第85話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
遂に情報漏洩の犯人の居場所を突き止めました。これから捕らえに行きます。
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私は、今日の昼間届いた、自分宛ての書類の筒を眺めながら、何度目かの溜息を吐いた。
(先月届いたばかりなのに・・・王都ではそんなに色々な事が起こっているのだろうか)
送られてくる度にいつも思う。
書かれているのは、貴族の社会での、仲違い・結婚・別れ話・誰かの仕事でのやらかし・噂話、だいたいそんなところだ。
(まぁ、それでもいつも通りやるだけだが)
若い頃は色々と気持ちの整理が大変だったが、いつしかそんな気持ちも無くなり、完全に作業の一つになった。
封を開けようと筒に手を伸ばす。
その瞬間、伸ばした腕に掴まれた様な感触を感じ、上半身と顔が机に押し付けられる。
(なんだ!?)
大声を出す。
ここは兵舎だし、隊員が寝静まるにはまだ早い時間でもある。叫び声が聞こえれば誰かが部屋に来てくれるだろう。
(声が、音が聞こえない!?)
喉には、大声を出している時の感覚がある。しかし、現実に自分の声が聞こえない。
気がついた時には、私の周囲は複数人に囲まれていた。その瞬間悟った。
(あぁ、そうか・・・遂に・・・)
自分でも驚くほど落ち着いていた。
半年程前に、ヴァンガーデレン家に連なる管理官が赴任してきた時点で、「多分そうなんだろうな」とは思っていた。
「たまたま異動してきました」みたいな、そんな甘っちょろい偶然がある訳がない。漏洩ルートを調べ上げた結果ここに辿り着き、最終的に漏らしていた人間を捕らえに来たという事だ。
机に押し付けられた私の顔の前に、一枚の紙をが出てきた。
紙には「大声を出すな。守れるなら拘束を解く」と書かれている。
(押さえつける力の入れ具合とびくともしない押さえ方、いつ部屋に入ったかも分からない気配の消し方、音も聞こえないこの状態、1対複数、このまま簡単に殺せるな)
抵抗のしようが無い状況に、私は机に左頬を押し付けたまま頷いた。
力が緩み拘束が解かれ、上半身を起こし室内を見渡す。そこには、管理官とその執事、魔物暴走を食い止めたあの冒険者達がいた。
(魔術師までいたのか・・・気配や音は魔法で消してたのか?)
「なぜ・・・私だと?」
魔術師の少年は筒の封を切り、中の書類を取り出し裏返すと、机の上に置いた。
「これです」
彼が指し示した紙の右下部分には、キラリと僅かに輝く何かが付いている。
「魔石・・・?」
「これに僕の魔力を流してあります。配達された後に< 探 査 >の魔法で探しました」
(こんな欠片クズの様な大きさの魔石に含まれた、僅かな魔力で位置を・・・)
人生が終わりに近づきつつある状況なのに、純粋に感嘆してしまった。
「では、なぜあなたがこの書類を持っているのか、お話いただけますね、タニスさん」
「ええ、事のを全てお話します」
私は語り始めた。
【タニスの話】
ヴァンガーデレン家の方は、お屋敷で父がお世話になる前の事はご存知ですか?ご存知ない?
では、その辺りからお話しさせてもらいたいと思います。
父はお人好しというか、「断れない人」でした。同僚に仕事を押し付けられ、皆と同じ給料なのに、一人だけ早朝から夜まで働いていました。
さらに、給料が入ると同僚から金を無心され、生活費の事も考えずに貸してしまう。当然返済なんてされません。体よく毟られていただけなんですよね。母はいつも怒っていましたが、最期には呆れ果て出ていってしまいました。
流石に母が出ていった事はショックだった様でした。もっと早く気がついてほしかったところですが・・・すぐにその職場を辞め、王都に移り住みました。私が13歳の頃です。
幸い、仕事はすぐに見つかりました。「決められた事を決められた通りに」という清掃作業は、お人好しではありましたが真面目な父には向いていたと思います。
私は訓練校を卒業し、衛兵となりここに配属されました。配属して2ヶ月程経った頃、仕事中の私に、行商人の格好をした男が近づいてきました。後で思い返すと、行商人にしては目つきが鋭すぎて、妙な気配を放っていたとは思いますが。
「お父さんからの手紙を預かっている」と筒を渡されました。
その男とはそれっきりで、会った事はありません。名前も分かりません。
仕事が終わってから部屋で開けてみると、父が屋敷で盗みをしたが屋敷の人達にはバレていない事、定期的に送られてくる書類を川に流す事、他言無用、みつからない様に行う事、という文章と、父の癖のある字で書かれた謝罪の文章が入っていました。
父は一体何をやっているのかとがっかりしました。私が仕事に就いた事で、自分の給料は全部自分で使える、そもそも別に賃金が安い訳でも無い。なぜそんな事をする必要があるのか、全く理解できませんでした。
その翌月、書類は本当に送られてきました。まだどこかで本気にしていなかった私は慌てました。
書かれた内容はゴシップの様なものですが、大貴族であるヴァンガーデレン家から他国へ向けて情報が流れる、それがどういう事なのか、まだ子供の私でも解りました。
これは絶対に外へは出してはならない物だと考えましたが、川に流さなかったら王都で父がどうなるか分かりません。
私は無い頭で必死に考えました。そして一つ思いついたのです。
「文章の中身を書き換えて流す」という事を。
家名や個人名を一文字だけ変えたり、似たような名前、特に口に出した時に聞き間違えてもおかしくない様な名前に書き変え、それを川に流しました。
最初のうちは、また誰かが来て咎められるのでは?と、落ち着かない日々を過ごしていました。しかし、回数を重ねても誰も来ない。そのうち、「重要な内容ではないから、裏取りもされていないのではないか?」と気が付きました。
情報が重要な事で、それに基づき人を動かそうとするのであれば、その情報が本当なのかどうか、事前に確認するでしょう。
しかし、書かれた内容はほとんどゴシップと言ってもいい内容です。それ単独ではもちろん、別の情報と結びつけても、活用できる状況が無かったのではないでしょうか。
書類を受け取る様になって15年が経過しましたが、結局誰からも一度も接触はありません。
まぁ、よくよく考えてみれば、私の役目は受け取った書類筒を川に流す事で、私が書き換えている事など誰も知らないのですから、私の所に来る筈も無いのですが。
送られてきた書類の原本は全て保管してあります。
漏れは無いはずですが、文章の頭には日付も入っていますので、抜けがあってもすぐに判るでしょう。
以上が私の知る全てになります。
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(これは・・・どうなるのだろう・・・)
結果的に情報は他国には漏れていなかった。逆に、偽情報が流れた事で、向こうが混乱し、こちらへの工作が無くなったりした事もあったかもしれない。そうなると助かったとも言えるが、それは証明のしようが無いし、そもそもそういう問題では無い。
「確かに情報は漏れていませんでした。ですが、そういう行為を行っていた者がヴァンガーデレン家に出入りしていた、という事実は事実。めでたしめでたしという訳にはいきません」
ベルナルが静かに、きっぱりと言う。
「では、どうされます?父と私を処分しますか?」
「タニスさん、あなたの父上は亡くなられたのです」
「!?」
「亡くなったからこの件が判明したのです。自室に全てが書かれた手記がありました」
「そうでしたか・・・」
タニスは目を閉じる。
「こちらとしては、まず原本の書類を回収する事。手記にも送った日の日付が入っていたそうですから、書類の日付と照らし合わせたいと思います」
「それと、タニスさんもこのままという訳にはいきません。原本の書類を読んでいるのですから。このままここで、衛兵を続けてもらうわけにはいきません」
「秘密の保持と言う意味もありますが、もう書類は川に流れないわけです。それを不審に思った者が確認に来るでしょう。あなたの身が危険です」
「こちらとしては、衛兵を辞めていただいて、ヴァンガーデレン家で働いていただきたい。どうしても衛兵を辞めたくないというのであれば、王都に異動した後、ヴァンガーデレン家の屋敷の警備隊に配属してもらいます」
(どちらにしても、ヴァンガーデレン家の目の届く所にいてもらうという事か。そりゃそうだよね)
「分かりました。特に衛兵という仕事に拘りがある訳でもありませんので、衛兵は辞め、ヴァンガーデレン家で何か仕事をさせていただければと思います」
「では、その方向で手配します。送られてきた書類は持ち帰りますので、出してください」
タニスがテーブルに備え付けられている引き出しの鍵を開け、紙束を取り出した。70枚近くあるそれをアンリが受け取り、文箱の中に入れる。
「とりあえず今日はこれで終わりです。最後にタニスさん、書類をここで止め続けていただき、ありがとうございました。ヴァンガーデレンは国賊にならずに済みました」
「こちらこそ、せっかく雇っていただいたにも関わらず、恩を仇で返す様な不始末により、たくさんの方にご迷惑とご心労をお掛けしました。父に代わり謝罪致します。申し訳ありませんでした」
ベルナルが皆に向かって頷く。
キースが再び< 隠 蔽 >の魔法を皆にかける。帰りも見られる訳にはいかない。
誰の姿も見えないのに扉だけが開閉し、部屋は再び静寂に包まれた。
書類を受け取っていたのはタニスさんでした。
もう数回で終ると思います。
18日~21日の間旅行に行っております。
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