第56話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
キースとフランが冒険者ギルドに着き、(今やすっかりアジトと化した)会議室に入ると、既に着替え終わった2人が待っていた。
「お、お疲れさん」
キースがアリステアを見ながら目を輝かせる。
「いやアーティ、凄かったですね!まさに、『オーナーのお気に入りで新進気鋭の商会若手No.1ブローカー』でした!すごい迫力!あれが全くの嘘の取引だなんて誰も思いませんよ!ファクトが2億2000万と言った時の、あの魂を絞り出すかの様な声!いや~ほんと良いものを見させていただきました!」
手を合わせてすり合わせる。
(お祈り?どの宗派かしら・・・?)
フランはお祈りには敏感だ。
「そ、そうか?冒険者できなくなったら転職するかな・・・」
「1億8000万?ダメだな、話にならねぇ・・・くぅ~痺れました!」
(さすがにちょっと照れるな・・・)
フランとクライヴは笑顔で頷いている。
「で、でだ、明日の12の鐘に、ロワンヌ商会に行って契約だな」
「はい、そうなります。こちらが売買契約書です。今回は仕掛けに合わせて魔術契約用の用紙を使います。金額が大きいから、と言えば拒否される事は無いでしょう」
魔術契約は契約書の端に魔石が埋めこまれており、サインをした後魔石に魔力を流して魔力登録をする。契約違反時に自動的に制裁が発動するというものだ。
「どんな制裁が込められているんだ?」
「これ自体の制裁はごく軽いものです。命に影響を及ぼすものではありません。魔力を通して青く光ってもおかしくない、という理由を付ける為だけに用いますので」
「な、なるほど・・・」
(という事は命に影響を及ぼす制裁もできるんだな・・・)
「よし、今日はとりあえずもうできることはありませんね。食事を取って明日に備えて早く休みましょう」
「「「了解!」」」
ディックにここまでの状況説明と挨拶をして、皆でまとまって宿に戻った。
翌日、12の鐘にあわせアーティとクライブはロワンヌ商会にやってきた。
店鋪の前では若い従業員が1名立っている。おそらく案内要員なのだろう。
「ゼピック商会のアニスとクライスだ。ファクトさんと約束がある」
「アニス様、クライス様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。ご案内致します」
アリステアとクライブは奥の応接室へ通される。
部屋の中ではファクトとダルクが待っていた。簡単に挨拶を交わし席に着く。
「待ちかねましたぞお二方。して、オーナーのご判断はいかがでしたか?」
「はい、オーナーは昨夜の金額で譲っても良い、との事です」
「おお・・・!」
ファクトが歓喜に打ち震える。ダルクは平静を装っているが、内心は苦々しく思っているだろう。
「それに合わせて契約書を作ってきました。大きい取引ですので魔術契約書を使います。よろしいですね?」
「ああ、それは問題ない」
「それで支払い方法なのですが・・・」
「む・・・」
ファクトが表情をこわばらせる。
「正直なところいかがですか? 一括で二億二千万円というのは大変な金額です。私どものオーナーも、そちらの商会の運営に大きな影響が出るのではないかと懸念しております」
「・・・」
「そこでご提案なのですが・・・最初に半金を支払っていただき、残り半分は分割払いとする、というのはいかがでしょう?」
ファクトの顔がパッと明るくなる。
(分かりやすい人だ。あまり交渉事には向いていないな・・・)
「ただ、こちらも支払いを待つ訳ですから、残りの半金には1割上乗せしていただいて、1億2100万とさせていただきます。そこはご納得いただきたい」
「あぁ、承知した!」
「ありがとうございます。では半金、1億1000万を今日から60日後迄に、以降60日毎に、1億2100万を5回の分割払い、1回あたり2420万をお支払いいただきます。こちらがその契約書です」
クライブがバインダーに契約書を固定し、アリステアに渡す。
「内容に不備がないか、お互いに最終確認をします。クライス、ダルクさんと席を代わってくれ。契約書はテーブルの上に置いて両手を机の下に。私が文章を読み上げます。お二人も、目の前の契約書の内容が、私が読み上げるものと一言一句、句読点まで変わりないか、確認しながらお聞き下さい」
「よろしいでしょうか?それでは始めます」
アリステアが先程の内容を読み上げる。他の3人も無言で文章を追いながら聴き入る。
「いかがでしたでしょうか?間違いありませんでしたか?」
読み終わったアリステアが尋ねる。
「あぁ、間違いない」「・・・あぁ同じだった」
「それではそれぞれにサインを」
ファクトが契約者として、ダルクが立会者として契約書にサインし、魔石に触れ魔力を流すと契約書は青く光った。
契約書を受け取り、今度はアリステアとクライブがサインをする。
「そういえばクライス、先日喉の具合が悪いと言っていたオーナーの叔父貴どうなったの?」
「あぁ、あれは喉の奥、気道だったかな?そこにデキモノがあったそうで。医者に通うそうです」
「そう、だいたい葉巻の吸い過ぎなのよね、あの人は。まぁ自業自得ね」
サインをして魔石に触れながら2人が軽口を叩く。契約書は少し強く青く光った。
二人のやり取りを聞いたダルクは眉間にシワを寄せる。
(・・・何だ今の唐突な会話は。あれだけ真剣に、慎重に、契約の内容を確認していたのに、何でこんな身内の話を突然しだす?サインする段階までくれば安心と気が緩んだのか?)
ダルクは違和感を抱いたが、次の瞬間ドアがノックされ、そちらに意識を向けてしまった。
アリステアはバインダーから契約書を外し、一枚を丸めると筒に入れファクトに渡す。
「お話中失礼致します。ファクトオーナー、お願いできますでしょうか?」
「何だ、大事なところなのに・・・申し訳ない。少々離席します」
「いえいえ、お気になさらず。お忙しい事は良いことです」
アリステアは愛想よく見送った。
しかしファクトはすぐに戻ってきた。
「アニスさん、そちらの、ゼピック商会のオーナーという方が表に来られているそうなのだが・・・」
「!?」
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