一番高い数値、私だったでしょ?」
「シャミア、受け取ったら黙って席に戻りなさい。あと先生をつけなさい」
「はいはいー」
そっけなく返されるもシャミアと呼ばれた少女はヒラヒラと手を振って満足そうに席に返っていく。
席に戻る途中に既に貰った中を確認「うわ、23かー」と少し不満げな様子でぼやく。
その後も続々と呼ばれていく生徒達の中で「ハートネット」と呼ばれた金髪の少年は低い声で返事をする。
少年の目はやけにギラつき、他の生徒よりも何か執念深いものを感じとれる。
「おい、レオン23だってよ」
先ほど担任から「ハートネット」と呼ばれた金髪の少年の事をレオンと呼んだ男子生徒はニヤニヤとしながら、先ほどシャミアが呟いていた数字をレオンに伝える。
「うるせえ」
と素気ない態度で返しそのまま教壇へと向かうレオン。
エルシアから受け取った紙の中身を見たレオンは「ちっ」と舌打ちを漏らし苦い顔をする。教室の何人かはその表情の訳を知っているのか「あー」と何かを察した顔をしている。
レオンは机の上で頬杖をつき不機嫌さを露わにしていた。
「シンドレア」
その名前が呼ばれた途端、レオンの顔つきがさらに険しくなる。
シンドレアと呼ばれた少年はゆったりと立ち上がって教壇へと向かった。
「ちっ」
と、舌打ち。丁度、レオンの横を少年が通ったその時だった。嫌悪感を一切隠す素振りを見せない所か、寧ろ嫌悪感をぶつけるような態度である。
レオンほど露骨ではないにせよクラスにいるほとんどの生徒達もその少年に対する視線は冷ややかである。
そんな視線や仕打ちを気にしていないのか気付いていないのか飄々と担任から紙を受け取ると席に戻る。
「なぁ、いつまでここにいるんだよ? レベル1の雑魚が」
席に戻ろうと再び戻ってきた少年に向かってそう言った。
少年は何も言わずにその横を素通りしていく。
その無反応さが気に食わないのかレオンは再び舌打ちをしてそっぽを向く。
「ねえねえイルミ? いくつになってたの?」
少年が自分の席へと戻ると隣の席の生徒が、レオンとは全く対照的で友好的な態度で少年に話しかけてきた。シャミアだった。
「わかってて、聞くなよ……」
「あはは」と揶揄うように笑うシャミアに、レオンの時とは違い、苦いながらも反応を見せたイルミと呼ばれた少年。
「はいはーい、それじゃあ全員に通知表は渡ったかしらー?」
手元に紙が残ってないのを確認した担任のエリシアは教室を一周するように教室を見渡す。
「うん、それじゃあ私から少しだけ」
教卓に手を着いたエリシアは慣れた口調で喋り始める。
「多分、君らは今貰った通知表にある【Lv】の欄で一喜一憂すると思う……うん、それは決して間違いじゃないわ。冒険者として、プロの冒険者を目指す君たちにとってそれは当然で、むしろ持っていなきゃいけない感情よ」
――でも、とエリシアは付け加える
「レベルはあくまで強さの指標。今の貴方達は冒険者として成長期だから戦えば戦うほど強くなる時期よ。だからと言ってがむしゃらに戦ってレベルを上げても大人になった時に頭打ちになる。でも、そうはさせないために私達教師がいる。君達には技術、知識、経験に基づいた本当に強い冒険者になって欲しいの」
――このシンドレア学院で。
そう言って1−B担任、リリ・エルシアは授業を締めた。
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