第81話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
王都に戻ったキースとアンリ。ヴァンガーデレン家の当主と大奥様に途中経過の報告に来ました。これから面会ですが、果たして・・・
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アンリに続いて待合室から続く通路を進む。
指定された「楓の間」は、待合室から4つ目の部屋だった。
部屋の調度品も女性向けというか、細工が細かいものが多い。壁などの色合いも優しい印象で、飾られた花も色彩豊かで華やかだ。
(用途や誰が使うかによって、様々な種類の部屋を用意するのか)
「キースさん、鞄はこちらの籠に入れていただけますか?もし出しておきたい物があれば今のうちにお願いします」
(これも安全対策だな。鞄から何を出されるか分かったものじゃないし)
そのまま籠に入れようとしたキースだったが、ちょっと思い付いた事があった為、書類を入れる筒を鞄から取り出した。
鞄を片付けるとすぐに、扉の外に気配を感じる。アンリもより姿勢を正す。
扉が開くと、50代後半程に見える、背が高めで細身の女性が入ってきた。続けて、最初に入ってきた女性をそのまま歳を重ねさせた、と言っても良いぐらいよく似た女性が続く。
(このお二人があの・・・)
最初に入ってきた女性が、現在の当主であるリーゼロッテ・ウル・ヴァンガーデレン、2人目の女性が先代当主、リーゼロッテの母、ベルナルの祖母、先々代の国務長官、他派閥からは「魔女」とまで呼ばれた、「あの」エヴァンゼリン・ウル・ヴァンガーデレン。
(僕は今、王国の生ける伝説と同じ部屋の空気を吸っているんだな・・・)
リーゼロッテも相当だが、やはりエヴァンゼリンの身に纏う空気というか雰囲気が凄い。自然と膝を折りたくなる様な気持ちになってくる。
(これで80半ばとは信じられない)
キースはアンリから馬車での移動中に聞いた、この女性2人についての話を思い出していた。
「見た目、性格、まさに母娘と言ってよいでしょう。お二人共常に冷静沈着、感情に任せて声を荒げるなんて事はまずありません。特性もお持ちなのかもしれませんが、その辺りを尋ねられる人はいないでしょうね」
「以前、何かの祝賀会の折に、お二人の事を『魔女と魔女見習い』と揶揄して笑った他派閥の貴族がいたらしいのですが、翌年にはそういった集まりには姿を見せなくなっていたそうです」
恐ろしい話である。
「お館様、大奥様、ご無沙汰しております」
「確かに久しぶりですね、アンリ。色々と積もる話もありますが、まずはお茶をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちを」
ワゴンに用意されたお茶のセットへ向かい、優雅と言っても良い手つきで淹れ始める。茶葉のふくよかな香気が溢れ出し、部屋の空気を塗り替えてゆく。
このままアンリがお茶を淹れ終わり、自分の事を紹介するまで黙っていても良いのだが、キースは敢えて踏み込んでみる事にした。
「侯爵様、大奥様、お茶の用意が整うまで、こちらでお暇つぶしなどいかがでしょうか?」
書類を入れる筒から紙を1枚取り出し机の上に置き、魔力を流す。
キースお手製の曲が流れる魔法陣だ。
流れ出したのは、晩餐会などでよく演奏される定番の曲である。この2人なら、これまで数え切れないほど聞いてきたことだろう。
しかし、キースは辛うじて笑顔を作っていたが、内心かなり動揺していた。
曲は聞こえているはずなのに、リーゼロッテもエヴァンゼリンも反応が無いのだ。
大抵の人は、魔法陣から曲が流れると驚いて目を白黒させる。しかしこの二人は全く動じない。
「掴みはOK」となるはずだったのが、完全にアテが外れた格好だ。
(いや、少し口角が上がった・・・かな?)
全く効いていない訳では無いようで、キースは少し安心した。
「影の兎の魔法陣といい、流石は国務長官と近衛騎士団長が欲しがり、『 万人の才』と謳われるだけの事はありますね。どうぞお掛けなさいな」
リーゼロッテが目元をわずかに緩め席を勧めた。
驚いたのはお茶を淹れているアンリだ。
(お二人相手に自分から話し掛けるだけでも大変な胆力と勇気ですのに、初対面で客として着席を勧められるとは・・・)
この国の貴族は、一般市民に対して無体な振る舞いをする事はほぼ無い。昔から「貴族として立場を笠に着る様な輩は恥ずべき存在である」という考えが浸透しているのだ。
しかし、それは象が蟻を踏まない様に気を付けるという様なものだ。
魔術師として稀有の才能を持つとはいえ、キースは一般市民である。本来、貴族側がそこまで気を遣う必要など無い。
にも関わらず話し掛け席を勧めた。これは非常に珍しい。
「ありがとうございます。失礼致します」
「この、音楽が流れる魔法陣も良いけど、あの影の兎が走り回る魔法陣、私はアレが大変気に入っているのです」
「ベルナル様からもその様に伺っております。大奥様に気に入っていただき何よりでございます」
「あれは独学なの?それとも、何か参考にしたものがあるのかしら?」
エヴァンゼリンは魔術師だけあって、仕組みにも興味がある様だ。
「はい、あれはエレジーアの研究書に基礎になる記述がありまして、そこに自分なりの解釈を入れて作りました」
「まぁ、あのエレジーアの・・・私の書斎にも何冊かありますが、私ではそこまではできません。また時間がある時にでも、ゆっくり目を通しに来るとよいでしょう。いつでも歓迎しますよ」
「ありがとうございます。ぜひお邪魔させていただきます」
アンリは、お茶を注いでいたポットを取り落とすかと思う程の衝撃を受けた。
(大奥様が自分の書斎に貴族でもない少年を誘っている!?まさかそこまで気に入られるとは・・・)
あのエヴァンゼリンが身内でも無い人物を書斎に入れる。史上初のできごとなのでは無いだろうか。
何とか気を取り直しお茶を淹れ配膳する。
「やはりあなたの淹れたお茶が一番ね、アンリ」
お茶を飲み、大きく一息吐いたリーゼロッテがカップを皿に置く。
「そうねぇ、他の者ではまだ敵わないわね」
エヴァンゼリンも頷く。
「ありがとうございます。これからも後進の育成に努めてまいります」
「早く戻ってきて欲しいのだけど、その辺りどうなのかしら?」
「はい、本日はそのことについてご報告にあがりました」
アンリは、魔物暴走から王都へ戻るまでの話を、端折ったりせずに、全て語った。
「そんなタイミングで魔物暴走が起こるなんて・・・」
「はい。キースさんとそのお仲間が来てくれなかったら、私とベルナル様で対応をしなければならないところでした」
「しかし、助力いただいた事と、情報漏洩の件で協力を求める事はイコールではありません。私は、あなたとベルナルで対応をと指示しました。彼らに話した理由を説明なさい」
やはりこの件は特別の様だ。少しは打ち解け雰囲気が緩くなったかと思ったが、一気に部屋の空気が冷たくなった様な気がする。
「はい。まずはその力と出自の確かな事です。キースさん自身は言わずもがな、お仲間も冒険者ギルドのマスターとあの方が認めた強者です。さらに、そのご両親は国からの信頼も篤い、王国筆頭ともいわれる冒険者。どこの誰とも知れぬ冒険者と一緒ではございません」
「さらに、こちらから話を持ちかける前に、ベルナル様が何か目的を持ってあの地に赴任した事を察しておられました。最後の決め手に欠けていたベルナル様にとって、それはまさに救いの手でございました」
「以上を踏まえまして、この方達なら秘密を守りご協力いただけると判断致しました」
リーゼロッテとエヴァンゼリンは、アンリとキースをじっと見つめる。
何もやましい事は無いが、心の奥底まで見通されそうで非常に落ち着かない。
しばらく沈黙が続いたが、リーゼロッテがお茶を一口飲み口を開く。
「・・・分かりました。済んでしまった事を後から責めても仕方がありません。ですが、ベルナルもまだまだですね。そんな簡単に見破られてしまうとは・・・」
「ベルナルがまだ未熟というのもあるでしょうが、これは相手が悪かったのでしょう」
エヴァンゼリンが孫をかばう。
「それは・・・あるかもしれません。それでアンリ、わざわざ王都に一度戻ったのはなぜです?」
「はい、こちらから例の手順で荷物を送り、受け取った人間を炙り出します」
アンリは詳細を説明し始めた。
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