第58回
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
「さて、余計な人達もいなくなりましたから今後の話を致しましょうか。その前に・・・」
レア(中身はもちろんキースだ)は椅子にかけながら番頭をジッと見つめる。
「番頭さん」
「はいオーナー」
「貴方は・・・誰の味方なのかしら?」
ニッコリ微笑みながら尋ねる。
「私は、商会に雇われております。商会を適切に運営していただける方の為に仕事を致します」
「そうですか、分かりました。それでは最初に・・・」
「お茶の用意をお願いします。後、先々代のオーナー夫人を、エレインさんを呼んできていただけますか?」
商会の従業員がエレインを呼びに行っている間に、アリステアら4人は元の姿に着替えた。
番頭らはびっくりしていたが、契約は成立している。姿や性別が変わろうがなんだろうが、それはもう関係ない。
「キース、お嬢様役可愛かったな!また今度見せてくれ!」
フランとクライブも頭が取れんばかりに頷いている。
「いやいや、今回はそれが必要だからやったまでですから・・・勘弁してください」
「それにしても、あの魔法陣をこんな風に使うなんて・・・」
「ダルクは、サインしている時の会話に、違和感を覚えた様な仕草を見せていましたな」
「彼は悪党だけあってそういう所に敏感でしたね。もう少し自然なセリフで起動させたかったのですが。でも自然に「き」「ど」「う」を続けるのって結構難しいのですよね・・・」
契約書を挟んでいたバインダーに転写の魔法陣が書いてあり、そこに予め「変更後の契約文書」を写しておく。サインした後、魔石に触れながら「き」「ど」「う」と続けて魔法陣を起動し契約書へ転写、契約書の文章が上書きされたのだった。
「さぞびっくりしただろうな。売却金額やらなにやらが書いてあったはずなのに、次に見たら『全部あげます』という文章になってしまったんだから」
「見た後、完全に空気になってましたものね」
「それにしても、アーティも、昨日の夜とは言葉遣いも態度も全然違いましたね。契約するとなったらお客様だからですか?」
「そうだな。昨日の夜は居酒屋でいきなり話しかけられて、唐突に『売ってくれ』だからな。あれでは完全に不審者だろ。礼儀正しくする必要も無い。実際に商会同士の正式な、まぁ偽契約だが、を結ぶとなったら、そこはきちんとやった方がリアリティあるかと思ってな」
「うぅ~ん、さすがですね!」
ノックの音がして、番頭とエレインが部屋に入ってきた。
「奥様、ご足労いただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ・・・番頭からざっくりと話は聞いたのですが、息子がオーナーでは無くなったと・・・」
「はい、彼はもう無一文です。厳密に言えば、今着ている下着でさえ自分の物ではありません」
エレインは目を白黒させている。
アリステアは、昨日の夜からの一連の流れを説明する。
「では、息子とダルクはもう・・・」
「そうです。彼らがまた商売をするには、完全に裸一貫から立て直すしかありません。まぁこの後色々噂話が流れますから、王都では誰も相手にしないでしょうが」
「ああ・・・ありがとうございます・・・なんと言ってよいやら、言葉もありません」
「そして、現オーナー権限により、商会とダルクの飲食店組合の運営権限を、エレインさんを筆頭者、番頭さんを補佐としてお預けします」
キースがエレインと番頭に向き直り宣言する。
「先日話した様に、息子さんとダルクが不平等な契約を結び搾取していた店鋪、問屋に差額の精算をしていただきたい。さらに慰謝料を払うのか、その分今後割引するのか等細かい事はお任せします」
「い、良いのでしょうか・・・私などで・・・」
「幾つになっても、子供の後始末をするのは親の仕事だという事です。それに・・・」
アリステアはキースを見る。
「僕達が商会や組合を持っていても、運営するノウハウはありませんし、そもそも携わっている時間がありません。僕達は冒険者ですので!未知なる世界が僕を待っているのです!」
「は、はい・・・分かりました。ではゴーバン、よろしくお願いしますね」
「はい奥様。何なりとお申し付けください」
「それでは僕達は『コーンズフレーバー』に説明に行ってきます。ついでにお昼も食べますか」
「おっ、そうだな!ちょうどいい。ではエレインさん、アリステアさんにはここまでの経緯を説明しておきますので」
「はい、よろしくお願いします。皆さん、本当にありがとうございました。アリステアさんにもご心配おかけしましたとお伝えください」
「承知しました。それでは我々は失礼します」
外に出て馬車へ乗り込み、『コーンズフレーバー』へ向け馬車を走らせた。
お店の裏に馬車を止め店内に入る。昼食のピークは過ぎているせいか、空席が目立つ。
リリアが皆を見つけて近づいてきた。
「皆さんいらっしゃいませ!お昼食べられます?」
「はい!お願いします。それと、詳しい事は後で話しますけど、全て解決しました!とりあえずご連絡です」
「え・・・?解決って・・・」
「もう嫌がらせも無いしダルクやファクトから買収の話もこない、という事です」
「本当に!あ、あ、ありがとう!なんて言ったらいいんだろ、うまく言葉が出ないよ」
リリアは目を潤ませる。
「じゃあとりあえず注文しちゃいましょうか。注文と一緒に皆さんに伝えてきてください」
注文を受けたリリアは厨房へ向けてすっ飛んで行った。
厨房の中が歓声で大騒ぎになり、他の客が訝しげに見ている。
そして、この後、注文していない料理までどんどん出てきて、解決&リリア魔術学院入学記念パーティーになだれ込んだのであった。
皆で散々食べた後、イネス、フィーナ、アドル、リリアとテーブルを囲みお茶を飲みながら、改めて経緯を説明する。
「そうだったのね・・・親の仕事を継ぐというのも家によっては色々と難しいわね。私は何も考えずにそのままやっているけど」
フィーナがアドルにおかわりのお茶を注ぐ。
「継がせる以上は発展させてもらいたいし、厳しくしてしまう気持ちも解らないでもないけど・・・そこら辺は子供の様子を見ながらだねぇ・・・」
「うーん・・・」
皆で腕を組み唸る。
「さて、これでリリアさんが学院に通っても大丈夫かと思いますので、明日にでも理事長先生のところへ報告に行こうと思います。それで、僕が言うのもアレなのですが、リリアさんの穴を埋める従業員が必要なのではないかなと」
「そうだね・・・本格的に募集を掛けようかね」
「リリアには学院の授業に集中してもらいたいしな」
アドルも頷く。
「では、リリア、また明日の朝迎えに来ますので、準備をしておいてください」
「わかった!待ってる!」
「今度は5の鐘から準備始めるんじゃないよ!」
「~~~~!!」
リリアが顔を赤くして俯いた。
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