第30話 ナヴァール公爵と私
車でカサンラカから王都まで3週間かかった。
王都はカサンラカよりも大きく、栄えていた。きっと先触れよりも早く到着してしまったと思うので、一旦は宿を取って待つ事にした。
「ヒヨリ様、私達ナヴァール公爵家に行くんですよね…」
不安そうにするアンに
「いざとなったら国外に逃げれば良いだけだよ。ライリー達に教えられたマナーを思い出せば良いさ。」
安心するように言い聞かせる。
「着付けの練習でもしようか。」
「着付け?ですか?」
「公爵に会うのだから着飾っておかないとね。化粧や歩き方も教えるからアンソンが帰ってくるまでに覚えておこう。」
アンと私の年齢なら振袖で良いだろう。両祖父母から貰った卒業式用の振袖と化粧道具を空間魔法から取り出す。
「うわぁー凄く綺麗ですね!!」
「好きな柄を選んで良いよ。」
私は両方とも前撮りしているからどちらを着ても問題ないし。
アンは振袖の柄を見てどちらにしようか迷っているようだ。待つ事10分、やっと決めたみたいで
「ヒヨリ様、私はこっちが良いです!!」
梅と橘の柄を選んだ。
アンの服を脱がせて、着付けをしていく。1時間と時間を掛けて着つけた振袖はアンに似合っていた。
薄く化粧を施し、摘まみ細工のカチューシャを着けて完成!
空間魔法から姿見を取り出して、確認する。
「こんなに綺麗な服を着るのは初めてです!」
興奮気味なアンを落ち着かせ
「じゃあ、次は歩き方や作法の勉強をするよ。」
歩き方や作法を叩き込んだ。
ブーツではなく椿彫りコッポリな為、歩くのに苦労しているようだ。姿勢や給仕の際の作法を覚えさせ及第点になった頃にアンソンが帰って来た。
「見たことも無い綺麗なドレスだな。ヒヨリは他国出身なのか?」
「極東にある小国だよ。アンが着ているのは日本の正装になる。」
「それにしても美しいな。売って特許を出すつもりはないか?」
「無理だな。先ず仕入れする段階でこの服の値段は金貨500枚を超える。それにこの服を作れる技術者は日本にしかいない。形を真似ることは出来るが、模様は真似出来ないだろうね。着るにしても技術がいるから流通するのは難しいんじゃないか?」
着物を売りに出す予定がないので吹っ掛けてみた。
「ええーーそんなにするんですか!?私、脱ぎます!こんな高価な物、着れませんよっ!!」
アンの絶叫に
「汚れたらcleaningするから問題ないよ。破損しなければね。」
落ち着けと諭すも破損の言葉に泡拭いた。
「そんなに高価な服を奴隷に着せるのはどうかと思いますよ。」
「それで公爵との面会はどうなった?」
「明日の10時に面会出来ます。」
「分かった。明日に備えて準備をするよ。」
アンを着替えさせて、私は用意された自分の部屋に戻った。
自宅に転移し、振袖と訪問着を買い付けに行った。ナヴァール公爵家には15歳の少女と奥方がいるからだ。献上品の一つに加えようと思う。
「ようこそ、ヒヨリ嬢とその従者殿。そしてアンソン、よく来たね。私はブライアン・オブ・ナヴァールだ。」
私達を出迎えてくれたのはナヴァール公爵その人だ。
「お初にお目にかかります。日本国が第一皇女燈由と申します。」
すっと綺麗にお辞儀をし、張ったりをかます。
「Aランクの冒険者と聞いてはいたが、皇女殿だったとは。」
「訳あって王位継承権を放棄した身故、私は諸外国を旅しておりますの。」
「日本という国の事を聞きたいものよ。」
「極東に位置する小国で御座いますが、魔法よりも化学が発展した国で御座います。海に囲まれており、四季折々の季節が巡る美しい国ですわ。」
私達は立派な応接室に迎えられた。
私が皇女という大嘘を吐いたことで当初案内される筈だった部屋とは別の部屋を用意したようだ。
「ナヴァール公へ私からの日本国の手土産で御座いますわ。お納め下さい。」
私は空間魔法から梵・超吟・純米大吟醸、華真珠の指輪、北出与二郎作の着物セット、振袖、訪問着一式、岡山銅器『 菊花繁栄 』透かし花器、米沢牛登起波漬、日本刀、美容品一式を取り出した。
「こ、これは素晴らしい!国宝にも匹敵する!この剣の素晴らしいことよ。まるで鏡のようだ!この大振りで丸い真珠など初めて見たぞ!こんな素晴らしい品々を受け取って良いのだろうか?」
皇室御用達の品々に驚くナヴァール公爵。
「これらの品は我が皇室が愛用していた商会の物に御座います。お納め頂ければ幸いですわ。」
「う、うむ。皇女殿はこの国で何を成すつもりなのか?」
贈り物の豪華さに警戒されてしまったようだ。
「私はカサンラカで秋月を経営しております。冒険者も良いですが、私は製作者として人生を謳歌したいのですわ。私の国は武国です。平民でもレベル99は普通ですの。小国でありながら独立国家なのは一人ひとりの戦闘能力と指揮能力が高いからです。侵略を一度も許した事はありません。ナヴァール公、私は王位継承権を放棄しましたが伝手が無いわけではありません。聡明な貴方であればこの意味がお分かりになりますわね?」
邪魔すんじゃねーぞ、と脅しを掛ける。
「私としても友誼を姫君と姫君の国と結びたいと思う。」
ナヴァール公の言葉に
「残念ながら私の国との交易は出来ませんわ。私が王位継承権を放棄した理由にあります。私の店で取り扱っている品は、私の国の者が融通してくれた物にすぎません。仕入れ方法は企業秘密ですが、王都でも支店を出す予定ですわ。」
交易はお断りと釘をさした上で王都出店という飴も出しておく。
「交易が出来ないのは残念だが、あの秋月が王都へ出店してくれるのか?」
「はい。今回持参した酒と美容品は王都に出す店で取り扱う予定ですの。とは言え、私は王都に不慣れなもので出店するにしても出店先がないのではないかと心配なのです。」
「それならば私が紹介しよう。秋月で取り扱っている品々は素晴らしいと聞く。その上、食事処は大層美味と専らの噂だ。宿も不思議な絡繰りがあると聞いた。是非とも王都で店を出して欲しい!」
乗り気になったナヴァール公に
「ナヴァール公が紹介して下さるなら安心ですわ。宜しくお願いします。」
こちらに有利な条件を提示して話を詰めていった。