第88話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
「近くにある古代王国の遺跡を見に行きたいです」と言うキースの希望で、かつて城塞だった遺跡にやってきたアリステア一行。もうお宝は無いと思っていましたが、魔法陣で隠されていた扉を発見しました。
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「扉に罠は・・・どうかしら?」
「手をかけて隠してありましたし、ここはいわゆる居住スペースですから大丈夫だと思うのですが。少なくとも扉は普通の扉です。魔力的におかしい点はありません」
「念には念をという事で、私が最初に触ろう」
アリステアが鍵開け用工具を手に扉の前にしゃがみこむ。
が、すぐに立ち上がる。
(・・・?)
皆が訝しげにしていると振り返り、きまり悪そうに頭を掻く。
「この扉、鍵穴ついてないわ」
3人はずっこけそうになったがなんとか堪えた。
「・・・あ、あ~、という事は部屋の主はやはり魔術師ですね。魔法で開け閉めしていたか、魔力登録された人しか入れないようにしていたのでしょう」
「・・・魔石が鍵になっていなくて良かった」
アリステアが昔を思い出してブルっとした。
「扉に魔力供給もされていませんから、魔力切れで鍵を維持することができません。そのまま開けられると思います」
「しかし、長い年月隠されていて誰も開けていない部屋だ。中にまだ稼働している『守護者』がいるかもしれん。皆壁際に寄ってくれ」
クライブが盾を構えながらドアノブを掴む。
「では結界も張りますね」
皆の周囲を青白い光が覆う。
「よし、ではいくぞ」
「はい!お願いします!」
「せーの!」
掛け声と共にクライブが勢いよく扉を開けた。
何も起こらない。
爆発もしないし、部屋から何かが出てくる事も無い。扉の上からたらいも落ちてこない。
耳を押さえてしゃがんでいたキースは、手を下ろし立ち上がる。
「大丈夫・・・かな?」
「後10数えてから動こう」
「い~ち、に~い、さ~ん・・・」
(小さい頃に一緒に風呂に入った事を思い出すな)
「・・・じゅう!」
「よし、どうだ・・・?」
入口の脇からそーっと中を覗き込む。
まず最初に目に入ったのは応接セットだ。
さらに、ベッド、その枕元に熊のぬいぐるみ、机と椅子、机の上には数冊の本と、ごく普通の部屋だ。しかし、入口がある壁以外の3面は、天井から床まで大きな本棚であった。
本棚には隙間なく、びっしりと本が収められている。
(これはキースが喜びそうだな)
3人はそう思ったが、当の本人は難しい顔をしている。
「これはおかしいですね」
「ん?何がだ?」
「この部屋だけ朽ちておらず埃も積もっていません。まるで今も使われているかの様な状態です」
確かにおかしい。
3人はキースの言葉を聞いて、先輩冒険者として、そこに思い至らなかったことに恥ずかしくなった。自分たちこそ舞い上がっている様だ。
「おそらく、部屋全体が保護の魔法陣の影響下にあるのでしょう。先程の扉を隠していた魔方陣といい、部屋の主は相当な魔術師ですね。特に魔方陣関係に強かった人物なのではないでしょうか」
4人はそっと部屋の中に入り、内部を確認し始めた。
「これは・・・何も書いて無いか・・・」
フランが机の上を見ながら独り言の様にポツリと零す。
それを聞きつけたキースがそちらを見ると、そこには一枚の紙が置いてあった。短い文章が書かれている。
「フラン、その紙、何も書いていないですか?」
「・・・? ええ、まっさらな紙よ」
「僕には古代王国語で二行ほどの文章が書いてあるのが見えるのですが・・・アーティ、クライブ、ちょっとお願いします」
「お、どうした?」
「机の上に紙が置いてありますよね?何か書いてありますか?」
「いや、何も書いて無いぞ」
「同じくだ」
「そうですか・・・どうやら、その紙に書かれた文章が見えているのは、僕だけみたいですね。一定以上の魔力量がないと見えない様にしてあるのかもしれません」
キースは机に近づいて紙を手に取り読み始めた。
「えーと、『 これを読んでいるあなたへ。この部屋を見つけだした事、そしてこの文章が読めている事から、あなたはこの部屋に蓄えられた知識を使いこなすだけの力をお持ちの様ですね。そんなあなたにご褒美として、この部屋の全てを譲ることにします。活用してくd』・・・」
キースはそこまで読んで黙ってしまった。
3人がキースを見ると、驚愕に目を見張っている。
「どうしたキース、大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・すいません・・・えーと、『 活用してください・・・エレジーア』」
「凄いな!これ全部か!大変なお宝だろ・・・おめでとうキース!」
「エレジーア・・・最近その名前を聞いたような気がしますけど・・・いつだったかしら」
「ここまで出かかっているのだがな・・・」
クライブが唸っている。
「エレジーアは、古代王国中期頃の魔術師です。魔法陣研究の第一人者とも言われており、僕も常に写本を持ち歩いています」
キースは無表情である。さすがに色々と処理が追いつかないようだ。
「これ全部がエレジーアの書いた書物なのか?」
部屋三面、天井から床までの大きさの本棚にびっしりである。数百冊はあるだろう。
「さすがに全部自分で書いたものではないと思いますが、本棚に入れてあるという事は、手元に置いておきたいと判断した訳ですから、どれもとても貴重なものでしょう。まさかこんな・・・あぁ、どうしよう・・・これ全部僕にくれるって・・・」
「思い出した。あの悪党3人組の、魔術師とキースがやり取りしていた時に聞いたのよ。確かサームズといったかしら?」
「あぁ、あの気持ち悪い追い剥ぎ魔術師か!」
エストリア王国の南にある都市国家群、プラオダール連合から流れてきた、ソロの冒険者を仲間に入れ追い剥ぎ行為を繰り返し、冒険者ギルドでの大立ち回りの末、アリステア達に捕まった冒険者3人組の事だ。
まだ呆然気味のキースの横で、夫婦がさして重要ではない事で盛り上がっている。
「そのエレジーアの部屋を書物と一緒に引き継ぐのか・・・めでたいが、ここから出てこなくなってしまうぞ」
「どうしましょうか・・・」
「持ち運びに不自由しない程度に選ばせて、一旦部屋を出たいですな」
「それしかないか・・・おい、キース、キース!」
まだぼーっとしているキースの肩をアリステアが揺する。
「アーティ、どうしましょう、こんなにたくさん持って帰れないです・・・」
「当たり前だろう・・・とりあえず、どうしても外せないという本を2、3冊選んで持っていこう」
「そうですね・・・でも選べるかな」
キースは、あーでもないこーでもないと散々迷いながら、やっとの思いで3冊の本を選んだ。晩年に書かれたらしき研究書2冊と、エレジーアの弟子が書いた、エレジーア個人についての本だ。
3人はいい加減待ちくたびれ、ベッドに腰かけながらその様子を眺めていた。
「かつてないほどの難しい課題でした・・・」
「そうか・・・お疲れさん」
「この部屋、このままにはできないわよね?どうするの?」
「扉は、見つけた時にかかっていた隠蔽の魔方陣を使い隠しましょう。さらに扉に< 施 錠 >の魔法を掛けます」
「で、部屋の中には転移の魔法陣を設置します。そうすればいつでも来ることができますから。でないと落ち着いて旅ができません」
「あ~、確かにそうだな」
先程の様子を思い浮かべる。
「ここにある本を読み切って、興味がある事だけを試すにしても、何十年もかかるでしょう。とりあえず確保だけきちんとしておいて、ゆっくりやります」
(初めてのダンジョンで魔物暴走と特殊個体のタイラントリザード、初の遺跡探索で本ぎっしりの魔術師の私室を発見・・・その辺のトレジャーハンターなんて目じゃないな・・・)
(昨日も思ったけど、どういう星回りなのかしら。この先が思いやられるわ)
部屋の隅に転移の魔法陣を置き、部屋を出て扉に< 施 錠 >の魔法を(思い切り魔力を込めて)掛ける。
さらに、鞄から容器に入った塗料を取り出し、先ほど魔方陣を写し取ったノートを見ながら扉に書いていく。
「この塗料は乾くと透明になって、ほとんど見えなくなるのです」
書き上げた魔方陣を起動させると扉は見えなくなり、壁だけになった。
「これでよし!では残りを見にいきましょう」
(あ、まだ回るんだ)
(あれだけの成果を得たのだからそちらに取り掛かるかと思いきや、中途半端にはせず完了させてから次へ行く。これも性格か)
といっても、2階建ての建物で一番奥の部屋まで来ているのだ。後は屋上くらいである。
瓦礫を避けながら階段を上り外に出る。
大型のカタパルトの痕跡があるのは城壁と同じだが、これだけの高さがあると景色が良い。1階の天井が高い作りの為、5階相当程の高さがあるのだ。
北はダンジョンとトゥーネ川、その先にターブルロンド、東を向けば河口から海が、西はトゥーネ川が地平線まで伸びている。
「キース、次はどこに行きたい?」
「はい、両親に会いに行きたいですね。もう4年も顔を合わせていませんし、首席卒業と冒険者になった事の報告もしたいです」
「そうだな!それは確かに大事だな」
「遠征先は北西の国境よね。ここから馬車だと・・・半月ぐらいかしら」
「道中で興味を引くものがあればそちらに寄ってもいいし、街や村で依頼を受けてもいい。その辺は自由が利くからな、なんとでもなる」
「はい!よろしくお願いします!」
(ライアルとマクリーンが驚く顔が目に浮かぶな。楽しみだ)
「それでは戻りましょうか!皆さん、今日はありがとうございました!大満足な一日でした。やはり遺跡は良いですね!昔を振り返りながら、本まで手に入るなんて!他の遺跡でも貰えるかな・・・」
「普通、遺跡で本とか貰えないから・・・」
(でも、ここまでくると、キースならもしかしたらって思っちゃうわね)
皆はそんな事を考えながら帰路についた。
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