第55話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
「いやー、それにしても、ああもあっさりまとめちまうとは!さすがアニスさんっすね
!」
「あそこは創業者の婆さんが肝だからね。あとはせいぜいその娘。旦那は婿だし。そこにうまく食い込めばこの通り!」
アリステアとクライヴは目を合わせ、静かになった隣をチラリと見る。
(こちらの会話を意識しているな、よしよし)
「ですが、あの『コーンズフレーバー』を買収できるとは!南方系料理じゃ王都で一番の店ですものね!これはオーナーも喜びますよ!ボーナスも出ちゃいますね!」
「まあそれ位は貰ってもいいんじゃない?まぁ、あたしにとっちゃそれほど難しい相手じゃなかったけど!」
「やっぱうちのエースは違うな!さすがアニスさん!」
「いやいや、クライスも手伝ってくれたからね!いい働きだったよ。これからもよろしく!」
「いえいえ、アニスさんあってこその俺ですから!」
「また、うまいこと言って!今日はあたしのおごりだよ!たくさん飲んじゃおう!」
「はい!ありがとうございます!いただきます!」
(違和感無いなぁ・・・って言ったら怒られそう。さて、隣はどうかな・・・)
隣のテーブルのファクトは無表情だった。
だが、何かを抑え込むかのように歯を食いしばり、鼻からの呼吸を繰り返している
(『コーンズフレーバー』を買収?この隣の2人組みが?本当か?俺たちが手をかけても買い取れなかったあの店を?)
(ファクトの様子がやばい。こいつはあの店にはこだわりがあるからな・・・探りを入れてみるか)
「お二人さん、こんばんは。ちょっと訊いてもいいかい?」
「・・・なに?」
「いやいや、そんなに警戒しないで。今、『コーンズフレーバー』を買収したって言ってたよね?それってあの南方料理のお店の『コーンズフレーバー』だよね?問屋街の北入口の近くの」
「ええ、そうだけど。それが何?」
「いや、私も飲食店を経営していてね。前にあそこの買収を考えた事もあったんだけど、上手くいかなくてね」
「ああ、そうだったの。いや、あそこなんか嫌がらせみたいなのを受けているらしくて、うちのグループに入ればそれを解決させるって言ったら、楽勝で話しまとまって。誰が嫌がらせをしているか知らないけど、助かっちゃいました。ねぇ?」
「ええ!ラッキーだったですね!」
「・・・ってほしい」
「・・・なんです?」
「『コーンズフレーバー』を売って欲しい!」
「・・・あんた、何言ってるの?あんなに繁盛している店手に入れて、他人に売るわけないでしょ?ねぇ?」
「本当ですよ!もう酔っ払っちまってるんじゃないですか?」
「金ならいくらでも出す!頼む!この通りだ!」
ファクトは椅子から降りて床に膝をつく。
周辺の席から視線が集まる。
「ちょっとちょっと!こんなとこで何やってるの!?目立ちすぎだって!立ちなよ」
アリステアはファクトの腕を掴んで一度立たせ、改めて椅子に座らせる。
「ここじゃ話しづらいな・・・確かこの店個室あったわよね。空いてるかな」
アリステアは合図をしてウェイトレスを呼んだ。
「アニスさん!?こいつの話まともに聞くんですか?」
「聞くだけはタダだし。もしかしたらもっとデカい儲け話になるかもしれない」
「ですが、勝手なことするとオーナーに」
「あたしが売るかどうかを約束する訳じゃない。最終的な判断をするのはオーナーだよ。あたしはこいつから話を聞いてもっていくだけ。お姉さん、確かこの店は個室があったよね?空きがあれば使いたいんだけど」
尋ねながらチップの1000リアル紙幣を胸元に差し込む。
(一々様になるな・・・かっこいい)
「確認してまいります。少々お待ちくださいませ」
ウェイトレスは驚きながらも、溢れんばかりの笑顔で確認に向かう。
「ええ、お願い」
ウェイトレスはすぐ戻ってきた。チップの効果だろううか。
「お待たせいたしました、空きがありましたのでご案内いたします」
6人(2人はいないも同然だが)はウェイトレスに続いて個室へ移動する。
部屋の中の豪華なソファーに身を沈めると、アリステアが口火を切る。
「で、幾らでも出すって言ったよね?いくらまで出せるの?」
「大丈夫ですかね・・・」
「さっきも言ったが、それを決めるのはあたしじゃない。あたしはこのおっさんが出せる限界を確認して、オーナーに伝える。その金額でオーナーが売っても良いと判断すれば売るだろうし、持っていたほうがより儲かるというんだったら売らないでしょう。どちらがより儲かるか、というだけの話よ」
「さ、どう?ちなみにあたし達は契約金として1億払う契約を結んだ。あの店ならそれぐらい簡単に償却できると思ったから。あんたはどう?」
「・・・1億8000万でどうだ?」
「1億8000万?ダメね、話にならない」
「!?そちらの額に8000万上乗せだぞ!なぜだ?」
「その金額目一杯じゃないでしょ?自分たちで買収できなかったものを、横からしゃしゃり出てきて譲ってもらおうとしてるんだよ?そこ解ってんの?そもそも幾らでも出すっていうのは、あんたが最初に言ったんでしょうに。嘘だったってこと?それならこの話は終わり。あたし達は帰る」
「い、いや、待ってくれ!」
「別に明日の食費まで出せって言っている訳じゃないよ?今後のあんたの仕事で最低限必要な分を残して、出せる限界を提示しろって事。そこは頑張ってもらわないと、こっちだって上に話持っていけないよ。ねぇ?」
「そうですよ!図々しいってもんだ!」
(限界まで出せとキツく言って突き放しておきながら、すぐに相手を気遣う様な優しい事を言う。ファクトは条件が緩くなったと感じて、本気で限界額を提示するだろう・・・)
「さあ、どうするの?諦める?」
アリステアは畳み掛ける。
「・・・2億・・・2000万・・・だ」
ファクトが振り絞る様な声で金額を提示する。
(本当に目一杯じゃねえか!この馬鹿野郎!)
「おい、ファクト!お前商会潰す気か!」
ダルクがファクトの肩を掴み揺する。
「俺の目的はあの店を手に入れ、親父を超えることだ!」
ファクトがダルクを見据える。完全に目が据わっている。
その目の奥に得体の知れない暗くドロドロとしたものを感じ、ダルクは何も言えなくなった
(まずいな、このままじゃこっちまで巻き込まれちまう・・・)
「わかった。でも、返事は明日。うちのオーナーは今夜大事な用事がある。話だけは伝わるようにしておくけど、今夜はそれ以上は無理。それでいい?」
「わかった・・・」
「よし・・・あたしはゼピック商会のアニス。そちらは?」
「ロワンヌ商会のファクトだ」
「よし、うちのオーナーは即決果断の人だから、昼前には結論が出ていると思う。明日の12の鐘にそちらの店に結果を伝えに行く。もちろんその金額では売れないと言ったらそれまで。その時は諦めて」
「承知した・・・よろしく伝えてほしい」
「ええ。それじゃあね」
アリステアとクライヴは席を立ち部屋の外へ出て行くが、キースとフランはその場に留まった。
2人の会話を聞きたかったからだ。
「ファクト、お前ってやつは・・・」
「すまんなダルク。だが、あの店はだけは譲れん。あのまま話を聞き流してしまったら、俺は俺で無くなってしまう」
「あぁあぁ、もういいよ。わかってるから気にすんな」
手をひらひらさせて言う。
ファクトに(ほぼ)見切りをつけているダルクは、かなりあっさりしている。
「・・・今日はもう帰るか。なんだか酒飲む気分でもなくなっちまった」
「あぁ・・・」
2人も席を立ち部屋を出る。
それを見届けキースをフランも居酒屋を出るべく歩き始めた。
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