第2話 土下座からの異世界転移
私の名前は秋月燈由と言う。中小企業に勤めるゲームが大好きな一般凡人OLである。但し、重度のゲーマーということを除いてはである。
そんな私だが今、目の前でそれはそれは美しい土下座を見ている。
華麗に土下座をするのはMMORPGウォーズを模した世界を管理する女神ユーノーと言うらしい。そしてそれを冷ややかに見つめる美女は我が日本の最高神である天照大神様とのこと。
うん、正直ついていけない。ドロップアウトしても良いだろうか?
思考を飛ばしていたら
「ほっんとうに申し訳御座いませんでしたー!!」
土下座のまま顔を上げない女神の謝罪に意識を戻した。このまま放置しても良いが、話が進まなそうなので
「顔を上げて下さい。説明お願いします。」
顔を上げて説明するように促した。
「はいっ!実はですね、私は貴女の世界であるMMORPGウォーズの模した世界を管理しているユーノーと申します。貴女は私の手違いで私の世界に召喚されてしまった上、時空の狭間で迷子になってまして地球の女神である天照大神様が貴女を見つけて此処まで連れて来てくれたのです。本来、上位世界からの召喚は上位世界での死後の魂である事と上位神からの承認を得られなくてはならないんです。でも貴女は私のミスで生きたまま承認も無く時空の狭間に召喚されてしまいました。本当に申し訳御座いません!」
不穏な説明に
「ちょっと待って、時空の狭間って言ったよね?天照大神様が此処に連れて来なかったら私はずっとそこに閉じ込められたままだった?」
怒りのボルテージが上がる。
「ごめんなさーいっ!最近、色々と忙しくて寝不足で見落としてましたっ!!」
泣きを入れる駄女神ユーノーに
「ごめんで済んだら警察要ねーんだわっ!死ねっ!滅びろ!」
罵倒する。
「申し訳ありませんっ!」
「帰してくれるんだよね?地球に!」
地球に帰せと言えば駄女神ユーノーは表情を曇らせ
「そ、それは……無理です。魂はウォーズの世界に書き換えられているので地球に帰す事は出来ないんです。数日単位なら行き来することは出来ますが、ずっと地球に留まることは出来ないんです。」
嫌な現実を突き付けた。
本当に最悪である。召喚物語なんて現実になったら笑い話では済まない。だって言語の壁、お金の問題、モンスターの脅威と色々と問題があるからだ。
「燈由、起こってしまったものは仕方がない。この屑には三つ有効なスキルを取得出来るように申し伝えてある。私からも餞別として女神チケットを三枚渡そう。チケットを消費することでどんな願いでも願いを三つ叶えてくれる。これからはウォーズの世界で生きるのだ。」
ずっと黙っていた天照大神様が口を開いた。彼女は私が異世界でも困らないようにと三つのスキルと願い事三つを叶えられるように手筈を整えてくれていたようだ。それにしても駄女神のことを屑と呼ぶんですね、天照大神様。
「ありがとうございます。願い事が無かったら直ぐに死んでいると思います。」
手渡された女神チケットを受け取った。
「スキル空間支配を取得すれば一時的ですが地球に帰ることが出来るぞ。」
天照大神様の言葉に
「それ言っちゃ駄目な奴ですぅうう!!」
駄女神ユーノーが悲鳴を上げた。
「何が駄目かっ!私の世界の断りも無く子供を浚って、時空の狭間に放置しかけたのだ!詫びにもならんわっ!」
天照大神様の怒髪天に駄女神ユーノーはブルブルと震えている。いい気味だ。
「じゃあ、願い事の一つは空間支配にします。一時的に地球に戻れるのは安心しますし、何より未練がありますからね。」
駄女神ユーノーを睨むと彼女は肩を震わせて縮こまる。
「それでは私は地球に戻る。向こうを留守にするのも、な。おい屑、きちんと燈由の願いを叶えるのだぞ。」
天照大神様はその言葉を残してその場から消えたのだった。
さて残った私と駄女神ユーノー。
「さてユーノーで良いよね。私を異世界の狭間 に召喚して回収すら天照大神様にさせた屑を神だとは思いたくないし、様付けなんてとてもとても。」
ニッコリと笑顔で威圧すれば
「っひぃっ...はい!呼び捨てでもオッケーですっ!!何でもどうぞー」
全力で媚を売って来た。
「一つ目は空間支配、二つ目は言語最適化、三つ目は解析鑑定が欲しいな。」
「え?戦闘スキルじゃなくて良いの?」
きょとんとする駄女神ユーノーに
「転移場所をモンスターの出現する場所にしたら速攻で地球に戻って天照大神様にチクるだけだから。それに女神チケットがあるからね。一つ目は私がプレイしていた時のアバター継承をお願いするから習得したレベルやスキル、取得したアイテムや金貨はそのまま使用可能になるはずだからね。早々にくたばることはないと思ってる。」
説明してやる。
「チクるのは止めて!安全で平和な国に転移しますからっ!!それにしてもアバター継承とは思い付いたわね。でもそれだと種族が変わってしまうんじゃないかしら?」
彼女はそんな使い方があったのかと納得したようだが、私が所有しているアバターの種族が人族ではないことを指摘した。
ウォーズの世界にはエルフ、ドワーフ、獣人、人族、魔族で構成されており、職業が基本の戦士職、回復職、付与職、妖術師、特殊職の暗殺、盗賊、生産職、上級職の聖女、勇者、魔王などと幅拾い。私は暗殺の上級職である忍者に転職している。私の種族は魔族である。魔族の特徴として黒の瞳と髪を有しているのだ。キャラメイクの時に一番現実の自分に近くしたかったので魔族を選んだだけだがこれが活きる事になるとは思わなかった。
「外見は私に似せているから地球に戻っても問題ないもの。女神チケットってあんたに譲ることって出来る?」
私の言葉にユーノーが
「え?良いの!?それがあれば神でも使用できてどんな願いでも叶うことが出来るのよ!?不老不死や死者蘇生さえ叶えられる代物なのよ!!」
凄くビックリした表情をして叫んだ。うるさい。
「不老不死を望むって馬鹿じゃないの。生産性がないじゃない。女神チケットは勿論ただって訳じゃない。三つのスキルと交換で女神チケットをあげる。」
どうする?と彼女を見れば
「是非お願いします!!」
かなり食いついた。
「そうね…一つ目は完全記憶、二つ目は成長促進、三つ目は経験値倍化をお願いするわ。」
「分かったわ。私が与えたスキルは通常取得するスキルとは少し違うけど、使用する分には違いがないから大丈夫よ!」
「違いがないなら別に構わないわ。」
私はユーノーを見てふと思った。こいつ利用出来るんじゃね?と。手元に残った一枚の女神チケットを餌にして今後ピンチに陥った時に好条件を引き出せるように出来るのではないか?思い立ったが吉日
「もし私が生を全うした時に女神チケットが余ってたら貴女が使っても良いわよ。」
ユーノーに囁いてみたら彼女は眼をキラキラさせて
「そ、それは本当!?」
思いっきり食いついてきた。
「嘘じゃないわ。だって私のアバターはレベルも取得スキルもMAXだもの。金貨だって貯め込んでいるからお金には困ってないしね。死者蘇生だって聖女がいれば事足りるし、特に願いは今のところないわね。」
「それなら私の加護と信託をあげるわ!」
彼女はそう言って加護と信託を追加でくれたのだった。ちょろいと思う。
「じゃあ、世界で一番情勢が安定しているユーラー大陸にあるアシュヴィッタ王国に転移させるわね。教会に立ち寄ってくれたら信託で会話も出来るから困ったことがあれば教会に立ち寄ってね!燈由、あなたに幸多からんことを!行ってらっしゃい!」
転移陣が光だした。
そして私の体がその場から消えたのだった。