第52話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
エレインがお茶を入れアリステアの前にカップを置く。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます。いただきます」
ほんのり柑橘系の香りがする、アリステア好みのお茶だった。
お茶とお菓子をつまみながら、ひとしきり手芸談義を交わす。
アリステアは、あまり専門的なことを言わないようにように相槌を打ちながら、話し相手を務める。
一人暮らしでは編み物の話どころか、会話自体少ないのだろう。エレインは楽しそうによく喋った。
「そうだわ、アリステアさんの作品を持って来ていただいたのに、それを見もしないで私ったら・・・かなり舞い上がってるみたい。恥ずかしいわ」
「いえいえ、奥様が楽しそうで何よりです。ではこちらが今回のお品です」
アリステア包みをほどき、ゆっくり広げる。
それを見つめるエレインの目が輝きだし、頬が上気しピンクに染まる。
アリステアは伸ばしたエレインの両手に、広げたレースをそっと載せる。
エレインは指で生地をつまみ、光にかざすように持ち上げ、じっくりと時間をかけて眺めた。
10分近く眺めた後、そっとレースをたたみ大きく息を吐いた。
「アリステアさんの作品はどれも素晴らしいけど、その中でも間違いなく一番だと思うわ。本当に凄い・・・」
「これまでの作品は、円熟味というか、ベテランの技術と経験を感じる作品が多かったのだけど、今回の作品には、そこに若いエネルギーというか、勢い?を感じます。まるで中身は今のままで、身体だけ若返って編んだみたい」
(凄いな・・・さすがの目利きだ)
エレインの指摘にアリステアは内心舌を巻いた。
「この春にお孫さんが魔術学院を首席で卒業し、職も決まりました。悩み事もなく集中して編めている、とおっしゃっていましたので、そのせいでしょうか」
(あえて家族関係の話を出してみたが、どうかな?)
「そうなのね。息子さん夫婦もだけど、お孫さんも立派で羨ましいわ。うちとは大違いね」
エレインは寂しそうに笑う。
(さすがに商会の現状は知っていそうだな・・・よし、ここで仕掛けてみよう)
「アリステアさんからは納品と一緒に、もう一点頼まれたことがありまして・・・」
「あら、そうなの?」
「現在のロワンヌ商会についてお尋ねしてきてほしいと」
エレインの表情が明らかに曇る。
「奥様はもう商会の運営には関わっていないのですよね?」
「ええ、完全に離れて2年になります。息子、現オーナーに最後に会ったのもその時です」
(王都に住む自分の息子に2年間会っていない?)
「その・・・2年前に何が・・・?」
「私は・・・息子が恐ろしくなり逃げたのです」
「息子は・・・あの男は、チンピラのような男達を雇い、ここの前に住んでいた屋敷に盗みに入らせたのです」
「自分の家族が住んでいる家に盗みに入らせた、という事ですか?」
「そうです。その時に、私が買い付けておいた手芸作品を盗み、それを勝手に商会の販路に乗せ販売したのです」
「基本的に取り扱い数も少なく、お得意様相手の販売しかできません。お気に入りの作成者の作品を予約して、できあがるのを楽しみに待っている方もたくさんいらっしゃいます」
「そういう事を分かっているにも関わらず、盗んでまで持ち出し勝手に売ったのです」
「今ここにある作品は、展示会に出していたので無事でした。ですが盗まれた作品は、販売の準備が整い箱に入った状態だった為、簡単に持っていかれてしまいました」
「作品のリストがありましたので、出回った時点ですぐに盗難にあった品物だと分かりました。そしてそれを買われたお客様に、持ち込んだ人間に心当たりはあるかと尋ねたら、不思議そうに『あなたの息子さんが売りにきましたよ?』と言われたのです」
「愕然としました。自宅から盗まれたと思った物は、息子が盗んで販売していたんです」
「私は息子を問い詰めました。しかし、あの子は『安く仕入れて高く売るのは商売の基本だろ?親父もそう言ってたじゃないか。仕入れ値ゼロで高く売れて最高だったよ!』と笑顔で言いました」
「家族から盗んだ物を売り飛ばし、それを笑顔で語る息子に、私は得体の知れない恐怖を感じました。とても同じ空間にいられず最低限の物を持って屋敷を出ました。それ以来会っていませんし連絡も取っていません」
(なんと・・・ファクトは、金に拘っているだけかと思っていたが、どうもそれだけでは無い様だな・・・)
「奥様、彼のその様子は明らかに常軌を逸しています。何やら根深いものを感じますが、何か心当たりはありますか?小さい頃はいかがでしたか?」
「・・・正直、思い当たる節はあるのです。夫は、息子を跡取りとして育てようと、訓練校に入る前からかなり厳しく教育していました。私も、ある程度は仕方がないかと、特にそれを止めませんでした」
「あの子は、訓練校での勉強と家に帰ってからの夫の指導。自由な時間はほとんどありませんでした。訓練校の3年生辺りから、夫への反抗が目立つようになってきました。顔を合わせれば口論になり、家の中の空気は常にギスギスしていました」
「訓練校を卒業してからは、訓練校時代に知り合った悪友達とつるみ、毎夜遊び歩いていました。今もよく行動を共にしている、ダルクという男ともこの頃知り合った様です」
「ですが、この頃はまだ良かったのです。日中は、商会内で責任の軽い仕事を任されたりして、それなりにやっておりましたので」
「しかし、3年半前程にあの子は知ってしまったのです。夫があの子に商会を継がせるつもりが無い事を。どうやら、商会内の若い従業員に小遣いを渡して、色々な話を集めていたらしく・・・」
「その話を知った息子は夫の所に怒鳴り込んできました。夫も知られてしまった以上仕方がないと、一歩も引きませんでした」
「そして夫が『お前、自分の今までの行いと、現状をよく考えてみろ。訓練校に入ってからの事、卒業してあの男と行動を共にする様になってからの事、何をやっても中途半端で、お前の仕事の後は必ず誰かが尻拭いしている現状、これで商会を任せてもらえると本気で思っていたのか?そんな人間に従業員がついてきてくれるのか?』と」
「その言葉を聞いた息子の顔からは表情が消え、動きが止まりました。あの子にしてみれば、あれだけ言われた通りにやってきたのに全て無駄だった、という思いだったのかもしれません」
「しばらくして息子は静かに部屋を出ていき、屋敷にも戻ってこなくなりました。そして夫が病で亡くなって埋葬を済ませた翌日、突然姿を現しました。そして、満面の笑顔で従業員達にこう言ったのです」
『これで俺が新しいオーナーだな!みんなよろしく頼む!』と。
「あの子がオーナーになってから、服飾以外の事業にも手をだしていますが、結局のところ夫への反発が原因だと思います。夫は、息子がなんと言おうと、服飾以外の事には手を出しませんでしたから」
「生前からその事でよく口論になっていました。多業種展開は派手ですから。ですが、実際問題として、その頃の商会の収支ではリスクが大き過ぎました」
(なるほどな・・・ん?もしかして・・・)
アリステアは一つ引っかかった事をエレインに尋ねた。
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