第92話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
前回のお菓子との違いにも気が付き和やかに進んでいた午後のお茶ですが、アンリの厳しめの評価で雰囲気は一変。アンリがお茶を淹れた結果、ログリッチとの違いに皆びっくりです。
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「アンリ、その言葉はお茶の先生の・・・」
「やはり祖父のお知り合いなのですね?お弟子さんですか?」
「お二人以外の方にも分かるようにお答えしますが、今の『99点を取れる様に』という言葉は、以前ヴァンガーデレン家に雇われていたお茶の先生である、ポガチャル先生の口癖です。私は先生にお茶の淹れ方を教わりました」
「ではログリッチさんは、その先生のお孫さんなのですね・・・」
「はい、ログリッチさんは憶えていないでしょうが、私とも一度お会いしたことがあるのですよ。5歳ぐらいだったでしょうか」
「・・・そうなのですか?」
ログリッチは目を瞬かせる。
「ええ、私が先生にお茶を習い始めたばかりの頃、帰りが遅くなってしまい先生をご自宅まで馬車で送って行った時に。お母様と一緒に玄関まで出てきて先生を出迎えていましたね」
「おそらく30年ぐらい前ですね。父が亡くなり、王都の祖父の家に引っ越したのがそれぐらいの歳だったと聞いています」
「30年前に玄関先でやり取りしただけですから、憶えていないのも当たり前です。私も先程まで忘れていましたから」
「それでお茶を淹れている間、手元では無く顔を見ていたのですね」
「おやキースさん、気付いておられましたか」
「ええ、あれだけお店とお茶の事を気にしていたのに、なんで手元では無く顔ばかり・・・と」
「さり気なく見ていたつもりでしたが・・・まだまだですね」
「どの辺りで自分がポガチャルの孫だと気付かれたのですか?」
「はい、まずはワゴン上の茶器の配置ですね。そして手付き。この2点でポガチャル先生の教えを受けているという事が分かりました。ですが、この時点ではお孫さんとまでは思っていませんでした」
「ですが、見ているうちに目元と鼻の形が先生に似ているなと感じました。その途端、髪の毛の色と髪型が、私の記憶の中の小さいあなたにぴったり嵌ったのです」
「そうでしたか・・・」
「ベルナル様も先程の言葉を憶えていらっしゃる様でしたが?」
「ええ、特性が出始めた頃に、庭でお茶をしているおばあ様の横で魔法の練習していたのです。発動できて喜んでいると、おばあ様がポガチャル先生に『中々見込みがありそうなの。ポガチャルはどう思います?』と尋ねたのです」
「お茶の先生に魔法のデキを尋ねたのですか・・・?騎士に明日の天気を予想させた方が、まだマシなんじゃないでしょうか」
キースが首を捻る。
「そ、その辺は孫可愛さということで勘弁してあげて下さい。で、先生は、私はお茶の事しか能がありませんがと断ってから仰ったのです」
「『何事も100点を目指す訳ですが、どんなによくできたとしてもそれは99点であると考え、できた事に喜んでもそこで満足してはなりません。引き続きご精進なされませ』と」
「この会話の流れでそれを大奥様に言うのですか・・・凄いですね」
この場合の「どう思いますか」という問は「うちの孫上手に出来てるでしょ?褒めても良いのよ」という事だ。それに対して「満足しないでもっと頑張れ」と返したのである。
「あの時は褒めてもらえなかったと感じたのですが、今思うとそれどころでは無い、大変な状況ですよね・・・」
ベルナルも遠い目をしている。
「なんというか・・・祖父が申し訳ありません」
ログリッチは平身低頭だ。
「いえいえ、今ならあの言葉も納得です。生きていく上で非常に大事な考え方です。満足してしまってはそこで成長は止まってしまいますから」
「先生がヴァンガーデレン家から離れたのがちょうど15年前、その3年後に亡くなられたのですよね」
「はい。ヴァンガーデレン家からお暇をいただく頃には、味覚がかなり弱くなっていた様で、『後進も育てたからもう満足だ』とよく言っておりました。アンリさんの事だったのですね」
「まだまだではありますが、何とか勤めさせていただいています」
(あれでまだまだとは・・・でも、99点主義の先生の弟子だからなぁ。まだまだって言うよな)
「時に・・・ログリッチさんはなぜここでお店を?王都でも十分やっていけるのではありませんか?それだけの腕はお持ちだと思いますが・・・」
「私も訓練校を卒業してからつい数年前までは、王都の店で働いていたのですが・・・」
ログリッチは苦い顔で語り出す。
「ふとした事から、私がポガチャルの孫だというのが広まってしまいまして。ある貴族が自分がパトロンになっている店に、私を引き抜こうとしてきたのです」
「で、元々店にパトロンとして付いている貴族と揉め始めました。それが酷くなって営業に支障が出てきてしまい、居づらくなってしまい辞めました」
「うわぁ・・・」
「これだから貴族というのは・・・」
ベルナルはテーブルをじっと見つめ反応しない。テーブルの木目を数えている様だ。
「幸い父と祖父が遺したお金がありましたので、しゃかりきになって働く必要はありません。独り者ですから、自分の食い扶持だけ気にすれば良いですから、程よくお客様の相手していこうと、ここに店を出しました」
「そうでしたか・・・それは大変でしたね。もしまた王都でやってやろうという気になった時には、ぜひヴァンガーデレン家にご連絡を。ポガチャル先生のお孫さんで腕も十分であれば、お母様もおばあ様もきっとご助力くださるはずです」
「ありがとうございます。ですが自分がまだまだである事は思い知らされましたから・・・もう少し修行を積んでからにしたいと思います。ところで・・・」
「ベルナル様は、ヴァンガーデレン家のご当主様のご子息なのですか?アンリさんはそのお付の方なのですね?」
「あ、はい。今は北国境のダンジョンの管理官を務めています」
「これから王都へ行かれるのですねよね?もしよろしければ、ご当主様と大奥様に、おかげをもちまして、ポガチャルの孫は元気に過ごしておりますと、お伝えいただけますでしょうか」
ログリッチは申し訳なさそうに申し出る。
「承知しました。ポガチャル先生のお孫さんの消息が知れて、お二人もきっと喜ぶでしょう」
「先輩に使い走りの様なお願いをしてしまい恐縮ですが、お二方にお礼を伝えられる機会など、そうはありませんので・・・」
「・・・何かありましたか?」
「祖父が亡くなった後、身体の弱かった母も続けて亡くなりました。その際、それぞれご当主様の名義で香典をいただいておりまして。急に一人になってしまった私のことを、かなり気にかけていただいていた様です」
(元使用人とその家族に対してそこまでするのか・・・長い歴史のある大貴族は伊達じゃないな)
もちろん、全ての使用人に対して常にそこまでしている訳では無い。
長年に渡り、自分達と来客の為に極上のお茶を入れ続け、あまつさえ後継者まで育てていったからこその待遇だ。
「そうでしたか・・・承知しました。必ずお伝えします」
「よろしくお願いします」
ログリッチは頭を下げた。
「では皆さん、そろそろ参りましょうか」
そう言いながらベルナルが立ち上がる。
「はい、美味しいおやつもいただきましたし、お二方にお土産話もできました。ログリッチさん、ありがとうございました」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそとても良い経験をさせていただきました。ぜひまたお立ち寄り下さい」
「幸い、ここは北国境のダンジョンからも王都からも近いですからね。また折を見てお邪魔します」
「はい、次回お越しになるまでに今回以上の点数をいただける様励みます」
「楽しみにしていますよ・・・フフ」
アンリが不敵な笑みを浮かべる。
今日の評価は厳しいものだったが、本人にめげた様子は全く無い。
ログリッチの表情と態度は、これならそう遠くないうちに99点がもらえるのではないだろうか、と感じさせた。
「それではログリッチさんまた!」
「はい、皆さんもどうぞお気を付けて」
皆が馬車に乗り込み、窓を開けて最期の挨拶を交わす。それを合図に馬車が走り出した。
(よし、詰所の夕食の仕込みをしたら、茶葉の分量から調整してみよう)
ログリッチは、馬車が見えなくなるまで見送ると、大きく伸びをし店の中に戻っていった。
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