第22話 地球で面接だ!
完全記憶のスキルを持つソフィアを筆頭にピーターソン一家を補助に付けて勉強会をして貰っている中で、私は地球へ戻って来た。
そう、神主の面接である。応募件数がざっと200人を超えていたので、自己PR を動画で送って貰っていたのだ。
動画を2倍速で見ながら嘘や犯罪歴が無いかを確認する。美味しそうなスキルを持っている人間をピックアップして最終面接の通知を送ったのが一週間前のこと。
本日は20人の面接である。採用されるのは合計で5名だ。ビルが3名、一軒家が2名である。やることは社の管理とビル、一軒家の管理である。ビルに関しては専門の管理人を雇うが、その補助をして貰う予定だ。
5人ずつの集団面接にしてある、
「本日はお時間をいただきありがとうございます。私は福重南朋と申します。伊射波神社で5年ほど奉職しておりました。正直、給与が低く生活が出来ないため条件の良い此方へ応募しました。特技はお神酒を作ることです。酒類製造免許を持っております。京都を希望します。」
応募の世知辛い理由に私はどう返答して良いのか困った。スキルにも蔵人とあったので、酒造りが巧いのだろう。お神酒が作れるなら自前で作って貰って奉納するのも良いかもしれない。今はお取り寄せに頼っているからお金もかかる。
二人目、三人目と此方からの質問を交えて面接をしていく。
霊視が出来るとかお札が作れるとか色々な特技を聞いてきたが、でたらめなのも多かった。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。私の名前は鐏淳と申します。國學大學を卒業したばかりで奉職の経験はありません。特技は得にありませんが、大学在学中に税理士の免許を取得しました。応募の切っ掛けは継ぐ予定だった神社が継げなくなったからです。趣味は掃除と料理です。東京を希望します。」
税理士の資格持ちなら私の賃貸収入(仮)の管理をして貰うのも良いだろう。給金を上げるので是非とも税理士兼神主として活躍してくれないかな?
福重南朋、平野|梓あずさ》、織田一三、正樹絢太、鐏淳の5名にはその場で採用を通知して面接は終了した。
東京組には契約しているマンスリーを紹介した。京都組には自宅の部屋を使うか、近くに引っ越しするか選んで貰った。住宅手当は付かないので、二人とも住み込みを希望した。
両方とも立派なお社が建てられているので毎日の掃除やお供え物、祝詞など色々として貰っている。
とは言っても数時間あれば終わってしまうので、内職をして貰おうと思っている。全員書道初段三段~四段の段位持ちだったので筆耕の内職をして貰う事にした。
日向オンライン授与所の会社を立ち上げる。HPを作成し、鹿島組、宮大工もみじ、三屋不動産に営業をかけた。
儲からなくても良いけど、仕事があれば良いなと思って。
また手作りのお守りや宇賀神様と阿遅鉏高日子根神様のお札をHPより申し込みがあれば授与出来るように工夫した。女性陣が宇賀神様と阿遅鉏高日子根神様モチーフのアクセサリーを作って授与するのはどうか?と聞いてきたのでOKを出しておいた。男性陣からは祝詞の音声CDを提案されたので了承しておく。
口コミではあるが、日向オンライン授与所は有名になってきたのである。
地球で私が面談に臨んでいるその頃、ウォーズではソフィアを筆頭にピーターソン一家が奴隷達の教育に当たっていた。
「ソフィアさん、ここが分からないんですけど。」
2次関数の問題が解けないとシャーロットが質問している。
「ここはy = ax2 のグラフは、原点を通る放物線で、y 軸について対称
(1) a > 0 のとき……」
中学生レベルとはいえ、この世界では高度な学術になる数学を丁寧に説明するソフィア。彼女の教え方が分かりやすいのかシャーロットは問題を解いていく。
「私達奴隷に勉強を教わる機会を与えてくださるなんて、有難いことです。」
アリアの言葉に
「そうよね、普通は勉強なんてお金持ちしか出来ないことだもの。」
「分かる!学ぶよりもお金を稼がないと生きていけないもの。」
スカーレットとルーナが同意した。
他の奴隷達も学ぶ機会を与えられたことに大層驚いたのは言うまでもない。
「俺は勉強よりも鍛錬がしたいっす。」
数学が苦手なアーサーがポツリと愚痴を零した。
「分かるぜ。文字は漫画とアニメで覚えたけど、数学は難しくてなぁ…」
英語表記の漫画とアニメで文字を覚えた彼等は数学を苦手に感じているようだ。
「俺は数学よりもマナー教育の方が辛い。今は良いけど言葉遣いから叩き込まれるんだからさ。」
魔物使いのフィンレーがうんざりとした表情でぼやく。彼は冒険者ギルドへ依頼したスライム達を獣魔にすることをヒヨリから命じられていた。きちんと獣魔にしてゴミや排泄処理に活用している。
「そこ、私語厳禁ですよ。」
ラッセルの勉強を見ていたライリーが叱責を飛ばす。
「すみませーん」
「すまん」
「ごめんなさい」
「悪かった」
謝罪の声が一斉に上がる。
「……お腹減った。」
誰からかポツリと零れた切ない言葉に皆が沈黙した。
そう、美味しいご飯を作るヒヨリが不在なのだ。確かに女性陣の中には料理が出来る者が存在するが、ヒヨリの手料理を食べた今となっては不味いのだ。
「ヒヨリ様にレシピを聞いておけば良かったですね…」
エリーの言葉に
「そうね、あの料理を食べた後では自分の料理が美味しくなくて…困ってしまうわ。」
アリアが悲しそうに同意した。この世界では彼女達の料理の腕前は普通なのだ。料理スキルMAXかつ異世界の調味料を使いこなすヒヨリが規格外なだけで。
「えっと、料理の準備をしましょう。」
料理が出来ないが手伝いは出来るエマが女性陣に促せば、そうね、と頷かれて皆でキッチンへと移動した。
残された男性陣は
「ヒヨリ様、早く帰って来ないかなぁ。」
「本当にな。美味い飯が食いたい…」
「あのご飯を食べてしまったら、今までのご飯が…」
只管ヒヨリの帰りを願うのであった。