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おばあ様は心配性 - 冒険者になった孫が心配だから、現役復帰して一緒にパーティを組む事にしました -  作者: ぷぷ太郎
【第四章】北国境のダンジョンでのあれこれと大貴族の悩み
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第64話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします。

王都を出発したアリステア一行の馬車は、「北街道」を走り北側の国境にある「北国境のダンジョン」に向かっている。


初夏に入りつつあるこの季節、午後の日差しも少し強くなってきている様だ。


北側の国境へは王都から馬車で鐘3つ程と、馬車の速度を考えるとかなり近い。「トゥーネ川」という川がそのまま国境となっており、川の向こうは「ターブルロンド王国」になる。


キースは、長椅子型の御者台にクライブと並んで座り、クライブの指導の下馬車の手綱を取っている。


「基本的に、馬車という乗り物は速く走らせるものでは無いのだ。もし山賊や野生の狼などに襲われたら、馭者台と箱部分、そこに人間と荷物が載る。荷台が付いている場合もあるな。それだけ引いているのだから到底逃げ切れん。迎え撃つか降参するしかない」


キースはクライブの解説を聞きながら頷く。


「よし。とりあえず、私が横にいるから実際に手網を取ってみようか」


「よろしくお願いします!」


(ふむ、この状況はキースを独り占めしている様で、中々気分が良いな)


いつもは自分以外の人は箱の中で、一人で御者台にいる事がほとんどだ。


寂しいと思った事は無いが、この「誰かと一緒に話しながら馭者台にいる」という状況は新鮮である。


しかも相手はキースだ。


その手綱を取る真剣な横顔を見ているだけで、何やらほんわかしてくる。


(後で2人に自慢しよう)


クライブはすまし顔で、心の中だけでニヤニヤした。



王都から鐘2つ程走ったところで、街道左手に二階建ての建物が見えてきた。


街道沿いに設置してある、街道とその周辺の治安維持を目的とした警備隊の詰所だ。


街道沿いの巡回と、緊急事態発生時には対応が求められる。


そして、詰所の向かいには、食堂と各種消耗品を扱う雑貨屋が並んで建っている。


(チリンチリン)


馬車に備え付けられている、魔導具の呼び出しベルが鳴った。


街道の端に寄せて一旦止め、箱の扉を開ける。


「どうしました2人とも?」


「あそこでちょっと一息入れないか?前に来た時は無かったから気になるんだが」


「そうですね。では、せっかくなので寄りましょうか」


馬車を店の脇に停めて、雑貨屋に入ろうとする。


「あれ、そこに何か立ってますね・・・石碑かな?」


店の脇に高さ1m、幅2m程の、横長の石碑が設置してある。


石碑は柵に囲まれておりかなり立派な作りだ。


「こんな場所になんでしょうね・・・」


「刻まれている説明文を読んでみますね」


キースが読み始める。


(これは・・・嫌な予感がする)


アリステアの勘は残念ながらほとんど外れない。特性持ちだからだ。


「この石碑は、あの白銀級冒険者アリステアが、北国境のダンジョンを発見した際、替え馬をここで借りたという、その記念の石碑だそうです」


「あぁ、その話は聞いた事ありますね」


そりゃそうである。本人から聞いたのだから。


「そうだな。とても有名な話ですからな」


フランとクライブは抑えてはいるが、顔がニヤついている。


「魔石の取引額を考えると、これまででどれだけのお金が国庫に入ったのでしょうね!しかも他国の手に渡るところを防いだ訳ですから!そりゃ石碑ぐらい建ってもおかしくありませんよ!僕もそういう冒険者になれるように頑張ります!」


「そ、そうだな!が、頑張ろうな」


(いつの間にこんなの建てたんだ・・・この文句は誰に言ったら良いんだ?マスターか?ディックか?)


「よ、よし石碑はそれぐらいにしてお茶にしようか」


いささか強引に食堂へ向かう。


雑貨屋を覗かなかったのは正解だった。


店内には土産物として、アリステアの名前が入ったクッキーや、アリステアの名前が刻まれた冒険者証のレプリカ等の「アリステアグッズ」が売られていたのだ。


もちろん本人は知らない。無許可販売である。



「いらっしゃいませ。こちらどうぞ」


中年の男性店員が声を掛けてくる。他に店員はいない様なので店主兼シェフだろうか。間もなく3の鐘という中途半端な時間のせいか、他に客はいない。


「ご主人、お茶と何かおやつになる様な物があればお願いしたいのですが・・・」


「それですと、『本日の午後のお茶セット』がおすすめです。上・中・下と3種類ございますが、どれに致しましょうか?お値段も上・中・下になりますが・・・」


皆で顔を見合わす。自分達は何やら変わった店に入った様だ。


「どうしましょう?」


「上だな、こういう時は一番上の物にしておけば間違いない」


「で、では上でお願いします(そういうものなんだ)」


「今日の上セットは、ターブルロンドのウェイティス産の茶葉で入れるお茶と、ドライフルーツを酒に漬けた物を生地に混ぜて焼いたスポンジケーキになりまして、お一人様2000リアルとなっております」


!?


(ウェイティスの茶葉?)


(酒に漬けたドライフルーツのケーキ?)


(お茶とケーキで一人2000リアル?)


「み、皆さんそれで良いですか?(ちょっと何言っているのかよく分からないけど・・・)」


皆無言で頷く。


「ではそれでお願いします」


「かしこまりました。では、先にお会計を失礼致します」


先にお会計をするのは、少人数で営業するお店の自衛策だ。店員が少ないと、片付けの最中に食い逃げされる可能性がある。


キースがまとめて全員分を払う。


厨房に向かう店主を見送ると、皆で顔を寄せ合う。


「ターブルロンドのウェイティス産の茶葉といったら、王都のお茶問屋で100g1000リアルはする高級茶葉だぞ。本物か?産地偽装かもしれんぞ」


お茶道楽のアリステアの表情は訝しげだ。


「えぇっ!?そんなにするんですか?」


お茶の産地など気にして飲んだ事の無いキースとクライブが驚く。



「それに、高い茶葉ほど淹れる側の技量が問われ手間が掛かります。事前にポットやカップを温めたり、茶葉に合わせてお湯の温度を細かく管理する必要がありますから。その辺りが足りないと、せっかくの高級茶葉も台無しになってしまいます。それに・・・」


お茶の淹れ方には一家言あるフランも続く。


「一緒に出すと言っていたケーキですが、同じ様な物が、少し前に王都の有名菓子店から売り出されて人気になっている、と聞いた事があります」


「確かに王都から近いが、こんな街道沿いの、近くに詰所しかない店で出す様な物じゃないと思うが・・・しかも一人2000リアルだろう?なんなんだこの店は・・・」


期待と不安にかられながら待つこと数分、主人がワゴンを押して戻ってきた。


「こちらケーキになります」


各自の前に置かれた皿の上には、アルコールを含んだドライフルーツの芳醇な香りを漂わせる、オレンジ色と黄色の中間に焼かれた、目にも鮮やかなスポンジケーキが載っている。


(これ絶対美味しいやつだ)


皆がそう思った。自然と喉が鳴る。


そして店主が、流れる様な、迷いの全く無い惚れ惚れする手付きでお茶を淹れ始める。


それを見たフランが目を見張る。


(この男・・・できる!)


「お待たせしました、どうぞ」


アリステアは出されたお茶を一口口に含んだ。


一口飲んだだけで、お茶の香りが口の中いっぱいに広がり満たされる。だか、いつまでも無駄に香ってはおらず、次の瞬間には鼻から抜けていった。


(なんだこれは・・・こんなお茶飲んだ事無いぞ・・・)


大金持ちでお茶大好きなアリステアが未経験なら、このメンバーでは誰もが初めてだ。


(凄い……こんなの初めてだわ)


一口飲んだだけでフランは顔面蒼白である。


ケーキを切って一口食べる。


スポンジはしっとりとしつつもふわりと軽い。それをドライフルーツと一緒に噛んだ時の、まろやかになったアルコール分と濃縮された果物の味わい。


そしてドライフルーツの漬かり具合がまた絶妙だ。酒の味はちゃんとしているのに、酒を飲まない人でも嫌な感じがしない。どんな漬け方をしているのだろうか。


アリステアがケーキを食べ、その余韻があるうちにお茶を飲んだ。


また新たな衝撃が走る。


(これがこの組み合わせの真骨頂か!)


お茶とケーキ、それぞれがこれ以上無いと感じる程だったのに、重なる事でそれを軽々と超えてきた。もう言葉も無い。表現できない。


誰もが無言でケーキを食べお茶を飲んだ。



そして皆食べ終わり、官能的とも言える至福の時間は終わりを告げた。


終わってしまった。


満足のため息しか出ない。


「ごちそうさまでした・・・」


「お粗末さまでした」


「いや~なんと言うか・・・凄かった」


皆頷く。語彙力がお茶で流れて行ってしまった様だ。


「お気に召していただいた様で何よりです」


店主は静かに微笑んでいる。


あれだけの物を作るこの店主は一体何者なのか、尋ねようとしたその時、外から大きな声と物音が聞こえてきた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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