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生命の泉

作者: はんぺん小僧
掲載日:2021/01/13

 ある所に小さな島があった。その島は、若返りの泉があると噂されており、昔から多くの冒険家がその島に行き、消息を絶った。そしてまた、噂を聞きつけた一人の冒険家がその島を訪れた。

 冒険家の男は五十歳を過ぎていたが、とても五十とは思えないほどの瞬発力と身体能力を持った、貫禄のある男だった。男は一日に一本しか来ない渡舟を使って島まできた。島には民家もあることから無人島ではない様だったので、男はひとまず民家を訪ねる事にした。

「すいません、誰かいませんか?」

男は戸を叩きそう言うと、しばらくして一人の老人が民家から出てきた。老人は珍しい物を見るように男を見て、こう言った。

「旅のお方ですか、これは珍しい。何も無い島ですが是非ゆっくりしてください。」

男は老人に泉の事を聞く事にした。

「ここの島に若返りの泉があると聞いたのですが、何処にあるか分かりますか?」

「…生命の泉の事ですか…。」

男は動揺を隠せなかった。お先程まで優しく微笑んでいた老人の顔が、暗い真剣な顔付きとなっていたからだ。男はある一種のタブーに触れた様な感覚になりながらも老人との会話を試みた。

「やはり有名なのですか、知っていることを言える範囲で良いので教えて下さい。」

「無欲であれ、そうここの村では言い伝えられています。生命の泉にいるときだけではなく、この村にいる以上常に無欲でいなさい、分かりましたか。」

「はい、分かりました。ありがとうございます。」

男は老人に向けて礼をした。常に無欲であれ、男は言われた事を反芻しながらそう自分に言い聞かせた。そして男が出発しようとすると、老人は泉の場所を男に教え、民家に戻った。

 男は老人に教えられた通りの場所にいた、後ろには広大な海が広がっていて、前には洞窟と木製の小さい看板が刺さっている。看板には『此処から先、聖域也』と掠れた文字で書かれていた。男は洞窟の中へと入った。床は緩やかな坂道になっているが、整備されていたので歩きやすくなっていた。手元の懐中電灯だけを頼りに、長い道を歩く、静かな空間に男の足音だけが響いた。歩き続け、海の潮の臭いもしなくなった頃、光の先にキラキラと輝く物が見えた。男はすぐさまそれが、水による光の反射だと分かった。男はとうとう泉についたのだ、男が足元を照らすとすぐそこに泉があった。男はしゃがみ込み、持ってきていたビンを使い泉の水をすくい上げた。そのビンを懐中電灯で照らす、水の色は普通の水と変わらず臭いも別に変わったところはなかった。改めて男は泉の全体を照らす、泉は今にも溢れそうで、奥を見ると泡が出ている事から、この泉の水は湧水だと分かる。男は衝動に駆られ、ビンの中身を思い切って飲んでしまった。しかし男が感じた変化はなかった、そこで男は裸になり全身をくまなく調べた。すると右手の指先の肌が、左手に比べて若々しい事に気付いた。男はこれを見て、この泉の水は触った所から若返っていくのだと知った。男は心底驚き、若干の恐怖も覚えた。しかしその感情は好奇心によって打ち消された、男は持ってきたビン全てにその泉の水を入れた後、泉の中へと入った。冷たい水が男の肌に鳥肌をたてさせる、泉はそこまで深くなく、足もつくほどだった。だが男はすぐ足もつかなくなると思い、すぐ上がった。男の体はおよそ十代後半の体になっていた。そして男が服を着るために、リュックサックをとろうとした瞬間、リュックサックが泉の中へと落ちてしまった。男は慌てて泉の中へ飛び込んだ。懐中電灯がまだ光っていたため、リュックの場所と、そして泉の底を男は見た。少年や少女の死体が山の様に積み上げられている。男は怖くなった。リュックを持ち、急いで水面に顔を出したが、先程まで近くにあった岸が何故か遠く見える。急いで泳いだが、泳げば泳ぐほど岸は遠くなり、体力も尽きていった。男の見た目は赤ん坊の様に小さくなっていた。男は力尽き、息絶えたがリュックの重みで沈み、そのまま浮かんでくることはなかった。

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