第40話 王家主催のパーティで爵位と領地を貰った・後
「皆、よく来てくれた。面を上げよ。」
チャールズ陛下の言葉に皆が顔を上げる。
「皆、大いに楽しんでいってくれ。」
陛下は持っていたワイングラスを掲げたので、皆もワイングラスを掲げた。私も彼等を見習ってワイングラスを掲げる。
一口ワインを飲むと秋月で卸しているワインだと気付いた。
「これは美味しいですね。」
750mlで2000円と安いの上に上品な味わいが楽しめるワインだ。
「もしかして噂の秋月のワインではないかしら?」
そこかしこで秋月の話題が出てくる。
「ヒヨリ、このワインは君の所で卸しているワインなのかい?」
公爵の言葉に
「ええ、普通のワインよりは多少値が張りますが、我が国でも美味しいと評判だったので仕入れをした物です。王宮から購入の打診があったのは聞いていましたが、パーティに出されるとは思ってもみませんでした。」
私も王宮で秋月のワインが飲めるとは思わなかったと伝える。
料理を食べるも秋月で出している料理より格段に劣るため美味しいとは感じなかった。
「料理は秋月の方が美味いな。伝統料理は…うむ、何でもない。」
公爵の呟きに伝統料理を食べてみると不味かった。香辛料の使い過ぎな料理に舌が麻痺してしまう。
「秋月に食べにいらしたんですか?」
「ええ、予約が中々取れなかったけど、食べに行ったわよ。あのミニシアターがとても面白くて、ホテルの予約もしているところなの。」
楽しみだわ、とイザベラの言葉に
「仰って下されば枠を開けましたのに。」
私が提案する。
ホテルは予約とは別に空室を3部屋確保しているので招待するのは問題はない。
「それだと他の人に悪いわ。きちんと順番を待ちます。」
マリアの言葉にイザベラはがっかりとした表情をした。
こうして秋月の話題で盛り上がっていると
「ヒヨリ・ヤマト・二ホンよ前へ出よ。」
国王の呼び出しに私はワインを置いて前に出た。
「そなたが、ヒヨリか?」
値踏みするような視線にニッコリと笑顔を浮かべる。
「はい、私の名はヒヨリ・大和・日本と申します。アシュヴィッタ王国の太陽に相まみえました事、嬉しく思います。」
最敬礼をすれば、周囲より溜息が零れた。
お辞儀によって見える着物の柄が美しく映えたのだろう。
「そなたには頭を悩ませていたスラム街を改革してくれた恩がある。またそなたの齎す学校という機関は、英知の結晶になるだろう。我が国は今どの世界よりも発展の兆しを見せている。そなたが齎してくれたお陰だ。礼として褒美を与えたいと思う。」
チャールズ陛下は
「そなたには伯爵位を授けリブラ・スプラウト領を治めよ。」
皆に聞こえるように宣言した。
平民の私に伯爵位を授けるということに騒めきが会場内で起こる。不満な声が上がる前に
「日本国の皇女であるそなたを我が国の民として迎えたいと思っている。」
サクっと偽設定をバラしてくれた。
騒めく会場内に私の表情は引き攣っていたと思う。
「皇女であるそなたを伯爵という身分で迎え入れるには身分が低すぎると思う。そなたの国との交易が出来れば爵位を上げることもできるが…」
「陛下、発言の許可を頂けますか?」
「構わぬ。」
「私は確かに日本国第一皇女でした。ですが、後継争いを恐れて継承権を返上し、国を出た身に御座います。私の商会で取り扱っている品々は確かに私の国から仕入れた物ですが、交易となると国から目溢し出来なくなります。また伯爵位は私には分不相応かと…」
高位の爵位に寄ってくる馬鹿共の相手をしたくないと暗に言葉で示すも
「そのような事はない。そなたの商会に売りに出している商品は国外でも高い評価を得ている。それはこの国の注目を一気に高めたのだ。本当であれば侯爵位を与えたいぐらいだ。」
取り合って貰えなかった。
仕方ないので私はプレゼントで王家の後ろ盾を貰う事にしよう。
「伯爵位を有難く頂戴致します。つきましては私から王家に贈りたい品物が御座います。」
空間魔法から取り出したのはアダマント素材の魔剣イーリアスと日本で私用に購入していた真珠のネックレス、イヤリング、指輪のセットに毒無効化のネックレスだ。
「こ、これは素晴らしい!王よ、魔剣ですぞ!しかもアダマント素材の!」
魔剣に興奮する鑑定師は
「シーラ地方の迷宮攻略者が稀に手に入れる事の出来る秘宝ではありませんかっ!」
凄く興奮していた。
「毒無効化のネックレスも貴重ですわ。それにしてもこのように丸く美しい真珠のネックレスや指輪が存在するとは思いませんでした。」
王妃の言葉に皇后が頷いた。
「ヒヨリよ、このような貴重な物を良いのか?」
「確かに貴重かもしれませんが、魔剣は機会がある時に迷宮に潜れば良いことですし、宝石は我が国の特産ですので問題はありません。これを贈る代わりにお願いがあるのです。」
魔剣に釘付けになっている王。
「お願いとは何だ?」
多少の警戒を見せる彼に
「難しいお願いではありません。私が私の意思で婚姻相手を選ぶ事を許可して頂ければ良いのです。私への求婚を禁じて下さいまし。婚姻を結ぶ際は私から申し込みしますわ。勿論、今後私が婚姻しない場合も良しとして欲しいのですわ。」
政略結婚ノーセンキューと伝えれば
「良いだろう。その願い朕の名の下に願いを聞き届けよう。聞け皆の者!ヒヨリ・ヤマト・二ホンに求婚することを禁ずる!」
あっさりと許可を出してくれた。
これで貴族達からの婚姻の申し込みは無くなった。
「してヒヨリよ、元スラム街に立てている神社とは何だ?」
「神社とは私の国の神を祀った教会のようなものです。厳しい戒律はなく、自由に信仰することが可能です。学を学ぶ寺子屋や治癒院なども併設しております。」
神社を簡単に説明すると
「ふむ、教会と揉めるのではないか?」
チャールズ陛下は教会との揉め事を心配しているようだ。
「それには及びません。女神ユーノー様より信託によって建てられたものです。女神ユーノー様を崇めている教会が神社を排すれば神の威に背くことになるでしょう。それに神社ではステータス確認や祝福を授けることが出来ません。住み分けがきちんと出来てますのでご安心頂ければ幸いです。」
心配すんなと言えば彼は納得したようだった。
基礎化粧品を王室御用達にして欲しいとか、携帯食料を軍に卸して欲しいなど色々と注文を貰った。化粧品に関しては王室御用達になると面倒臭いのでお断りしたが、携帯食品に関しては2割増しで軍に卸すことで合意した。
こうして王家主催のパーティは恙無く幕を閉じたのであった。