第60話
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書き上がり次第随時更新となります。
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ダルクとファクトが旅立った(旅出させた)翌朝、キースは、『コーンズフレーバー』へリリアを迎えに行った。魔術学院の理事長に事件解決を報告に行くためだ。
煙突からは煙が立ち上り、店に近づいただけで各種香辛料の匂いがしてくる。今日も店では仕込みが始まっている。
勝手口のある裏へ回ると、リリアが扉の前で待っていた。
どうやら二階の窓から、キースが歩いてくるのを見ていた様だ。
「おはようリリア(あふぅ)」
「おはよう、キース」(眠そうなの珍しいな・・・)
今日のリリアの装いは、挨拶に行くという事もあり、前回より明らかに「よそ行き」仕様だ。
オフホワイトのふんわりとした袖のブラウス、ハイウェスト気味の青いロングスカート、髪型は結ってリボンで結んである。
「リリア・・・とてもよく似合っていますね!髪も凝った結い方で・・・これはフィーナさんが結われたんですか?」
「それは私だよ!」
突然勝手口の扉が開き、イネスが顔を出す。
「おっ、おはようございます、イネスさん」(びっくりした・・・)
「その髪型はね、フィーナがアドルに結婚を申し込まれた日と同じものなんだよ!うちの女が、一番気合を入れなきゃいけない日の為の髪型なんだ!」
「おっ、おばあちゃん!またそういうことを!」
「お母さん、もう・・・」
扉のすぐ近くにはフィーナもいたらしい。
「もう!早く行こう!相手しなくていいから!」
「で、では行ってきます」
「気をつけて行っといでよ!」
「ほんっといつもいつも・・・」
2人は連れ立って歩き出した。
「あ、そうだ。ダルクとファクトのことなんですが、あの2人は昨夜旅に出たので、王都にはもういません」
!?
「それはまた・・・ずいぶん急な話なんだね」
「このまま王都にいても悪評が広まるでしょうから、何もできません。新天地で頑張っていただければと思います」
「そっか・・・でもこれで逆恨みで仕返しされたりとかも無いだろうから、安心できるかな」
(昨日の夜何か対応してくれたのかな・・・)
「キース達はこれからどうする予定なの?」
「明日、明後日ぐらいには王都を出発すると思います。僕がまだダンジョンを見たことがないので、北国境のダンジョンに行ってみようという話になっています」
「そうなんだ・・・」
全て解決したということは、キースがいなくなってしまうということだ。
もちろん、お店はこれまで通り営業をすることができて、自分は魔術学院できちんと魔法を学ぶことができることになった。これ以上ない結果だろうだが、「それはそれこれはこれ」なのだ。
(初めて会って4日しか経っていないのに・・・)
路地で拐われそうになったところを助けてもらったのが、随分前のようだ。
(王都を出て、各地を回って戻ってくるとなると、何日ぐらいかかるものなのかな・・・)
まだ出発すらしていないにも関わらず、もうそんなことを考えながら、リリアは俯きがちで歩く。
そんなリリアの様子を、キースも目の端に留めながら歩く。
魔術学院の門の前に着き、門の魔石触れ中へ入る。
今日も受付はマールだった。
挨拶をして理事長の都合を確認してもらい、「大丈夫」という返事を受け理事長室へ向かう。
理事長は扉の前で待っていた。挨拶を交わして室内に入る。
「リリアと一緒に来たということは、例の件は片付いたという事かしら?」
「はい、無事終わりました」
キースは昨夜の出来事と偽契約の場面の詳細を除いて、経緯を説明する。
「では、晴れてこちらに通えるのですね」
「はい、よろしくお願いします」
「先生、この度は編入の件、骨を折っていただきありがとうございました」
「いいんですよキース。気にしないでください」
「リリアもこれからお世話になりますので、お礼兼賄賂ということで、一つプレゼントをお持ちしました」
「あら!何かしら!」
オリジナルで魔法陣を作るキースからのプレゼントだ、どうしても期待してしまう。
「こちらから言い出しておいて、アレなのですが、お一人の時に使うこと、口外しないこと、手放さないこと、もし手放すなら僕が回収します。この三つをお約束いただけますか?」
「はい!守ります!」
手を挙げて宣誓する。元気いっぱいである。
「分かりました。では、こちらを」
カバンから出てきたのは、転写の魔法陣が描かれた紙だ。
「書類を一枚と、何も書いていない紙をご用意下さい」
「これでいいかしら?」
理事長がキースに書類と紙を渡す。
「はいありがとうございます。では、始めます」
魔法陣の上に書類を置いて起動、そしてまっさらな紙を置いて再度起動。
書類は複製された。
理事長もリリアも呆然として言葉もない。
「転写の魔法陣と名付けました。お仕事お忙しいと思いますので、何かのお役に立てば良いのですが・・・」
「・・・相変わらずあなたという子は・・・ありがたくいただきます」
「いずれ商品化したいと思っていますので、それまでは内緒で。リリアもね」
「は、はい」
リリアもなんとか返事をする。
「この2,3日で出発するのかしら?」
「はい、はっきりとは決まっていませんがそうなると思います」
「そう・・・寂しくなるけど、ここ数日で3回も会えましたからね。お土産もいただきましたし・・・」
「くれぐれも気をつけて行ってくるのですよ。あと必ず生きて帰ってくること。冒険者は大怪我をしても生きて帰ってきてこそですから。帰ってきたら色々話を聞かせてちょうだい」
理事長は席を立ちキースの前に来るとそっと抱きしめる。
「はい先生、それでは行ってまいります」
受付で、マールとも同じお別れのやり取りをして学院を出た。
「リリア、この後何か用事はありますか?」
「ううん、特には何も」
母と祖母からは今日は店の手伝いは出なくて良い、というか何としてでも夕方まで帰ってくるな、と言われている。
「よかった、それでは夕方までお付き合い願えますか?僕も王都に来てから全然ゆっくりしていないので、あちこち行きたかったんです」
「! うん、喜んで!」
2人は連れだって歩き出す。
(でも、その前に一つ片付けることがありますね・・・)
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