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第3話

家具やらも揃えて、初めての営業開始日となった。時は午後の十五時、どこのホテルや旅館もチェックインの時間帯だ。

勿論初日からお客さんが来るなんて思ってないし、団体で来られても作業が間に合わない。それでもお客が来なきゃ生きてはいけない、矛盾な事を思いながらフロントでのんびり静かに待っている静夜。

空珀は静夜とは正反対に色々料理を作ったり開発したり、と厨で働いている。夏ならばあーだこーだ……と朝から騒ぎながら。

まぁ来るわけないよね…、と思いながらも静夜はサイトも作れたし予約来ないかなー……と思っているところ、旅館の出入口の扉がガラガラ…と音を立てながら開いた。

何事だ、と思い立ち上がると


『わぁ……噂で聞いたけど…本当に綺麗になってる……あ、君がここを買い取ったの?』


白く長い髪を風でなびかせながら、そう質問してくる一人の男性がいた。


静夜『……ぇ、…ぁ、は、はい!僕ともう一人、今厨房にいるんですけど僕の友人とで買い取らせていただいて…今に至るわけなんですけど…』


いきなりの質問にしどろもどろになりながらも受け答えする。静夜の頭の中には「この人は誰なんだ、お客さんなのか?不審者なのか?」という疑問が浮かんでる。思わずその男性をじっ…と見つめると


『嗚呼ごめんごめん、俺は不審者でもなんでもないよ…って言うほど怪しくなっちゃうかな…?あ、そうそう、ここってもう営業中?泊まれたりするかな?』


そう男性は静夜に問う。


静夜『…へ!?…あ、嗚呼少々お待ちください!!お茶もお出しするので…!』


色々混乱しながらもその男性にロビーにある椅子に座って待つように伝えて、走りながら空珀のいる厨へと急いだ。


『……嗚呼久しぶり…月宮……名前も、建物も…生きていたんだね…』


フロントで待たされている男性は椅子に座りながらボソッと呟いた…。






静夜『こーーはーーくーーー!!!速報ー!!』


そう叫びながら静夜はダッシュで走りながら厨に駆け込む……のだが、つまづいて転んだ。


空珀『うわ汚いっ!?…じゃなくて、大丈夫?』


軽く毒を吐きながらも転んだ静夜に手を差し出し助け起こす。


静夜『あはは、ありがと……じゃなくて、ヤバいんだよ!!お客さんが来たの!!』


助け起こされるなり、興奮した状態で空珀にそう伝える


空珀『へぇ凄いじゃん、お客さんが来たんだ……………は、!?お客さん!!?』


流石の空珀も驚きを隠せず、動揺してる。それもそうだろう、前まで廃旅館で、やっと今日が営業開始日となったのだ。そんなすぐにお客さんが来たら誰だって驚くだろう。


静夜『今日泊めていいよね!?ね!?』


お茶を淹れながら空珀に聞いている。


空珀『そ、そりゃ良いに決まってるじゃん!?じゃなきゃ、俺達だって生きていけないし…』


献立だってちゃんと考えてない、と色々な問題をどうしようと考えながらも頷く。いや、頷くしかなかった。


静夜『じゃ、じゃあ僕お客さんのとこ行ってくるね…!』


緊張しながらも初めてのお客さんという事で少し浮かれながらもお盆をの上にお茶とお菓子を乗せて男性の元に向かった。



『…おや、お茶にお菓子ですか…申し訳ないです…こちらが急におしかけたのに……』


静夜がお茶とお菓子を持ってきてくれた事に気づいて「申し訳ない」と謝る。

その客はわざわざ立ち上がり手を綺麗に揃え頭を下げて謝る。その際に綺麗な白髪の長い髪がサラリと揺れて頭を下げると同時に一緒に落ちる。その仕草はどこかの接客で身に付けたような動きだった、模範中の模範と言っても良いほどの綺麗な動きだった。


いつか自分もこんな風に綺麗なお辞儀が出来たらなぁ……なんて考えていたがハッ…と我に返った。お客さんに頭を下げさせるなんて行動、許されるはずない。というか空珀に見つかったら後で何時間説教されるか分かったもんじゃない、我に返り急いでその男性客に頭を下げる事を辞めるよう言った


静夜『あ、頭を上げてください!こちらこそすみません…、初日だからお客さんなんて来ないだろうと油断しててバタバタしてて……申し訳ございません…』


その男性客には及ばないが、自分に出来る限りの丁寧なお辞儀で頭を下げて謝罪した。

こちらは営業側、サービスする側だ。いくら初日だからといって油断は許されない。しかも「自分が予約も無しに来たから…」とこちら側が悪くないように言ってくれて頭も下げてくれている、許されるはずがなかった。完全に経験値の差がそこにはあった。

自分達は社会人となって間もない、その男性は自分達より先に色々と経験してきてるはずだ。しかも最初の対応の時といい、ダメダメなのが痛感するほど分かる。それを思って「自分が悪いから大丈夫」と謝られたなら尚更許されるはずがなく、悔しい。


『…謝らないでください、本来は予約をお願いして来るものです、それを予約も無しに来たのは俺が悪いんです。確かに油断はいけないかもしれませんが今回は俺が悪いんです、ごめんなさい、だからほら、顔を上げてください』


ゆっくりと顔を上げるとニコッと優しく微笑んでくれている男性客、それを見て今回は更に自分のふがいなさを痛感した。







静夜『…はい、では夜月様、一泊二日でよろしいですね?』


その男性は夜月(やづき)瑛良(あきら)と言うそうだ、フロントで受け付けを済まし夕餉の時間と朝餉の時間を瑛良から聞いて再度確認をする。


瑛良『はい、お願いします。嗚呼それと…お話したい事あるんです、今日は多分俺一人、二十二時頃、俺がここに来るので貴方と厨にいる二人で待っててくれませんか…?』


静夜『へ……?は、はい…分かりました』


いきなりのことでビックリはしたが、頷く。


瑛良『…ありがとうございます』


初めに見たあの優しい笑みを男性客は浮かべていた。




瑛良『……では、また後ほど。』


瑛良は再度お辞儀をすると言われた部屋へ鍵を握り部屋へと向かった。





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