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15 前世での最後と交わる運命

「ヒューバート!」

「アリソン様!」


 暗い通路からなんとか外に出て、眩しい光に目を慣らそうとしばたたかせたその時、アリソンの前方には最愛の男の姿があった。

 アリソンとヒューバートは互いの無事な姿に、同じ想いで同じ時にここでめぐり会えた事に感謝した。



 あと10秒駆ければ二人が手を取りあえようとしたその時――


「そいつに触るなぁー!」


 アリソンの足首に、アレクサンドルが放つ刃が突き刺さった。


「ああっ」


 二人が触れ合う事叶わなかった。崩れ落ちたアリソンの背後へと追い付いたアレクサンドルに、彼女は羽交い締めにされていた。


「甘い顔をしていれば調子にのりやがって! 俺にお前を傷つけさせやがって! 俺の美学があぁー!! 動くなよぉー金騎士ぃー!」


 自らアリソンを傷つけた事で、さらに発狂するアレクサンドル。ギリギリと容赦なく、アリソンの腕を締め上げる。アリソンを人質に取られたヒューバートは、剣に手を掛けたまま動けない……。


(私の命がある限り、ヒューバートは動けない……。この足では、もう、私も走れないわね……)


 このままでは、ヒューバートまでファクトリアに捕まってしまう。


 ヒューバートを見つめ『ごめんなさい』と口の形だけで描き、アリソンは奥歯に隠した毒を噛み千切った。僅かでも含めば致死する事は間違いなく、王族の亡骸さえも利用させないための猛毒だ。飲んだものの身体は黒ずんで早期に腐敗してゆく。


「な、なぜだ……」


 悶えながら身体を紫色に染めてゆくアリソンに、アレクサンドルは狼狽える。


「あっ、あぁ――ヒューバートお願い、私の身体に毒が回って、醜い姿を貴方に晒す前に私を刺してください。ううっ」

「くっ」


 目の前にいる最愛の女を、毒で苦しませた顔のまま死なせるなんて出来なかった。


 愛するものの前で美しくありたい。戦で女を捨ててきたアリソン最後の望みをヒューバートは叶える――


「いつでも……、どんな時でも貴女はお綺麗です」

「ぐあっ」


 ヒューバートが戦場へ持参し、肌身離さずにいたアリソンのシンプルなグリップと鍔飾りのレイピアが、彼女の左胸を貫いた――背後にいたアレクサンドルの胸共々――


「ありがとう、ヒューバート」


 アリソンの銀糸の髪が風を含んで舞う。会いたかった男に最期に会え、それはそれは幸せそうな顔で彼女は微笑んでいた――




 ここでアリソンとヒューバートの物語は終わる。その後ヒューバートはどう生きたのか、ユベールの記憶でも曖昧だ。その場でファクトリアの兵に捕まったのかもしれないし、バークレーとミルドレッドが抜け殻の彼を守って、王都から連れ出したのかもしれない。


(ヒューバートとしての心が伴った生は、姫が死んだ時に終わったのだろう)


 そうユベールは感じていた。



 ファクトリア王国はグラフ帝国に吸収され一つとなり、グラファクトリア帝国となる。だが、その帝国も内乱で自滅し、現在のグラファクトリア国が建国された。

 ファダール王国があった場所は国の中心として栄え、昔の地名の名残を残し、グラファクトリア国の首都グラファダとなった。


 国がそのように変遷する中、アリソンに忠義を尽くしたバークレーとミルドレッドのその後の千年間はこうだ。


 バークレーはどの生でも、その義理人情に厚い性格から皆に慕われ、常に人の上に立つ者として生きた。


「なにっ! エルの両親を殺した奴が見つかったのか!?」

「あいっ、親分!」

「おうし、さっさとここまで、連れて来い!」



 ミルドレッドは望みを叶え、いつの時代も絶世の美しい女として生まれ変わった。


「お兄さんって、ちょっと前からホント羽振りが良くなったよねぇ~」

「ガハッ、そうかそうか?」

「なんか、秘密のお仕事でもあったのかしらねぇ~」


 二人は記憶がなくとも、アリソン姫――エルシィの力になりたいと今も暗躍している。



 しかし、アリソンは、自死した罪を千年負った。人として千年生まれ変われられない罰を。

 片やヒューバートは、愛する人を刺した罪を負った。10度生まれ変わっても最愛の人と出会えない罰を。


「また、黄金の髪を持って騎士の家に生まれたのか」


 その間、ヒューバートは何度も首都グラファダにおいて、必ず騎士の家柄の男児として生を受けた。生を受ける度にアリソンを探したが、彼女はいつの人生でも見つからなかった。



「とうとう騎士はいなくなったか」


 時は流れ、騎士がいない世となったがそれでもアリソンを守るため、身体を鍛え上げ武術を嗜んだ。


 美しい女はいる。しかし、背中を預けられる銀の戦乙女の生まれ変わりはいつまで経っても現れない。最愛の姫と別れて10度人として生きた。


 1から4度目、希望を抱いてアリソンを探した。自分に記憶があり前世と似た容姿を得たのなら、きっとアリソンも同じくどこかにいるのだろうと。


 5度目と6度目は、前世の記憶を持つ自分がおかしいのかと疑い、記憶持ちについて調べ始めた。

 7度目、6度目の人生で埋めた手記を掘り出し、前世の記憶は真実だと確信する。


 8度目、やはり姫はいないのかと滅入り始める。9度目、繰り返す時にさすがにお先真っ暗になる。10度目、もういっそ姫も自分も、犬でも猫でもいいから見つけ出して番になりたいと思う。


 そして、11度目。ユベールとして生きて25年。

 アリソンが千年の贖罪から解放された今日、ついにアリソンとヒューバートの運命は交わった――


 アリソンの愛称エルシィを名付けられたエルシィと、ヒューバートの他国での呼び方を名付けられたユベールが、ついに互いの存在を認識したのだ。

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