第33話 裏社会ハイマ
王都の秋月の出店は順調にいった。雑貨店から始まり、食事処、ホテルと順番に店を展開させていったのだ。
店舗に近い場所を買い取って従業員と私の居住区を作った。奴隷達は離れだが母屋には私と従業員が生活している。風呂は大浴場が三つ用意され女風呂と男風呂と奴隷達の風呂に分けた。トイレは各部屋に用意してある(私の自室には風呂完備している)。食堂は大きめに取って有り、専属の料理人として奴隷を買ったのは言うまでもない。食事処で使用している奴隷達から料理の手解きを受けた彼等は立派に地球の料理を再現してくれている。
食事処で振舞われる料理を秋月料理、又は日本料理、大和料理として呼ばれ始め、食文化の最先端と言われるようになった。
急成長をしている新進気鋭の商人として注目を集めるということはやっかみを買ってしまうもので、裏組織に目を付けられたようだ。
随時纏わりつく視線に気付き、従業員には護衛の者と一緒に行動するように注意を促した。
私?私は囮になって黒幕を潰そうかなって思っている。ついでに貯め込んでいるお宝をゲット出来たら最高である。
一人でちょろちょろと王都を回っているが、接触する様子が無いので夜に王都を徘徊してみようと思う。
「ヒヨリ様、今からお出かけですか?もう夜ですし危ないですよ!」
ホテルの支配人に任命したアドルフに
「ちょっと野暮用だよ。君達より強いから大丈夫!それよりも明日もしっかりと働いてくれよ。」
平気、平気と手を振って私は夜の街に繰り出した。
私の後を付けてくる怪しい人影に私は気配を消して物陰に隠れる。そうすれば私を付けていた者達が慌てて私を探し出した。
私は私を付けていた中でリーダー各の人物の喉元に苦無を突き付け
「やあ、探し物は私だよね!親切に出てきてあげたよ!」
「なっ?なっ?」
ビックリして言葉になってない男と他数名に
「武器は捨てようね。じゃないとこの男の命はないよ。」
喉元の苦無がぷつりと皮膚を裂いた。ぷっくりと血が滲み出る。
私の行動が本気と分かったのか、彼等は武器を捨てた。
「うんうん、馬鹿じゃないのは嫌いじゃないよ。じゃあ、アジトに連れてって貰おうかな!君達のボスと話しがしたいんだ。」
私は男の腕に隷属の腕輪を付け解放する。他の襲撃者達は私に襲い掛かって来たので返り討ちにして、隷属の腕輪を付けた。
それでも私に歯向かった奴が
「があああっ」
頭を爆発して死んだのを見て、他の襲撃者達は従順になった。
「これは私が作った特注品でね、言う事を聞かない悪い子の頭をかっ飛ばす仕組みになっているんだぁ。どうだい?とっても素敵だと思わないかい?」
にこにこと失敗作を説明していると襲撃者達は
「な、何でもするので命だけはお助け下さいっ!!」
「お、俺も」
「俺もだ!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で哀願してくる彼等に
「勿論だよ。私は優しいからね。私の命令に背かなければ自由意志が与えられるよ。」
優しい笑顔で
「お前達のアジトに連れてってボスに遭わせてくれるよね?」
お願いをした。
彼等は高速で頭をこくこくと頷き、私を丁寧にアジトへエスコートしてくれた。
アジトは予想外に立派だった。もっと破落戸がいるようなジメっとした埃臭い場所かな、と思ったのだ。
都内屈指の高級ホテルの一室に案内された私は道場破りもかくやとばかりに部屋の扉を豪快に開けた。
「たのもー」
一度は言ってみたかったんだよね。
私の姿に部屋に詰めていたボスの護衛らしき人達が一斉に私に掛かって来た。
攻撃をひらりひらりと交わし、技術上り音曲で勢いよく下から斬り上げる攻撃を繰り出し襲撃者を倒していく。
彼等のレベルはせいぜい60前後と言ったところだろう。
ふんぞり返っている男のレベルは80と高いが私の敵ではない。折角のレベルを持っているので、殺さずに使い潰したいと思う。
襲撃者の意識を刈り取っていくとボスが動いた。
距離を取り銃で私を的確に狙撃してくる。
こいつは狙撃手のようだ。だが残念、私には俊歩がある。狙撃の銃弾もゲーム仕様と同じように先読みの軌道ラインが私には見えたので、それを利用して避けまくった。
「このっ!ちょこまかと!!」
銃声が鳴り響く中で私は
「玉も勿体ないし、そろそろ鬼ごっこは終わりにしようよ。」
俊歩で一気に間合いを詰めてボスの首を狙う。
妖刀村正がボスの首を捕らえたかと思ったが、小銃で防がれていた。敵ながら天晴だ!殺すのは惜しいので、左手に持っていた短刀である毒を塗った太閤左文字をボスの腹に突き立てた。
「ぐっ!がっ、あああ」
ぴくぴくと痙攣するボスに私は隷属の首輪を着ける。
「大丈夫、殺しはしないよ。私の玩具…じゃないお人形にしようと思ってるんだ。」
ボスの瞳は恐怖に彩られていた。
「その毒は死なないけど壮絶な苦しみが訪れるから頑張って耐えてね。私は転がっている奴等に隷属の腕輪を付ける作業があるから、毒の解除はそれからになるんだ。」
言い終わる前に男は毒の苦痛でぎゃーぎゃーと喚き出した。五月蠅いので蹴り飛ばして、私は倒れている襲撃者達の腕に隷属の腕輪を嵌めていく。
ローブに隠れていて分からなかったが獣人が多いな。ポーションで怪我を治していく。意識はその内にでも戻るだろう。
部屋に居た襲撃者はボスを除くと17名と多かったので回復に時間が掛かってしまった。
「あああ痛い痛い痛いいいい」
ぎゃーぎゃーと喚く男に私は
「毒を満喫しているようで何よりだよ。解毒薬は欲しいかい?」
解毒のポーションを見せると男は何ながら私の足に縋って来た。
「ほじいでずぅう!なんでもじまず、がらああ!!」
そうか、そんなに欲しいか、だったら分かるよね、と笑みを浮かべ
「じゃあ、私の言う事には絶対服従しようね。ここにサインをすれば解毒薬をあげるよ。」
魔法契約書類とペンを空間魔法から取り出し男の目の前に差し出した。
男は震える手でサインを行い、必死に薬を強請って来た。
魔法契約書はふわりと光を放ち私と男の体に消えて行った。
「これで契約成立だ。ご褒美の解毒薬だよ。」
解毒薬を男に手渡すと男は勢い良く解毒薬を飲み干して気絶した。
「ああ、これで血は私の物になったのんだね!今日は何て良い日なんだろう。」
ゲームでも巨大裏組織血の名前は良く出てきた。
襲撃者を鑑定した時に血と出なかったら此処までしなかったけど、血が手に入るなら別だ!
私はその辺に転がっている獣人の女を叩き起こして宝物庫に案内させた。
勿論、お宝を頂戴するためだ。活動資金ぐらいは残すが後は私の物!迷惑料は貰わないと割に合わないからね。
血の元ボスだった男カールは、私の部下になった。
そして血に属する全員に裏切り防止のために隷属の腕輪を装着したのは言うまでもない。
「今日から血は私の物だよ。精一杯私の為に働いて死んでくれたまえ!」
巨大裏社会の新しいボスが誕生したのであった。