一章-7
司書に話を聞いてみるつもりなのかヴォルフラムは書庫の中へと踏み行った。中には誰の姿もなく静かだ。
「誰かいないか?」
静かな空間にヴォルフラムの声は響いた。
「誰もいないようだな」
『そのはずはないと思いますが……』
「あれ~? 珍しい声が聞こえるねぇ」
オティーリエの囀る声に惹かれるように姿を現したのはツィーオンだった。いつも通りどこか飄々とした出で立ちにオティーリエは思わず微笑んだ。
「わー! 王太子殿下だぁ、それに青い鳥だー!」
「ここの、司書か?」
「そうだよー、初めまして殿下。ごきげんよう」
そう言ってツィーオンはペコリと頭を下げた。
「あ、ああ……少し、聞きたいことがあるんだが」
「んんー? 殿下が俺に何を聞きたいんですかぁ?」
「王太子妃が倒れたのを、最初に見つけた者は誰か知っているか?」
「んー? 妃殿下を見つけた人ですかぁ? 確か、見回りの兵士だった気がします~俺達司書はここから出ないですからねぇ」
間延びした声でそう言いながら、ツィーオンは何が楽しいのか笑う。
「………そうか。仕事の邪魔をしたな」
「いえいえ」
ツィーオンは何を思ったのかヴォルフラムに顔を近づけると首を傾げた。
「なんだ?」
「災難の相が出てますね~大事な人を失うかもしれません」
そう言ってツィーオンは歯を見せて笑った。
「それは、どういう……」
ヴォルフラムが止める間もなくツィーオンは身を翻すと、立ち並ぶ本棚の森の中へと消えて行った。
「一体、何なんだ?」
『彼とまともに話をしたいのなら、菓子を持ってくることをお勧めします』
「菓子?」
『はい。姫様が良くお持ちになって書庫へ行っておりましたから、恐らく彼に渡すためかと』
オティーリエの言葉にヴォルフラムは眉間に皺を寄せると、どこか訝しげな表情で一つ頷いた。おそらく自分より年上の男が菓子一つで態度が変わるのかと疑っているのだろう。
『これから、どういたします?』
「……姫を見つけた兵を探して話を聞くのもありだが、手紙の行方を探さないとな」
『やはり、あの少年ですか?』
ヴォルフラムの表情が曇った。当たり前だ、信頼していた少年に裏切られたかもしれないのだ。
『まだ、決まったわけではありませんし。もしかしたら、彼に命令している人物がいるのかもしれません』
「命令、か」
『調べる価値はあるかと』
「……ラルスに探りを入れるか、それと姫の侍女たちにも」
『お疑いですか?』
「お前が庇いたい気持ちは分かるが、話を聞いてみる必要はあるだろう? 何しろ、俺の手紙は一通も届いていない」
『しかし、それは……』
「俺は、ラルスにだけ手紙を届けるよう頼んだ覚えはない。侍女頭や視察先から伝令兵に託して届けさせたこともある」
それならば、確かに侍女たちが怪しくなる。けれど、オティーリエは疑いたくはなかった。自分にあんなにも良くしてくれている彼女達が、そのようなことをしているなどと。
「瑠璃?」
『………はい』
「大丈夫か?」
そう言ってヴォルフラムはオティーリエの小さな頭を指の腹で撫でてくる。まるで壊れモノでも扱うような手つきにオティーリエは思わず微笑んだ。
『大丈夫です』
「そうか……なら、行こう」
そう言ってヴォルフラムは歩き出した。




