保健室で国宝級な顔を持つヤンデレ後輩ちゃんに無理やり迫られる話
僕が通う高校には、学校のアイドルがいる。
名前は竹取美桜、あだ名はかぐや姫。名前負けしない容姿端麗な顔と服の上からでも分かる程の大きな胸を持つ女の子。男全てを魅了する可愛さを持ちながら、文武両道かつ誰にでも優しいなんて性格をしていると言うまさに完璧な美少女だ。
その魅力は校内に留まらず芸能界にまで行き届き、今では日本で一番付き合いたい女子高校生だとか呼ばれていたりする。その彼女の可愛さを祝して国宝認定しようなんて声もあるのだとか……。
心地よい眠気から僕は目を覚ます。知らない天井だ、なんて呟きたくなるほど白い天井が広がってる。何か腰ら辺に重みを感じ、上半身を起こそうと掌で体を押した。
「おはようございます、先輩。よく眠れました?」
すると目の前にはあの完璧美少女、美桜がいた。相変わらず憎たらしいほど整った顔をしてこちらを正面から覗いてくる。そう、正面から。
「びっくりさせちゃってごめんなさい。私が渡したジュースを飲んだら何故か先輩倒れちゃったので、保険室までは運んできちゃいました。体調大丈夫ですか?」
「……お前から貰ったジュース飲んだらいきなり睡魔が襲って来たんだが、何か仕込んだ?強力な睡眠薬だとか。」
「やだなぁ先輩、睡眠薬なんて私が仕込む訳ないじゃないですか。私を疑うなんてほんと酷い先輩ですよ。」
そう言ってニタニタと何時ものイタズラ顔を向けてくる。
美桜が周りの人に見せている誰にでも平等に接するその優しさ、それは彼女の仮初の性格だ。その本性は他人を見下し、あえて完璧を演じることで優越感に浸る、悪魔のような性格をしている。容姿の良さを自覚しているからなのか、会う度にあざとい行動をしてくる。ある意味、美桜のお陰で顔の良い女があざとい行動をすると厄介だって知見を得れたと言えよう。
そんな彼女が僕の顔を見てニタニタ笑みを浮かべているのだ。ジュースに薬を入れたに違いない。まぁ、イタズラにしてはやり過ぎだとは思うが。
「そんなことより、ふふっ、可愛い後輩に跨られて今、どんな気分ですか?」
「いや、その別になんも……、思わないけど」
「ふーん、そうですか。目が覚めたら目の前に可愛い可愛い女の子が、しかも今話題の日本で1番可愛い女の子が目の前になんて状況だったら。」
全てを見透かしているような瞳をした美桜。
「健全な男子高校生なら興奮する所か、それだけで好きになっちゃうと思うんですけどね?」
「なら僕は特別な男子高校生って訳だ。いやー嬉しいね、光栄だよ。」
「そう、ですね。先輩は特別です、私にとって特別なんです。他の男の子とは違う、だから私は……。」
「美桜…?どうした?何かあったのか?誰かにまた何か言われたのか?」
全てを見透かしているような、その美桜の綺麗な瞳が潤む。詰るような甘い声に何時もの張りがなく、弱々しい。表情は暗く、僕と2人の時に見せてくれるあの不敵な笑みを浮かべない。
「……ねぇ、先輩。」
緊張感が体を走る、空気が重い。
「先輩は…、何で私の事、好きになってくれないのですか?有象無象のどうでもいい何万人の男には気持ち悪い好意を向けられるのに、たった1人の男の子にはどうして!……恋愛対象にすら入れないのはどうしてなのですか?」
「それは…。」
美桜が自分に好意を持っていたのは知っていた。鈍感な僕でも露骨なボディータッチや距離近めな会話、彼氏欲しいアピールだなんてされたら流石にわかる。でも僕は彼女の好意に答えられない、何故なら…。
「私の何がいけないのですか?私、先輩の為なら何でもしますよ。もう少しむっちりした体型が好きならフィットネス通うの辞めますし、頭良い人が好きなら全国模試1位だって取れます。性格が気に入らないのなら好みを言ってくださればその瞬間から変える努力をします。」
美桜の泣きそうな表情、初めて見た。美桜と友達になって1年は経つと言うのに、こんな暗い顔を見たことがなかった。あの時、美桜と出会ったあの日でさえこんな目をしていなかったのに。
「私、先輩の為ならどんな努力も惜しみません。お願いです、私の何がいけないのか教えて貰えませんか。」
「……美桜は悪くないよ。実際美桜は可愛いし、何だかんだ優しいし、頑張り屋さんだってのも僕は知ってる。毎日告白を断ってて辛いはずなのにちゃんと毎回呼び出された場所に行ってるのもすごいと思う。」
僕は言葉を続ける。
「正直、美桜が僕に好意を持ってくれて嬉しかったよ。でも、僕にはもう恋人がいるから。美桜とは付き合えない。ごめんな、美桜。」
そう、僕には彼女がいるんだ。幼稚園の頃からずっと一緒だった女の子、中学の頃に僕が告白して付き合った大切な恋人だ。きっと美桜と付き合えば毎日楽しいとは思う。他の男なら間違いなく今の彼女を振って美桜と付き合うだろう。
でも僕にはそれが出来ない。僕を一途に思ってくれている素敵な彼女を裏切れない。
だから僕は美桜ではなく、今の彼女を選んだ。
「そうですか、先輩の本心はわかりました。答えて下さりありがとうございます。」
「あぁ、うん、その…本当にごめん。今日は僕部活休んで帰るよ。先生には体調悪いので早退しますって伝えとく。僕に睡眠薬仕込んだことは黙っとくから。」
ベッドから上がろうと体を動かす、しかし彼女はそれに察して腰から動こうとなんてはしない。
「美桜、僕に跨るのもうやめてくれない?もう帰りたいんだけど。」
「…ふふっ。嫌です、私どきません。」
「美桜、今日はそんな気分じゃないから。どいて。」
「だーかーら、私絶対どきませんって言ってるじゃないですか。あっ、力ずくでどかそうとしたら私レイプされそうって叫んじゃいますからね?そしたら先輩、社会的に死んじゃいますよ?」
美桜がいつものニタニタ顔を浮かべる。でも目は決して笑ってはおらず、何時もの綺麗な瞳に光は無く濁っている。
「いやー、先輩の口から彼女さんから付き合えないって聞いて安心しました。もし先輩が本当はホモだとか、年下は生理的に無理とか言われたらどうしようかって私不安だったんですよ?」
「いくら美桜が可愛くても僕は彼女と別れる気はないぞ。何をする気かはわからないが、無駄だと思うけどな。」
「そうですかね?私はいけるなって思いましたよ。だって先輩に彼女さんがいるから付き合えないって事は、私が彼女さんから先輩を…その気にさせて奪っちゃえばいいって事じゃないですか。」
当然のことのように美桜は言う。とろける様な甘い声で、天使のような声色で悪魔みたいな事を言う。根拠のないであろうめちゃくちゃな美桜の言い分に説得力を感じるのは、彼女自身が自分の魅力を理解しているから。
冷や汗が、体に流れた気がした。
「保健室の先生が来るまで時間あるでしょうし。少しお話してもいいですか?」
「……は?」
拍子抜けした事を言われ、本音が盛れる。
「まぁ、先輩に拒否権なんてないんですけどね。まず、先輩と私が出会う前までの話。実は私、先輩と出会うまでの15年間、誰一人友達なんていなかったんです。」
「え、意外だな。美桜ってめちゃくちゃ人気者じゃん。なんで」
緊迫した今の状況を忘れ、つい聞いてしまった。きっと状況さえ違えば仲の良い男女の雑談に聞こえるだろう。
「なんでって、先輩残酷なこと聞きますねー。」
「え、あぁごめん」
「冗談です、謝らないでください。私全然傷付いてませんから。あ、もしかして傷付いたフリして気弱な自分を演じた方が良かったですか?」
いつもの美桜に戻ったみたいに感じ安堵する。気を抜いてしまえば自分も笑みを浮かべ、気を許してしまいそうだ。
「なんで友達が出来なかったか、理由は明確です。だって私、当時から可愛かったんですもん。」
「…?」
「容姿の良さ故に男子からは劣情を向けられ、女子からは嫉妬を向けられる日々、体操服はよく無くなるわ上履きは消えるわで毎日大変なんです。」
きっと、美桜はいつもそんなに汚い視線を浴びていたのだろう。可愛さゆえの陰口だとか下ネタの混じった下衆な会話も裏で聞いていたのかもしれない。放課後は自分の上履きを探す日々で、独特な匂いのした体操服を泣きながら洗ったなんて事もあったのだろうか。
「なので、私がどう頑張っても友達なんて出来ないわけですよ。知ってますか?友達がいないってすごく辛い事なんですよ?すぐいじめの対象になっちゃいます。」
ニコッと笑ってはいるが、頬が少し引きつっているように僕は感じる。美桜がたまに見せる表情、何か本当に嫌な事があった時に見せる辛さを隠すような笑みだ。きっと当時の事を思い浮かべながら話しているのだろう。
「今思えばいじめたくなる気持ち、すっごくわかりますけどね。だって今、彼女さんの事…大っ嫌いですから。もし機会があればって思っちゃいます。」
本当に、今の美桜ならやりかねない。そう闇を含めた声をした言葉を聞きそう思った。
「次は先輩と出会ってから現在までの話です。初めて先輩と出会ったのは路地裏の暗い細道。先輩が通ってる高校の、オープンスクールの帰りでしたね。」
そう、美桜と出会ったのは僕がオープンスクールの手伝いに行かされた日の夕焼けだった。部活の顧問に頼まれ嫌々行った手伝い、白百合のような美しさをした女の子を見て自分がロリコンなのではと疑った記憶がある。あの時はただ綺麗な子だな程度ではあった。
「少し怖い男の人にナンパされてた私を、先輩は弱いのに助けてくれましたね。あっ、私可愛いですからよくナンパされますし。勝手に助けてくださったりもするので、ただ助けてくださっただけで惚れたりなんてしませんよ?当時の私は助けてくれてラッキーくらいにしか思ってませんでした」
「感謝くらいは、しようぜ。一応、善意で助けたんだし。ありがとうございますって言ってくれた女の子が内心そんな事思ってただなんて知ったら泣くぞ。」
「そりゃ感謝くらいはしてましたよ?お礼としてLINE交換くらいしてあげるつもりでした。まぁもちろんその一ヶ月後にはブロックしますが。」
「ひっでぇなおい。」
「酷いのは先輩ですよ、だって先輩私を助けたあとすぐにバイトに行っちゃうんですもん。普通美少女の連絡先とバイトなら美少女の連絡先を優先しますよ?ほんと、あの時から先輩は変な人でした。」
その後バイトに遅れて怒られはしたが、女の子を助けてたらと理由を話したら許してくれたのはいい思い出だ。まぁ、そのせいであだ名はナイトくんになったのだが。
「それから色々あって先輩の学校に偶然入学して再開、偶々同じ部活に入って。楽しかったなー、先輩と為にならない話してると自然に笑顔が零れてきちゃうんです。そんな体験、初めてでした。」
幸せそうで、悲しそうな表情で語る美桜。
「入学して半年近くたった頃、何時もみたいにいじめられてた私を先輩はまた助けてくれましたね。トイレで私に暴言吐かれてた時の音声を交番に持って行って、警察事にしちゃうとは。常識的に考えて他人のためにそこまでしませんよ?」
寂しそうな笑みを浮かべ語るも美桜。
「クラスでヤバいやつ扱いされ孤立しちゃう危険性とただ顔がいいだけの彼女でもない女。私なら見て見ぬふりします、孤独は怖いですから。それを先輩は・・・ふふ、嬉しかったなぁ。今まで私に味方はいなかったので。孤独な女の子に出来た初めての友達。さらに異性で、2度も助けられちゃったのなら。惚れない理由がありません。私にとって先輩は、特別なのです。」
「流石にそれは大げさじゃないか?それに味方が今までいなかったなんてないだろ。ほら例えば親とか、教師とか。」
「大げさじゃありませんよ、味方なんて本当にいませんでした。だから、先輩が私の特別になった日からずっと先輩のことについて考えちゃうんです。先輩な何が好きなんだろう、どんな女の子が好みなんだろう。ほんと、毎日楽しかった。……なのに、先輩は彼女なんか作っちゃって。」
きっと、本当に味方なんていなかったのだろう。予想でしかないが、美桜の両親は彼女にあまり構ってあげていのかもしれない。それの原因が両親同士の不仲なのか、または仕事で忙しかったのかはわからない。ただ、美桜が気軽に相談できるよおうな環境になかったのは容易に想像つく。
前に美桜が言っていた、いつも両親が家にいないなんてセリフ。あの時は[[rb:初心 > うぶ]]で思春期な僕をからかった意図が美桜にあったから流していたけれど、今思えば深刻な問題だ。美桜の言う何時も家にいないと言うのは中学生の頃より前の話。もしそう過程するなら、イジメにあっていた時も家では一人だったのだろう。それはあまりにも酷で、残酷だ。
そんな家庭環境だと、教師もあまり美桜に干渉しないであろう。問題事の塊みたいな彼女に蓋でもするみたいにイジメや嫌がらせを無視したに違いない。
「……すいません、興ざめしちゃいましたね。では最後に、未来の話。もし先輩が彼女さんと別れて私と付き合ってくれたらの話。」
甘い匂いが鼻腔を刺激した。吐息を吐きながら美桜は体を預け、僕に抱きついてくる。柔らかい手のひらと確かにそこにある大きめな胸の感触が理性を溶かし、女の子特有の蜜より甘いが心拍数を加速させる。
今彼女の姿を見てしまうと、間違いなく襲ってしまう自信がある。
「やめてくれ、…理性が持たない。」
「嫌に決まってるじゃないですか。それに、先輩には獣になってくれたほうが私としては好都合です。だって先輩は私に手出したら絶対付き合ってくれるでしょ?」
耳元でそう囁いてくる。僕に理性はジリ貧でもうすぐ崩れそうだ。
「脱線しちゃったので話戻しますね。もし先輩が私と付き合ってくれるなら、朝は手を繋いで歩いて…おはようのキスと勉強頑張ってくださいのキスをしてあげます。先輩は私の彼氏さんですよって先輩の同級生やチラチラと見てくる通勤中の教師、気まずくなった元カノさんに見せびらかすかの様にイチャイチャして歩いちゃうんです。」
美桜が持つ最大の武器、日本で一番付き合いたい女子高校生と言う特別感で僕を堕とそうとしてくる。男なら誰しもが持つ自慢の彼女を見せつけるなんて汚い優越感を想像させ彼女を捨てさせようとしてくるのだ。その提案は魅力的で破壊力がある、全てを捨ててでも手を伸ばしたくなる黒い輝きを放っている。
「昼は私が作ったお弁当を食べながらイチャイチャします。たまーに私の教室で食べて、学校のアイドルな私は今、先輩にメロメロでぇ人の目があるのにあーんってバカップルやっちゃうオツムの弱い女に成り下がっちゃいましたよーって私を好きになっちゃったクラス中の男子にアピールしちゃいます。」
美桜からしたらクラスメイトなんてどうでも良くて、僕を喜ばすことだけが全てなのだろう。その狂気じみた愛を、あの竹取美桜が僕だけに向けられてるなんて事実に興奮でクラクラしそうになる。
「歳下の男子に可愛い可愛い彼女を自慢しながら嫉妬の嵐の中で食べるお弁当。きっと最高に美味しいですよ」
「彼女が作ってくれた弁当の方が、…きっと美味しいよ。」
「そんな強がりしなくていいのに。もうそろそろ限界なの知ってますよ? …話、続けますね。放課後は一緒にイチャイチャしながら帰りますコンビニで色々、そう、い、ろ、い、ろ、買ってから私の家に帰ります、先輩も一緒ですよ。もちろん先輩は朝帰り、学校なんてサボってデートしちゃいましょ?」
彼女は、この方法しか知らないのだろう。容姿で魅了して、甘い言葉で囁いて、そうやって自分を軽んじて全てを捧げることでしか愛を伝える方法を知らないのだろう。もし僕がこのまま彼女の誘惑から逃れ、告白を断ったら。そのあと美桜はどうなるのだろうか。初めて自分を守ってくれる存在、唯一の理解者であり友人、初恋の相手となった運命と思わされるような出会い方をした男の子。その全てを失ってしまう、果たして彼女はそれに耐えられるだろうか。
本当に、彼女の告白を断ってしまっても良いのだろうか。今付き合っている恋人にはきっとこの先新しい男性ができるのだろうが。美桜にはそれが出来るのだろうか。
美桜には、僕しかいないのではないだろうか。
「そーやって、ピンク色に塗れた青春を送れちゃうんですけど」
僕は。
「どうですか?楽しそうでしょ?」
僕は…。
「彼女と、別れたくなりました?……先輩?」
どうすれば良いのだろうか。
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この作品は私の作品、シチュボ台本の保健室で国宝級な顔を持つヤンデレ後輩ちゃんに無理やり迫られる話(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15755337)を小説に書き直した作品です。
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