第31話 ブライアン・オブ・ナヴァールという男
ダンジョン都市カサンラカの商業ギルドのギルドマスターのアンソン・ラダから新進気鋭の商人ヒヨリという人物の紹介をしたいと申し出があった。
Ａランクの冒険者であり世界に３人しかいないレベル９９の人物。そして彼女が取り扱う商品の異質な事とどうやってそれらの品を確保しているのか神秘のベールに包まれている。
私はアンソン・ラダの申し出を受け彼女達を王都へ招くことにした。
彼女と面会した時、彼女は日本国の第一皇女だと言った。気品のある身の熟しに上に立つ指導者としての立ち振る舞い。そして彼女が持参した品の数々に彼女が皇女であるというという事実を確信した。
彼女の国と交易を結びたいと思ったものの、彼女自身に断られてしまった。とても残念である。彼女の知識だけでも巨万の富を得ることが出来るだろうし、この国を発展させることが出来る。
是非とも彼女をこの国に留めておきたいものだ。
それにはもっと親睦を深める必要がある。彼女達を食事に招待出来たのは行幸と言えるだろう。
「旦那様、食事の支度が出来ました。」
セバスの言葉に
「今から向かおう。」
食堂に向かった。
食堂にはヒヨリ嬢とその従者の衣装は美しいドレスになっていた。初めて見る光沢のある布に美しい刺繍が施されている。ドレスのデザインも斬新で下品ではなく、彼女達に相応しい誂えになっていた。
妻や娘達は彼女達のドレスに釘付けだった。
「ヒヨリ嬢とアン殿、是非とも食事を楽しんでいってくれたまえ。」
「ええ、このような機会を与えて頂けて感謝しております。ナヴァール公、ご夫人とお嬢様、ご子息様に出会えた事に天照大神様に感謝を。」
「あまてらすとは何でしょう？」
イザベラの問いに
「我が日本国最高神の名でございます、イザベラ嬢。創造主ユーノー様よりも人気があるのですよ。」
笑顔で答えるヒヨリ殿。
「私が送った品は気に入って貰えましたでしょうか？」
「えぇ！とても素晴らしい物ばかりでしたわ。あの真珠の美しい指輪は特に！美容品も素晴らしかったわ。肌が若返ったのです。美の魔法薬とは本当のことだったのですね。」
「不思議なドレスも素敵でしたわ。どのように着れば良いのでしょう？」
「着物という我が国の正装でございます。着付けに関してはメイドをお借り出来ればお教えしますよ。美容品は今の秋月では取り扱ってない高級品になりますの。王都で出店が決まりましたら取り扱う予定ですわ。」
「まぁ、それでは出店に是非協力させて下さいな。」
和気藹々と過ごす彼女達は親睦を深めているようだ。
食事も進み残すはデザートとなった時に
「ナヴァール公、もし良ければ私の国の料理を振舞いたいと思うのですが、キッチンをお貸し頂けると幸いです。」
「ヒヨリ殿が料理をなさるのですか？」
料理の話題が出た。
「ええ、私の一族は花嫁修業の一環として料理が出来ねばなりませんの。」
「そうなんですか？貴族では考えられぬことです。」
マリアの言う通り、我が国では料理は専属料理人の仕事だ。貴族であれば料理などする機会はないし、料理が趣味だと言えば笑われるだろう。風習の違いなのか…
「我が国では王族でも母が料理を振舞うのです。勿論、専属料理人はおりますわ。私の料理はその辺の料理人よりは上だと自負しております。是非、我が国の料理を堪能して貰いたいものです。」
「そう言えば、秋月の料理は全てヒヨリ殿が作られたと聞く。私の料理人達に料理を教えてくれないか？」
私の提案に
「ええ、構いませんよ。」
了承の意を示してくれた。
次の日の昼食には彼女とその従者の方が用意した手料理を振舞って貰った。
「この国の言い方であればコース料理になりますね。我が国では懐石料理と言います。先付、煮物椀、造り、焼物、箸休め、八寸、炊き合わせ、ご飯と香の物、菓子・抹茶の順に食べて下さい。箸の文化ではないので、スプーンとフォークでお召し上がり下さい。」
宝石かと見紛うばかりの美しい料理の数々に目を楽しませ、香りを楽しみ、味を楽しんだ。
「魚を生で食べるなど、と思いましたが、どれも美味しいですね。今まで食べてきた食べ物が泥のようです。」
ノーマの無邪気な言葉に料理長がガックリと肩を落としたのが見えたが、息子の言う事は一理ある。
こんなに美味いご飯は初めて食べた。
「レシピは料理長にお渡ししておりますので、好きな時に食べれるかと思います。」
「しかし魚の仕入れが出来ないから難しいな…」
王都では新鮮な魚は手に入らない。
「それでしたら王都で開く店に魚を仕入れましょう。食事処でも魚料理を提供しますので是非とも食べにいらして下さい。とはいえ、グランス商会が私の秋月を無料で寄越せと横暴を働いておりますの。店も無事に開けるかどうか…」
グランス商会とは後ろ暗い伯爵の息の掛かった商会だ。良い噂も聞かない。
「それは心配しなくても良い。ヒヨリ殿の店はナヴァール家が後ろ盾になろう。」
「それは有難い話ですわ。宜しくお願いします。」
「秋月には家族で寄らせて貰おう。王都に店が建つのを楽しみにしているよ。」
後日、私が紹介する店舗の案内をする約束をして和やかに食事会が終わり、ヒヨリ殿達は宿屋へ戻っていった。
「王宮に至急使いを出してくれ。」
セバスに先触れを命じる。
「ヒヨリ様の事で御座いますね。」
「そうだ…彼女が持参した品の数々は、それ一つで国が一つ買える物だ。そのような財力を持ち、レベル９９の実力者を野放しには出来ない。」
秋月はカサンラカで一大経済を築いている。他国に流れてしまえば
「国王からヒヨリ殿に手出ししてはならぬと貴族達に通達しなければ、彼女は他国に逃げてしまう。多才な彼女をみすみす他国にくれてやる道理はない。」
他国を発展させる事になる。
「国王と話しをしなければなるまい。」
