第63話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします。
「夜は普通に営業するのですよね?では、夕食は生まれ変わったダルクの店に行きましょうか」
「そうだな!他にも食べてみたいメニューもあったしな」
「呼び名も何か考えませんとね。いつまでもダルクの店では・・・」
「確かにな・・・」
そんな事を話しながら店に行き、各自思い思いの料理を注文し、シェアしながら食事を楽しんだ。どの店鋪も活気があり元気よく営業している。
あのお通夜の様な状態でもそれなりに客は入っていたのだから、雰囲気がよくなった事が広まれば、もっともっとお客さんが来るだろう。
翌日昼前、荷物をまとめ宿を引き払い馬車でギルドへ向かう。
(王都に来てあれだけ色々な事をしてまだ7日目って・・・)
まさに怒涛の日々だった。人生初の経験もたくさんした。女の子とデートまでしてしまった。
(紹介した店気に入って通ってくれるといいけど)
冒険者ギルドの裏に馬車を止め中に入る。
皆の姿を見てディックとサイモン、パトリシアが近づいてくる。
「出発か?」
「あぁ、とりあえず北国境のダンジョンへ行ってみる。キースはまだダンジョン未経験だからな」
「そうか・・・静かになって良いが、少々寂しいのも確かだ」
「なんだ、珍しく素直だな。何、また戻ってくるさ」
「ギルドマスターは65歳定年だからな。それまでにお前さん達が帰ってくるか微妙なところだ」
その横でパトリシアは目を潤ませている。
「キース君、身体に気をつけて頑張ってくださいね。しばらくキース君に会えないなんて・・・馬車の後ろにくっついて行こうかな・・・」
「ま、また戻ってきますのでそれはちょっと・・・でも、パトリシアさんには本当にお世話になりました。ありがとうございました!」
「はい!こちらこそ!身体に気をつけて頑張って!」
「では、皆さん、毎日ありがとうございました!また戻ってきた際はよろしくお願いします!」
最後にギルド職員全員に挨拶をしてギルドを出た。
冒険者ギルドを出て馬車で『コーンズフレーバー』へ向かう。
店に入ると何時にもましてお客さんが多い。厨房もホールも大忙しだ。
「いらっしゃいませ~!こちらへどうぞ~」
リリアが皿をまとめて、テーブルを拭きながら声を掛けてくる。
キース達だと気が付いていない様だ。
他のテーブルの料理を運びながら、メニューと水を持ってくる。
「はい、こちらメny・・・?え?こ、こち・・・らメニューとおみ・・・ずです・・・どぞ・・・」
動揺しまくっている。
うしろめたい事がある訳では無いが、尾行を撒いて逃げた相手である。
いきなりこの距離で接すれば動揺するのも無理は無い。
何とか注文を取り、ぎくしゃくしながら厨房へ向かっていった。
出発前最後の食事を堪能し終わった頃、ちょうど昼の営業が終わる。
厨房の片付けを弟子に任せて、アドル、フィーナ、イネス、リリアがテーブルにやってきた。
「皆さん、この度は店の事、リリアの事、本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「ほんと、なんと言ったら良いのか・・・ありがとう」
「じいさんの店を守る事ができたし、まさか孫が魔術師になるなんてねぇ・・・じいさんにも見せたかったよ・・・」
「ありがとうございました!」
皆がお礼を言い頭を下げる。
「色々なタイミングが上手く重なった結果です。お気になさらず」
キースも爽やかな笑顔だ。
「王都に帰ってきたら必ず寄ってくださいね」
「そこは大丈夫です。アーティが我慢できるはずがありません」
キースがしたり顔でアリステアを見る。
「我慢する気なぞ初めから無いからな!」
腕を組んでフフンと笑う。
「デスヨネー」
「リリア、昨日もお話しましたが、魔法の肝は想像力とその元になる知識です。その助けになる物を預けますね」
キースは鞄から、綴じられた紙に簡単な表紙が付いた冊子を取り出した。何かの写本の様だ。
「これは、天気等の自然現象についての本の写本です。これを読んで魔法で再現する、という訓練です。最初は短時間・狭い範囲でしか発動できないでしょうが、徐々に長時間・広範囲での発動を目指しましょう。勿論、授業が優先ですけどね」
「うん、ありがとう!やってみるよ!」
「せっかくですから、ちょっと試しにやってみますか?」
「えぇ!?今ここで?」
「怪我をしたりとか建物が壊れたりという様な、そういうレベルの発動はまだできませんから大丈夫です。はい、まずは集中・・・呼吸をゆっくり・・・ゆっくり・・・魔力は手のひらに・・・雷が空で光る様子を思い浮かべます・・・召雷!」
「< 召 雷 >!」
パリッ!
大きいものでは無いが、手のひらの上で確かに雷がパリッと光った。
!?
(こ、こんな簡単に!?)
リリアも家族もびっくりである。
(この間、理事長先生の前でやった時もそうだったけど、キースに声を掛けてもらいながらやるとすごくやりやすいんだよね・・・)
「リ、リリア、さっきのは・・・今初めて試したんだよな?」
「うん・・・そうだよ」
「・・・」
アドルは言葉も無い。
(4年間あれだけ練習してきてやっと今の状態なのに、ちょっと声を掛けながら試しただけで・・・これが本物の魔術師の指導か・・・誰が悪い訳でも無いが、遠回りしてしまったな)
「試した初回から発動するなんて!素晴らしい!やはり天才ですね!間違いない!」
キースは手放しで褒める。できた時は少し大袈裟に褒めるのが良いのだ。
「先生の言った通りやっただけです!ありがとうございます!」
いきなり先生と呼ばれたキースは、目を見開いて驚き、照れて下を向いた。
(照れキース可愛すぎ!)
(何とかしてこの子を婿にできないものか・・・)
二人のやり取りを見ながら、イネスとフィーナは心の底から思うのであった。
「それでは出発しますね!皆さん、見送りありがとうございます」
「気を付けて!」
「待ってるからね、ちゃんと帰ってくるんだよ!」
「食事はしっかり取りんさいよ」
イネスはアリステアを見つめながら、先程のやり取りを思い出す。
自分の準備が終わり、手持ち無沙汰だったアリステアにちょっと店の裏に回ってもらった時の事だ。
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「アーティ、ちょっと良いかい?」
「・・・はい?」
イネスが1対1での状況でアリステアに話し掛けてくるのは、この姿になってから初めてのはずだ。
「これは私の勝手な考えで、全然見当違いかもしれん。もしそうだったら、年寄りの世迷い言だと思って聞き流してほしい」
(凄いな・・・なんで判るんだ?)
アリステアは、この切り出しでイネスが何を言おうとしているのか解った。
イネスは「今のアーティ=白銀級冒険者のアリステア」だと気が付いたのだ。
確かに言動にはあまり注意を払っていなかったが、なにせ見た目が全然違うし歳が40歳以上若いのだ。まさか正体の事で声を掛けてくるとは思わなかった。
「それに、もし今から言う事があっていたとしても、その事について何か言う必要は無いよ。色々事情があるのだろうし、その辺は料理屋の婆さんには解らん。ただ聞いてくれればそれで良いんだ」
アリステアは無言でイネスを静かに見つめている。
「アーティ、この店は、本当にお前さんに助けられているよ」
「開店直後のまだお客さんが入らなかった頃、お前さんは毎日の様に通ってくれて、事あるごとに店を貸し切りにして使ってくれたね。あれで冒険者の皆を中心に認知されて、経営が安定したんだ。でなきゃとっくに潰れてたよ。それくらいギリギリだったんだ」
「・・・」
「そして久々に姿を見せたと思ったら、また店を救ってくれた。しかも今度は店だけじゃなく孫までだ。ほんとにあんたって人は・・・」
イネスが近寄ってくる。
「本当に・・・本当に・・・ああ、もう・・・なんと言ったら良いのか・・・ありがとうアーティありがとう」
そのまま泣きながらアリステアを抱きしめる。
「私はただ、美味い物が食べたいだけなんだ。それに今回はだいたいキースのおかげだしな」
「それであったとしてもだよ!」
イネスは70歳過ぎとは思えないぐらい力強く抱きしめてくる。
「アドルは、店がこれだけ繁盛しても、調子に乗らず手を抜かない真面目な男だ。皆の前ではああ言ったが、正直、もうじいさんの味を超えていると思う」
「あたしももう70過ぎだ。後何年生きていられるかもわからん。アーティ、どうかこれからも贔屓にしてやっておくれ。よろしく頼むよ」
「そこは大丈夫だ。来るなと言われても通うからな」
「うん、うん、ありがとう・・・」
イネスはそのまましばらくアリステアを抱きしめたままだった。
アリステアもイネスの気が済むまでそのままにさせていた。
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「リリア、慣れない場所で歳下の子達と一緒に授業を受けるのは、色々大変だと思います。練習で成果がでない時もあるかもしれません。そういう時は、これを見て心をほぐしてください」
例の影の兎が走り回る魔法陣だ。
それと一緒に四角い箱を渡す。
「これは・・・?開けても?」
キースは頷く。
リリアが箱を開けると、中にはバングルが入っていた。
港に漁船の仕込みをしに行った際にイリスの雑貨屋に寄り、購入しておいたのだ。
イリスに勘ぐられ、散々冷やかされたのは言うまでもない。
「バングルの内側を見てください」
リリアが箱から取り出し内側を見ると、幅1cm程しかないのに魔法陣が刻んである。
(こんなに細いところに魔法陣を仕込む事なんてできるんだ・・・)
リリアは向きを変えながら眺める。
「それは結界のお守りです。すでに魔力が込めてありますから、危ないと思ったら発動語を唱えるだけで結界を張ることができます。あ、授業を受ける時は外して下さいね」
「何か・・・色々貰っちゃって良いのかな」
「僕がしたくてしている事ですので、遠慮せずに貰って下さい」
「うん、大事にします。ありがとう・・・」
(男の子からプレゼントもらうなんて、初めてだよ・・・)
リリアは感激で目を潤ませる。
女性陣は箱の中に乗り込み、キースは長椅子型の御者台にクライブと並んで座る。
「よし、では出発しましょう!夜までには着きたいですからね」
その声を受けクライブが馬に指示を出すと、周囲の景色が流れ出す。
キースは後ろを向いて手を振り、リリアもその場で手を振る。
(次に会えるのはいつか分からないけど・・・絶対に今日以上に褒めてもらうんだ!)
2人はお互いが見えなくなるまで手を振り続けた。
や、やっと王都を出られました・・・
作者は日本ファルコムの「イース1、2」が好きです。
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