第7話
【更新日時について】
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【1の鐘】
昼食後、キャロルが改めてお茶を入れ、円満に事態を解決するべく話し合う。
「基本路線は坊ちゃまを家に連れて帰る、という事でよろしいですね?」
「そうね・・・」
「そこなのですがアーティ・・・正直なところいかがなのですか?今も完全に反対なのですかな?」
「・・・」
アリステアはお茶のカップを片手に苦い顔だ。
キャロルとヒギンズは、基本的にキースが冒険者になるのは賛成である。
きちんと魔術学院を卒業し、一般的に成人として認められる18歳の男に対して、いつまでも干渉するのは決してプラスにはならないと考えている。
キースの両親であるライアルとマクリーンは、自分達の後輩でもあり、それこそ今のキースと同じぐらいの頃から知っている。
あの2人なら息子が冒険者になり、その後どんな結果になろうとも(もちろん悲しみはするだろうが)「本人が決めた事での結果なら仕方がない」と考えるだろう。
「・・・」
(もう良いんじゃないかいやいやでもでも痛いのは可愛そうだしでもあの子は優秀だからきっと大丈夫だと思うけどでもそんな保障もないし・・・)
今のアリステアは、いつもの「即決果断」っぷりはどこにもない、ただの孫が可愛いおばあちゃんであった。
理性と感情が泥沼の中でのたうち回って絡み合っている様な、完全にドツボにハマっている状態だ。
「・・・ウーン」
キャロルとヒギンズはチラリと視線をかわし
(アーティがウジウジと迷っている間に、坊ちゃまを冒険者にする方向に話を持っていく)
という意志を確認し頷く。さすが長年連れ添ってきた夫婦である。
まずキャロルが口火を切る。
「もういっその事、アーティの名前で正式な依頼として発注しますか?新人魔術師の育成という内容で。ディックに相談すれば、この依頼向きのパーティを紹介してくれるのではないでしょうか」
「そうねぇ・・・でもねぇ・・・」
「連れ戻すのだからそういう問題では無い」と考えさせない様に、すかさずヒギンズが続く。
わざとらしい苦笑い付きだ。
「私達があと30歳、いや25歳若ければ自分達で行くのですがね・・・ここのところ老眼がキツくなってきました」
「私も最近は肩が挙がらなくなってきてまして・・・お恥ずかしい」
「あら、大丈夫? 無理しないでね? 私も足がこんなでなければねぇ・・・」
アーティが義足である左足を触る。
「どこかに若返りの薬とか、新しい身体に生まれ変われる魔法とかないかしら。お金ばかりあっても何の役にも立ちゃしないわ」
と、世界中を敵に回す様な事を言い出した。
(・・・?)
(新しい身体・・・?)
キャロルが、眉間にしわを寄せ、急に一点を見つめながら考え込んでしまった夫を不思議そうに見る。
「どうしたのあなた?」
「いや、何かちょっとここまで出かかっているのだがな・・・」
歳をとると、物忘れだけでなく憶えている事も中々頭から出てこなくなる。
(新しい身体・・・あれか?いける・・・のか?)
「アーティ、新しい身体、手に入るかもしれません・・・」
「!?」
「あなた何を・・・?」
ヒギンズは元戦士である。魔法や魔導具に関しては、そこまで深い知識はない。その彼がそんな手段を思いつくとは予想外であった。
「午前中、私は倉庫の整理をしていたのですが・・・」
「あぁ、そうだったわね」
この家で倉庫といえば地下室の事を指す。
アリステアが現役の頃に持ち帰ってきた、魔導具や魔導書、装備品、珍しいが用途不明な古代王国時代の遺物やらが、まとめて仕舞ってある。
数年に一度、なじみの鑑定士を呼び、売れる物は売る。
オークションがあれば出品してみたりもする。
使わないのに後生大事にしまっておいても仕方がない。
欲しい人の手に渡った方がまだ役に立つというものである。
「倉庫の左奥の壁際に、人型の魔導具が入った長方形の黒い箱がありまして」
「あぁ、あったわねそんなものが」
「・・・?」
アーティは思い出せないらしい。おばあちゃんなので仕方がない。
「ほら、アーティ、前に話してくれた事が言あったじゃないですか。確か古代王国の神殿跡でしたよね?トラウマになりそうな程酷い目にあったって」
「あぁ・・・あれね・・・思い出したわ・・・」
遡る事40数年前、アリステアがぴちぴちの22才だった頃だ。
その遺跡は古代王国時代の神殿と考えられていた。
既に発見されて数十年が経過しており、もうめぼしいお宝は残っていないと思われていた。
その時のアリステアも、お宝を探すというより、行ったことが無いから後学のために一度行っておくか、という程度だった。
遺跡内部の地図を書きながら歩き回っていると、大広間の脇辺りに小部屋一つ分ぐらいの不自然な空間がある事が判った。
(ここが見つかって結構経ってるのに、こんな分かりやすい隠し部屋を誰も見つけてないの? )
そう思いつつも、その大広間の周囲の壁や、付近の柱を丁寧に調べ始める。
すると、広間内の台座に置かれている6体の神像の中に、1体だけ違う神の像があった。
他は「戦の神」なのに、1体だけ「裁きの神」なのだ。
その神像をよくみてみると、首と身体の間に隙間がある。
頭を掴み(罰当たりである)力を加えるとそのまま180度回転し、ゴトンという重い音がした。
(よしきた!)
と、同時に身体が浮いた様な感覚を覚える。
神像の仕掛けに連動して床が抜けた。
(あっ)
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