第2話
空珀『ちょ、ちょ!静夜!布団洗ってきて!』
そう言って静夜に二人分の布団を渡す空珀。
とりあえず自分達の部屋の掃除をする事になり、押し入れをあけると埃まみれの布団が出てきた。自分達が寝る分には洗えばまだ良いが、客には絶対に出せないだろう、というか出してはいけない。
この先の事も考えるとやはり一度全ての物を買い替えなきゃな…と密かに思う空珀。
静夜『布団なんて僕洗ったことないよ……クリーニングとかに出すもんじゃないの…?』
布団を抱えながら疑問を口に出す静夜。流石年頃の男性なのか、二人分の布団を軽々と持ち上げてる。
空珀『は?何言ってんの、そんな事したらお金が減るじゃん。自分達で出来ることは自分達でやる!分かった!?』
静夜『…はい』
空珀の威圧に怖気付いたのか静夜はそれ以上何も聞かずに静かに布団を洗うことにした。
静夜『はい、休憩にしよ。』
そして数時間後、静夜は自分の仕事もある程度片付き、真夏だしそろそろ休憩を入れようと思い、キンキンに冷えたスポーツドリンクと氷水で濡らしたタオルを持って空珀の頬にスポーツドリンクを付け「休憩しよ」と、そう言う静夜。
空珀は夢中になると周りが見えなくなる癖がある、物事に熱中して取り組む事は良い事なのだが、夢中になって周りの声が聞こえなくなるものだから休憩を取ることを忘れる。
今だって汗だらけになってフラフラになっているのに自室の部屋の掃除をやめない。だから誰かがこうして声をかけてあげない限り止まることが少ないと思う。しかも今は8月という真夏の気温。エアコンの掃除だってまだしていないからつけられない、そんな中休憩も取らずに働き続けたら熱中症になって倒れてしまう。
空珀『…冷たっ!?…ぁ、……ありがと、また俺夢中になってた?』
我に返り掃除をする手を止め、差し出されているタオルと飲み物を受け取りながら問う。
静夜『うん、そんな事してたら空珀、倒れて死んじゃうよ…?』
静夜は空珀の隣に座りタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲み、心配そうにそう言う
空珀『…ん、気をつけるようにはしてるんだけどね』
「中々直らないよ」と空珀は軽くため息をつきながらスポーツドリンクを飲む
だが空珀のその頑張りもあってか、部屋は片付いていた。最初とは比べ物にならないくらいに。
静夜『いやー、よく綺麗にしたね。僕なら……う〜ん……三日はかかるかも』
へにゃっと笑ってみせる静夜。元々マイペース気味の静夜なら有り得なくはないだろう。
いやもしかしたら一週間かもしれない。
空珀『三日とか…ありえない、部屋の掃除に庭の掃除も出来るじゃん』
静夜『それ倒れるやつ…』
はぁ……、とため息をついてる静夜。
この様子じゃこの性格は死んでも直らないだろうとでも思っているのだろう。
その後も自分達で出来ることはしていった、少しでもお金がかからないように、と。
そして一週間、業者に頼み念入りに掃除をしてもらった。全てはここで営業出来るように、と。
こうして月宮温泉旅館は綺麗になった、使えない家具等も全て撤去し買い替えた、ただ綺麗で中身は空っぽな月宮温泉旅館。
空珀『ここからがスタートだからね、静夜?』
旅館の入口の前に立ち腕組みしながら見上げている空珀。
静夜『はいはい、分かっているよ。ここからは僕も真剣にやるよ。』
空珀とは正反対で庭にある池を覗いて鯉に餌をあげている静夜。
ここからがスタートだ、ここからが始まりだ。
自分達の夢をここで叶えてみせる。
それぞれ己の心にそう誓い、覚悟を決めた。
何があっても上手くやってみせる、反対されていた人たちを見返してやる。だがこれじゃあただの復讐物語となりかねない。だからこう思う事にしよう
___自分達が楽しく働ける場所を作ってみせ、繁盛させ、びっくりさせてやる。サプライズだ
……ってね。