第57話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
今度はアニスとクライスが慌てだす。
「別件の対応があるので、こちらに来る予定は無かったはずなのですが・・・確認してまいります」
アニスが席を立ち部屋を出る。
(2億2000万の契約は部下に任せて自分は別対応?どれだけの金を動かしているんだ・・・なんとかここに食い込みたいが・・・)
ダルクはゼピック商会と商売できないか思案を巡らす。
アニスはすぐに戻ってきた。
「失礼致しました。自身の方の話が早く終わったらしく、ご新規のお客様であるお二人にご挨拶したいという事でこちらに来たとの事です。お二人共、急で申し訳無いのですが、ここに通してもよろしいでしょうか?」
「いやいや、わざわざお越しいただいてありがたい!こちらこそお礼を言わなければならない身だ。ぜひお会いしたい」
「ありがとうございます。では連れてきますので少々お待ち下さい」
アニスが再び外へ出る。
(これは思いがけず顔つなぎができた!)
ダルクは今後を考えて内心喜んだ。
アニスが戻ってきて開けた扉を押さえる。
「失礼致します」
(!?)
扉から入ってきたのは若い女だった。というか、どう見ても12,3歳の少女であった。
後ろに付き従う女性は20代半ば程だ。こちらは秘書だろうか。
髪型、装身具、外出着、靴等、まさに「良家のお嬢様」である。
呆然とする2人をよそに、少女は挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ゼピック商会オーナー、レアと申します。この度はご契約いただきましてありがとうございます」
スカートを摘んで優雅な仕草で礼をしてくる。
ファクトとダルクも何とか最初の衝撃から立ち直り、ギクシャクと立ち上がり挨拶を返す。
「ロワンヌ商会オーナー、ファクトでございます」
「メリダス飲食店組合、組合長のダルクと申します」
「この様な姿なので皆さん驚かれるのですが、これでも成人しておりますので18歳でございます。もう少し大きくなりたいと思っているのですが・・・」
「いえいえ、とんでもない!可憐でありながらも凛々しいお姿に見惚れてしまいました」
「まあ!お世辞でも嬉しゅうございます。ありがとうございます」
レアと名乗った少女は笑顔で応える。天使の様である。
「それに、お二人には破格の条件で契約をしていただいて・・・本当にありがとうございます」
(・・・?)
「ですが、お二人共、今後のお仕事やお住いは決まっていらっしゃるのですか?」
(なんだ?この娘は何を言っているのだ?)
「今後・・・でございますか?」
ファクトも首を傾げる。
「ええ、あの様な契約では、やはり今後が不安ではありませんか?取引などで繋がりがある商会とかにお願いするのでしょうか?」
「ええと・・・レア様。あの様な契約とはどういう・・・?」
「あら?私何かおかしい事を言いましたかしら?アニス、お二人との契約は、昨日の夜話した通りの内容なのですよね?」
「はい、その通りです」
「でも、お二人はとても不思議そうな、心当たりがない様な感じではありませんか?まさか、きちんと説明しなかったのではないでしょうね?」
レアの口調が強くなる。
「い、いえ!そんな事はございません!契約書の読みあわせもいたしましたし、お二人共納得されてサインしていただきました。何の問題もありません」
「そう、なら良いのです」
可憐な笑顔で微笑む。可愛い。
「そうです、ちょうどこちらにも来る事ができましたので、従業員の方達にも紹介していただこうかしら」
「そうですね。その方が今後の作業もしやすいかと」
「ちょ、ちょっとお待ちいただきたい!先程から、お話の意図が分かりかねます!ご説明をいただけますでしょうか?」
アニス、クライス、レアは「お前は何を言っているんだ?」という顔でファクトを見る。
「ファクトさん、契約書をお持ちなのですよね?出して読まれてはいかがですか?」
ファクトは筒に入った契約書を取り出し読み始めるが、すぐに手から取り落してしまった。
顔面蒼白で体全体が震え、顔は汗でびっしょりだ。
(なんだ、どうしたってんだ)
代わりにダルクが拾い読み始める。
「な、なんだこりゃあ・・・」
思わず声が出た。
契約書にはこう書かれていた。
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ロワンヌ商会オーナーファクト及びメリダス飲食店組合組合長ダルクは、その所有する資産(※ここでいう資産とは、不動産、動産、債権、特許権、著作権等所有するありとあらゆる物を指す)を、全てゼピック商会オーナーであるレア(契約現場での代理はアニスとする)に譲り渡すものとする。
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「タダで全ていただけるなんて、これを破格の条件と言わずになんと言いましょう。本当にありがたい事です」
レアは満面の笑みだ。
「こ、こんな契約はしちゃいねぇ!する訳がねぇ!さっきはこんな事書いて無かった!何かの間違いだ!」
アニス、クライス、レアの目がスッと細くなり雰囲気がガラリと変わった。
「あんた、自分が何を言っているのか解っているのか?サインをした後、その契約書はどこにあったんだ?ファクトの手元の筒の中にあったんだぞ?そもそも文面を読んでサインしたんだろうが。だいたい、あの流れでどうやって書き換えるんだ?こちらの契約書はずっとテーブルの上にあって誰も触れてすらいないのに?」
「疑って掛かるなら、疑う側がイカサマだと証明する義務があるな。さあ、やっていただこう」
「あらまあ、いいお歳ですのに随分お行儀が悪いのですね。それでは良いお仕事はできませんよ?」
(この子供が一番ヤベぇ。何なんだこの威圧感は・・・)
レアは軽く魔力を放出して「威圧」を掛けていた。一般人ではとても抗しきれないだろう。
それでもダルクは勇気を振り絞って立ち上がる。
「こ、こんな契約書なんて・・・」
契約書を破こうとする。
「おいおい、魔術契約の契約書だぞ?それを破るとどうなるのか聞いた事無いのか?蛙になる、石像になる、影だけの存在になる・・・色々あるよな。真偽は不明だが私ならとてもできんな」
「くっ、くそっ・・・」
ダルクは立っていられずがっくりと膝をつく。
「クライス、商会の番頭さんを呼んできてちょうだい」
「かしこまりました」
扉を開けたクライスが部屋を出ようとしたら、扉のすぐ先に番頭が立っていた。
気になって近くで待機していた様だ。
「確か、商会で従業員用に借り上げている集合住宅がありますよね?この2人をとりあえずそこの空き部屋にでも入れておいてくださいな。邪魔ですので」
「かしこまりましたオーナー。おい、誰か手伝ってくれ!あと荷馬車の準備をしろ!荷台にでも放り込んで運んでいけ!」
若い従業員に両脇を抱えられ、ファクトとダルクは連れられていった。
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