第73話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします。
前回のまとめ的なものを付けています。
「あれ?前回どんなところで終わってたっけ?」という事ありませんか?
私はよくあります・・・
同時投稿2話目です。
【前回まで】
国軍の部隊は到着しましたが、様々な貴族的都合により支援は期待できそうにありません。ベルナルはアリステア達に魔物暴走の調査を依頼する事にしました。
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キース達が管理事務所に入ると、そこにはアンリでは無い女性の側仕えが待っていた。
「いらっしゃいませ。お部屋ご案内致します」
扉の前に着き、側仕えがノックをするとすぐに「どうぞ」という返答があった。
(< 探 査 >で感知してたな・・・)
この返事を聞いて、キースは昨晩の推測は当たっている事を確信した。この部屋の中には、本来のベルナルがいることだろう。
部屋に入ると、ベルナルは扉の正面、執務机の前に立っていた。笑顔ではあるが、何とも言い難い微妙な表情だ。
昨日の自分を改めて思い出すと、今真面目に接するのが恥ずかしいという事かもしれない。
「皆さん、来ていただいてありがとうございます。どうぞお掛けください」
横に4人並んで座れる大きなソファーに掛けると、先程の側仕えがお茶のセットを運んでくる。
淹れ始めると、柑橘系と初夏らしいすっきりとした香りが部屋が満たしてゆく。
(香りだけで良いお茶だと判るな)
お茶道楽のアリステアは嬉しそうだ。
ベルナルが最初に口を付け、皆に勧める。
招待主が最初に口を付けるのは「毒など入っておりません」という毒味の意味合いになる。
お茶はとても美味しいものだったが、街道沿いの食堂で味わったあの衝撃がまだ残っている事もあり、「普通に美味しい」と感じる程度だった。淹れる人間腕の差だろう。
ベルナルがお茶のカップを置き、4人を眺め渡す。
「まず最初に皆さんに謝らなければなりません。私は少々事情があって、ここにいる側仕えを除いた各職員、衛兵、店舗従業員などの前では、昨日の様な態度、言葉遣いをしています。非常に不愉快に思われたと思いますが、ご理解いただきたいと思います」
「と、言っても、部屋に入ってきた際の様子から、皆さんはお見通しだった様ですが」
残念そうな何とも言い難い顔だ。
「態度や言葉遣いについては、もしかしたら本来の姿では無いのでは・・・とは思ってはおりました」
「やはり気付かれていましたか・・・因みにどの辺りで分かりましたか?これからはそこに気を付けないと」
「あの態度や言葉遣いにしては、お話の内容が余りにも的確で筋が通っていらっしゃいましたので」
「そうでしたか・・・そいうところからバレてしまう事もあるのですね。やはり首席卒業者と接すると色々勉強になる」
「・・・やはり魔術師の方が杖とローブを見れば、その辺も一目瞭然でございますよね」
「お前の事はこれだけ知っている(気付いている)ぞ」という事を、お互いに小出しにしてゆく。
(目の前で魔法を使った訳でも無いのに、なぜ魔術師だと気が付いたんだ・・・?)
ベルナルはかなり驚いたが、もちろん表情には出さない。
貴族は「表情に素直に感情は出さないものだ」と教えられる。
「あなたの作った影の兎の魔法陣は実家にもありますよ。おばあ様のお気に入りなのです」
「それは光栄ですね!よろしくお伝えください」
「さすがはあのアr」
その時、キース両脇に座る大きな大人2人は、必死にウィンクをし始めた。さらにフランは眉間に皺を寄せ顔を左右に小刻みに動かす。
ウィンクはキースの頭の上、フランの動きは、間にクライブがいる為キースからは見えない。
(触れないでくれ、という事か?)
「あ~・・・あのライアル殿のご子息だ」
(何とかなったか?)
「父をご存知ですか?」
キースはここで父親の名前が出てくるとは思わず、驚きの声を上げる。
「今赴かれている遠征の、出発前の打ち合わせの席に加えていただく事ができまして。その時に少しお話を。皆、近衛騎士団に入ってほしいと言っていましたよ」
「ありがとうございます!」
父親を褒められ、素直に嬉しそうな表情を浮かべる。
「後方で全体を見渡しながら最適な指示を出し、最良の結果を得られる様、父を目指し努力しております。まだまだですが・・・」
「なるほど!あの方は皆の手本となる方です。あなたならきっと到達きるのではないでしょうか」
「ベルナル様は、やはり、おばあ様ですか?」
「おばあ様を目標にというのは、口には出しづらいですね・・・心の中で思うだけにして、少しでも近づけるように努める、といったところです」
エヴァンゼリンは国の歴史に残る人物だ。簡単に「目標」ですとは言えないだろう。
それに、いくら国王の指示とはいえ、様々な政策を実行する上で、反対する貴族たちをなだめすかし、利権を配り味方につけ、時には脅しと対応してきた。
自分がそんな事をできるとはとても思えない。
その時扉をノックする音が響いた。
(アンリですね)
「どうぞ」
「お話中失礼致します。ベルナル様、例の件は完了致しました」
「ありがとうアンリ。ちょうど良いタイミングです。今日、皆さんにわざわざお越しいただいた理由なのですが・・・ダンジョンに入って魔物暴走の調査をしていただきたいのです」
「かしこまりました」
!?
「・・・即答ですか?」
「そのお話であればお受けすると、皆で決めておりましたので。調査を担当する冒険者は、国軍と一緒に来なかったのですね?」
「ええ、その通りです。王都では、溢れた魔物を討伐した冒険者にそのまま任せれば良い、という意見が大勢を占めており、派遣されてきた指揮官も、その上司も同意見だという事です」
「なるほど・・・これは出すぎた話かもしれませんが、よろしいでしょうか?」
「・・・どうぞ」
「今回指揮官として来られた方と、その上司にあたる方は、ベルナル様やヴァンガーデレン家とは余り良い関係では無い、という事ですね?」
「・・・なぜそう思われます?」
「冒険者を連れてこなかったという事は、ベルナル様とヴァンガーデレン家に対する嫌がらせです。これを機に足を引っ張ってやろうという意図が透けて見えます」
キースは断言した。
「私達がきちんと調べ戻ってくるとは限りません。もし何も判明しないまま私達が戻ってこなかったら、改めて王都から冒険者を呼ぶか、たまたま来た冒険者に依頼をするしかありません。ですが、そのパーティが依頼を受けるとは限りませんし、調査活動に耐えうるかどうかも分かりません」
「それでは時間がかかりすぎますし、解決が遅れれば遅れるほど魔物暴走の再発の可能性も上がり、ベルナル様側は評価が下がります。それだけでも相手方の利益になりますね」
「ですから、ベルナル様とヴァンガーデレン家に好意的な方であれば、その辺を踏まえて、必ず複数の冒険者のパーティを連れて来たでしょう」
(・・・やはり物事の本質をきちんと理解しているな)
ベルナルは内心舌を巻いた。
(ここはもう余計な駆け引き無しで、正直にシンプルに行くか)
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