第36話 王様と公爵の内緒話
スラム街の区画整理はそろそろ終わりを見せてきた。
立派な神社も完成した。鳥居から始まり参道を抜ければ狛犬が鎮座している。狛犬はこの世界では馴染みがないので可愛くデフォルメした。手水舎の少し奥には社務所がある。社務所から渡り廊下で繋がった授与所が建てられ、斜め向かいには境内、奥には御社殿と並ぶ。御社殿の左側に神楽殿、右側に寺子屋と保育所、治癒院を建てた。
祀っているのは女神ユーノー、天照大神様、宇賀神様、阿遅鉏高日子根神様である。
スラム街の者達で巫女と神主を育てるのには苦労した。勿論、読み書き算術をマスターしている者達で、神聖魔法か聖魔法を習得している者に限り、巫女は神楽舞、神主は祝詞を覚えさせた。勿論、境内の掃除の仕方や神様への接し方など色々と地球の日向オンライン授与所で勤務している神主達に教えて貰いつつ形にしたのだった。
授与所ではスラムに住む者達の中で裁縫が得意な者達にお守りを作って貰った。お札は日向オンライン授与所から卸して貰っている。女神ユーノーの分が無いので、お札を織田一三に依頼したらノリノリで作ってくれた。
手先の器用な者達にはお守りの指輪や数珠を作って貰っている。
治癒院もドラックストアの薬やポーションや回復魔法を使い分けて対処している。勿論、薬代と治療費は貰う。
スラム街の住人は秋月で雇ったので、健康保険適用のため銀貨5枚~金貨2枚の支払いになる。他は適用外になるため実費になる旨を説明した上で治療を受けて貰う事になるのだ。
スラム街の住人には建てたプレハブに住まう家賃として金貨2枚~7枚、福利厚生(雇用保険、健康保険、介護保険、労災保険、厚生年金保険、出産手当、子育て手当)金貨1枚が徴収される。
こうしてスラム街は見違えていくのだった。
スラム街が様変わりするに辺り、アシュヴィッタ王国の国王とナヴァール公爵が秘密裏に会談をしていた。
「日本国とは…凄まじい技術力を持つのだな。」
王の言葉に
「ええ…本当に……あれほどの技術を惜しげもなくスラム街に使うとは思いませんでした。彼女は何を考えているんだ!」
頭を抱える公爵。
「スラム街を解体したかと思ったら美しい建築物が立ち並ぶとは思わなかったぞ!しかも神社なるものでは治癒が安価で受けられると評判ではないか!?」
「各家に風呂を設置することが出来ないから大浴場が各地に設置されたそうですぞ。利用には細かいルールが決められているようですが、無料で開放しているとか…」
有り得ない!とばかりに唸る公爵に
「彼女を何としてでもこの国に留めておきたい。何か良い知恵はないか?」
分かるとばかりの表情をする国王。
「爵位を下賜するのは如何でしょう?影の話では彼女は血を配下にして、元リンデン伯のリブラ・スプラウト領の土地を買い上げたそうですよ。まだ後任が決まってないですし、後任が決まっても土地の買い戻しをしないといけないので負債付きの爵位など欲しがらないでしょう。」
公爵のアイディアに
「爵位を下賜するのは良いな。しかしいきなり伯爵は無理が無いか?この国でも爵位は買えるが買えても子爵位がギリギリ買えるかどうかってところだろう。」
特産物も無い、落ち目で借地になったリブラ・スプラウト領を欲しがるだろうか?彼女に旨味がないのではないだろうか?
「爵位は彼女の功績で良いのではありませんか?彼女が出した様々な特許で国は他国に追従を許さぬぐらい潤ったし、駄目押しとばかりにスラムの改革です。そして頭痛の種だった血をコントロールしているため害はなくなりました。彼女のお陰で治安が良くなったのは言うまでもありません。」
「それもそうか、だが血のことは内密にした方が良いな。」
王の言葉に公爵も功績者が裏組織と繋がっているとなれば糾弾されるのを理解したので、王に同意した。
「元スラム街は今は秋月の店が立ち並び、販売・飲食・宿泊施設と賑わっていますからね。冒険者達も下町よりもそちらに流れていると聞きます。」
「そうなのか?」
王城から出る事が殆どない王としては下町に興味があった。
「今や一大商業都市とも言えますね。学校というものが建築中とのことで、ヒヨリ殿に聞けばこの国の王立魔法学園とは違うそうですよ。初等科、中等部、高等専科に分けられるそうです。初等科は読み書き算術と礼儀作法を学び、中等部では高等専科に入る前の基礎知識と上級作法を学ぶそうです。高等専科は鍛冶・建築・美術・医学・商業の五つに分けられるそうです。大々的に教員を募集していたので、応募も殺到しているのだとか。」
公爵の零した情報に
「……それは凄いな。」
感嘆の声を漏らした。
「影が教材の一部を書き写したのですが、修学の内容は世界最高峰になると予想されます。学費は職についてからの分割返済になるので、就学中の負担は無いそうです。中退や退学する場合は一括返済になるみたいですが、就学後の分割返金であれば通う者も多いでしょう。」
「彼女には手出しせぬように貴族達に通達はしているが、ちょっかいを出す輩が増えるかもしれんな。」
これだけ財を投じる彼女に目を付ける貴族は少なくはないだろう。
王と公爵は彼女が爵位を得たら彼女に近寄る者が多くなるだろうと予測するのであった。
「美の魔法薬だけではなく、薬学に通じていますからね。他にも様々な特許を取得していますし彼女がこの国の経済を支えていると言っても過言ではありません。私が後ろ盾になっている意味を正確に理解している者ばかりではないですからね…彼女には忠告しておきます。」
奇しくも燈由は爵位と領地を賜ることが決定したのであった。