第62話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします。
2人は飲み物とお菓子を買って東屋に座る。
「ふぅ・・結構歩きましたね。ここまで歩いたのは久しぶりです」
「あたしも、普段は買い出しに行くぐらいであまり歩かないし、今日は今まで行った事の無い辺りに行ったから、すごく新鮮だったよ」
2人は、東屋で飲み物を飲みながら焼き菓子を摘む。さっくりホロホロの食感が面白い。
「ねぇキース・・・」
「はい、なんです?」
「キースは、世の中のありとあらゆる事が知りたい、見たいから冒険者になって旅に出るって言ってたよね?」
「そうです」
「それって、終わりはあるのかな?無さそうだよね?」
「うーん、そう言われると確かに・・・この国を全て回ったとしても、他の国だってありますしね・・・自分が終わりと思ったら終わり、かな?」
キースは腕を組んで考えている。
(これはやはり・・・)
「あのさ・・・一つお願いというか提案があるのだけど・・・」
「はい、なんですか?」
「私が学院を卒業して、キースの目から見てこれなら大丈夫と思ったら・・・その旅に私も一緒に連れて行ってほしいな、って」
その言葉を聞き、キースは静かにリリアを見つめる。
リリアも真剣な顔でその目を見返す。
「分かりました。でも、僕の基準は厳しいですよ!フフフ・・・」
キースが笑顔で、冗談めかして言う。
「お、お手柔らかにお願いします・・・」
そう言いつつもリリアは心の中で(絶対に合格してみせる!)と固く誓った。
(でも、もしその時もアーティさん達とパーティを組んでいたら、あの人達の許可も取らないといけないのか・・・)
目の前が真っ暗になった気がするリリアだった。
「リリア、今日は夕方までありがとうございました。久々の王都を楽しむ事ができました」
「ううん、こちらこそありがとう。あまり同世代と出掛ける事無いから楽しかったよ」
訓練校を卒業すれば、皆それぞれ手に職を持っている。都合をつけて集まるのも難しくなる。
(もう終わりか・・・あっという間だったな・・・)
「最後に、魔術師にとって一番大事だと思っている事をお話します」
「は、はい」
思わず座っている姿勢を正す。
「それは、好奇心です」
「・・・好奇心」
リリアはピンときていない様だ。
「魔法というのは、『自分で想像した事を魔力を消費して具現化する』事です」
それはリリアでも知っている。
「その現象を想像する為には、そういった事が起きると知っていなければできません。例えば天気です。空から雷が落ちる、凍えるぐらい寒くなる、雨が降る、家が飛ぶぐらいの風が吹く、霧が出て自分の手すら見えなくなる、様々な現象があります」
「そして、それはどれも自分で見て経験した事がありますよね?そういった事はやはり思い浮かべやすい」
「それに実際に目にした事が無くても、説明文を読めば全く知らないより遥かに想像しやすいはずです」
「なので、何にでも興味を持って、自分の中に知識として取り込んでください。それがリリアの魔法の基礎になります」
「魔法を使おうとして発動しない時もあると思いますが、その魔法が成功しないのは、具現化する為の魔力の不足、想像力の不足、もしくは両方が不足という事です」
「魔力が足りないのなら、とりあえず持続時間や範囲を縮小すれば対応できます」
「ですが、魔力が足りているのに発動しないという事は、想像力が足りていないのと同時に、心のどこかで『どうせできない』とか『私にはまだ無理だろうけど試しにやってみるか』と思っている可能性があります」
「なので、どんな突拍子の無い事でも、できると信じて強く心に思い描く事。そうすれば、吟遊詩人の歌の様に隕石だって落とす事ができますよ」
「心が壊れた魔術師アイザックのお話だよね?」
「そうです。あれはおとぎ話では無いのですよ?蛮族側の記録も残っていますからね。アイザックは本当に隕石を呼び寄せ、蛮族の軍の真っ只中に落としたのです。自分ならできると信じて」
「ほぼ独学で魔法を身に付けたリリアなら、きちんと学べば必ず誰もが一目置く魔術師になる事ができます。未来を不安に思う必要はありません」
キースは力強く断言する。
(なんでキースの言葉はこんなに心にすっと入ってくるのだろう・・・)
「じゃあ、王都に帰ってきたら上達を見てくれる?」
「ええ!楽しみにしています」
遠くから5の鐘が聞こえてくる。
「そろそろ帰りましょうか。あまり遅くなってもいけません」
「うん、昼間はお休みもらっちゃったから、夜はさすがにお店に出ないと」
連れ立って歩き出すと、どちらからともなく自然と手を繋いだ。
まだ少し照れくさいがお互い顔を見合わせ笑う。
(とりあえず、今はまだこれで十分かな・・・)
キースは、リリアを『コーンズフレーバー』へ送り届け宿に戻ると、宿の従業員から「帰ったら冒険者ギルドへ来てほしい」という3人からの言伝を伝えられた。
冒険者ギルドに入り待合室で3人と合流した。クライブは笑顔だが、女性陣ぶすくれている。
「ただいま戻りました」
「・・・理事長に挨拶に行っただけにしては遅かったな」
「リリアはこれから生活がガラッと変わりますからね。魔術師の先輩として、その辺について色々話をしてきました」
何の嘘も無い。事実である。
(素晴らしすぎて文句の付けようが無い理由だな)
クライブは一人納得して頷いているが、フランは机で頭を抱え唸り、アリステアは口をへの字に曲げて腕を組んでる。
しかし、尾行を撒かれた後ほぼ一日愚痴に突き合わされ、いい加減うんざりしているクライブは、キースの援護射撃をして止めを差す事にした。
「彼女は同じ魔術師の後輩になる訳だからな。エストリアでは先輩が後輩の面倒を見るのは、とても、非常に、何よりも重要な事だ。一日一緒にいても何の不思議も無い。ですよね、アーティ?」
「そ、そうだな。昔からの伝統だ」
そう応えながらも、苦虫を100匹ぐらい噛み潰している様な表情をしている。
だが、それを言い出したのはかつての自分だ。誰に文句を言う事もできない。
「皆さんは今日は何をしていたのですか?」
尾行に気が付いていた事などおくびにも出さず、しれっと尋ねる。そこは触れないでいてあげるのが優しさである。
「ま、まぁ・・・色々としつつのんびりしてたわ」
「そうでしたか!皆さんも王都に戻ってきたと思ったらこの騒ぎでしたから、やっとゆっくりできて何よりです!」
「あぁ、そうだな・・・」
本当は、女性2人は心落ち着かなかった為、全く休まらなかった。まだ魔物と戦っていた方が楽だったのではないだろうか。
「で、これから食事ですか?」
「うむ、今日の昼間、ロワンヌ商会がダルクと契約していた各問屋と店子を集めて、オーナー交替の経緯と謝罪をしたんだ」
ダルクの店の昼の営業を休みにして、交替の詳細、不平等な契約の解除、その契約により得られなかった利益の保障の話をしたという。
さらに、取引をする問屋や工房の制限の撤廃、家賃を周辺物件と同等額へ値下げ、出店をやめたいという店があれば違約金や原状回復の費用は取らない、と提示をした。
その結果、全ての店がそのまま出店を継続したいと言ってきたという。
「あそこは元々立地は良いし、他店舗との相乗効果があったのは間違いなからな・・・出店を取りやめる理由が全部無くなったのだから、継続も当然だな」
「後、タンブロワ商会のティボーは、密かにロワンヌ商会に呼び出されて、エレインにこっぴどく怒られたらしい」
呼び出されたティボーは、ダルクとファクト、ロワンヌ商会の現状を全く知らない。
オーナーの部屋に入り、執務机の椅子に座っているのが義母である事に気が付くと、飛び上がって驚いた。
経緯の説明を受け、あの2人がいなくなった事を喜んだ。
しかし、これまでのやらかしを妻に黙っている事を交換条件に、自宅外での飲酒を禁じられた。
「だらしのない酒の飲み方をするから、あの様な小悪党につけこまれるのです!もし破ったら全て娘に話しますからね!」
ティボーは平身低頭するしかなかった。
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