第4話
空珀は頭を悩ませていた、いきなりきた客の今日の夕餉はどうするかと
空珀は料理人ではない、もちろん旅館を営業するにあたって食を提供する為に管理者の資格は取ってあるが料理人ではない、そして収入を見込めない今は従業員を募集する事も出来ない為自分と静夜の二人でどうにかするしかなかった、よく営業許可がおりたものだと今更ながら奇跡に等しいと思う
もう十五時半だ、そろそろ準備をしなければいけない、タイムリミットは客が希望した十八時半、残り三時間しか時間が無い
空珀『……どうしよ…』
いきなり苦境に立たされた空珀だった、静夜はドジだし多分だが料理が出来ない、自分なら一応一通り出来るから自分がやると言ったがいきなり初日に客が来るとは思ってもなかった
旅館のサイトも本当に昨日やっと出来たばっかりで、宣伝も出来てない状態だ、来るとは思いもしない
前も言った通り、ここ月宮は廃旅館だった、状態はとても良かったが廃旅館なのには変わりない、まさか一度潰れた所が営業再開するとは思わないだろう、名前を変えてならまだしもそのままの「月宮」の名前でやってるのだ、変な噂だと流されてもおかしくはない
そして他の旅館がある場所に比べて月宮は温泉街から少し離れた場所にある、ここら一辺は海が目の前にある土地だ、他の旅館と比べたらより静かな時間が過ごせる。
そして海が近くなのだから海鮮を使った料理が良い、が、魚を捌いたことなどない
静夜『空珀、メニュー決まった?』
厨房に入ってくる静夜
空珀『決まってたらとっくのとうに準備してるよ……』
静夜『苦戦してるね、メニューくらいなら僕も一緒に考えるよ』
そう言い二人で唸りながら考える事にした
空珀『まず刺身はあった方が良いよね、捌いたことはないけど…スマホで最悪調べれば何とかなるし…』
静夜『後はー…うーん、夏だしさっぱりしたものが良いかな、麺を使った何かとか、後はデザートにゼリーとか、見た目で涼んでもらおう、色つけるやつとかないかな…』
空珀『……!なら静夜早く作って!ゼリー固まるまで時間はかかるから!ちゃんとそこら辺の事は考えて材料はあるから早く!』
静夜『え、あ、うん!…あ、ゼリーってどうやって作るの……?』
空珀『もー!!!レシピそこにあるから!!』
やはり静夜に任せなくて良かったと心底思う空珀だった
数時間後、何とかギリギリで料理は作り終えた
元々どのプランも客室で食べるようしてある為、二人で料理を客室に運ぶ
瑛良の部屋は二階だ
静夜『夜月様、失礼します』
元々設定してある時間帯になると部屋の鍵をあけてもらえるよう予めお願いはしてある、部屋の扉を開け空珀と一緒に出来た料理を運ぶ
瑛良『…おぉ、これは凄い』
出てきた料理は刺身に天ぷら、白米に海老の入った味噌汁、野菜もとって欲しいと少量の素麺にプチトマトや絹さや、オクラやナスを乗せつゆをかけたものとフルーツを何種類か入れ、海のような澄んだ青色をしたゼリーを出した、ゼリーには静夜が「炭酸ジュースも入れてみよう、絶対美味しいよ」と言いそれも入っている
正直これが今の精一杯だった、それにまだ明日の朝が残っている、それも考えなければいけないのだ
静夜『申し訳ございません、現在これが精一杯で…』
空珀『ちゃんとしたものをお出し出来ずに大変申し訳ありませんでした』
二人揃って頭を下げる、初日だから来ないと油断した罰だ
瑛良『まさか、充分すぎるよ、とても美味しそうだ』
ニコニコと笑って「食べるのが楽しみだ」と言っている
静夜『よ、良かった……』
ホッと一息ついている静夜
空珀『馬鹿っ、それは裏でやって』
再度「申し訳ございません」と頭を下げ静夜を連れて部屋から出て、フロントの方へと向かった
静夜『良かったね、喜んでもらえたよ!』
空珀『はぁ……とりあえず文句は言われなくて良かった…』
歩きながらそう話す二人、立派なものとは言えなくてもそれなりに頑張ったつもりだ、だが「頑張ったから」で許されるはずもない
こちらはサービスする側だ、客は金を払ってそれを受ける側、満足するものを出さなければ
そう思いながら二人はフロントに着き、空珀は少し休憩する為に裏へ行く、静夜はフロントで待機だ
空珀『…はぁ……疲れた…』
椅子に座りぐでっと体勢を崩しふとパソコンの方を見る、予約なんて入ってないだろうが一応確認はしなければならない、確認の為にマウスを手に取りクリックする
空珀『……ん?』
ガタッと立ち上がり目の前にあるパソコンの画面に顔を近づける
空珀『……う、そ……』
一件、予約が入っていた
今日から一週間後、一人の客が来るらしい
二泊三日、三階にある客室の中の一室である特別室の予約だった
そこの部屋には露天風呂もあり他の部屋に比べて値段が高い部屋だ、そこに二泊三日もしてくれる
空珀『…静夜!!』
空珀は急いで静夜を呼び裏へと引っ張る
静夜『な、何なに!?』
いきなり引っ張られて静夜はビックリしている
空珀『ほら、見て!!』
静夜『……!』
何事だと思い静夜はパソコンの画面を見るがその画面を見ると表情を明るくさせた
客の名前は「夏川 剣都」
空珀『…夏川様、か』
静夜『やったね、予約入ったよ!』
空珀『そうだね、けど二泊か…メニューどうしよー…』
今日だけでも精一杯で明日の朝のメニューも考えなければならないのにまだその先の事も考えると頭が痛くなる
この先の事を考えると、とりあえず三泊分のメニューを考えられれば良いのだ
空珀『とりあえず、夏川様の料理、一日目とその次の朝は今日と明日出す料理、これは全客統一』
とりあえずだがこれで月宮の一泊目の夕餉に出てくる料理が決まった、後々季節に合わせて変えたりもしたいがベースとなるものはこれで決まりだ
では朝はどうしよう
空珀『朝、どうする…?』
静夜『んー…僕が行ったことある旅館とかホテルとかだと、やっぱり朝はバイキング形式じゃない限りは白米に味噌汁に干物とか焼き鮭とかかな、後はある所は湯豆腐とか冷奴とかあったよ!』
空珀『やっぱさっぱり系とかかな、漬物も入れたいよね』
とりあえず、白米にあおさの味噌汁、あじの干物に湯豆腐に漬物やら玉子焼きやら海苔やらと至ってシンプルなものにした、デザートはさっぱりとしたオレンジをベースに葡萄やマスカットや林檎を出す事にした、夏なら一口サイズに切ったスイカも出して良いかもしれない
まぁこれで多分大丈夫だと二人は判断する
静夜『…あ、そうだ、夜月様がね二十二時頃話したいことあるからフロントに来るって』
空珀『ねぇそれ先に言ってくれない???』
時計をふと見ると料理を運んでから1時間は経っていた、そろそろ部屋に行って皿を下げても良いかもしれない
空珀『きっと夜月様はもう外にお出かけにはならないと思うから、静夜入口閉めてこよ、もっと人も増えてお客様も増えてたら誰か一人以上はフロントにいるようにしたいから開けたままにしても良いけど…』
なんて話しながら入口に鍵をかけ、静夜と共に瑛良のいる部屋へと向かった