第50話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
魔術学院を出たキースは、リリアを『コーンズフレーバー』へ送り届け、冒険者ギルドへ向かっていた。
ギルドの建物に入り、職員達に笑顔で挨拶をした後、待合室のベンチに座りいつも持ち歩いている魔法陣の研究書を開く。
と、誰かがキースに近づいてくる。
ディックである。
「ディックさんお疲れ様です。先程はどうも」
キースが研究書から顔を上げ挨拶する。
「おう、3人はもうすぐ来るのか?」
「はい、12の鐘で合流予定ですからもう間もなくかなと」
「そうか。で、昨日依頼された調査はもう終わっている。今サイモンが報告をまとめているところだ」
「昨日の夜お願いした話なのに・・・本当に凄いですね・・・」
「ふふ、まあな・・・で、あの娘の編入の件はどうなった?」
「はい、無事に許可をいただけました。ただ、例の件が片付いてからにしよう、という事になりまして・・・落ち着いてからでないと、勉強にも身が入りませんし」
「あぁ、それは確かにその通りだな。ところで・・・」
「理事長にパーティの3人について何か聞かれなかったか?」
「いえ、特には・・・何かありましたか?」
キースは首を傾げる。
「いや、自分が知らない冒険者だからちょっと気になったらしい。俺からちゃんと説明したから、キースには敢えて尋ねなかったのだろうな」
(あの娘もいたから訊かなかったのか、それとも、パーティを組んだのが昨日の今日で、詳しい事はわからないと思ったのか)
(そもそも、俺が知っていたとしても、はっきり答えられるわけないだろう。恐ろしい。気になるなら本人達に直接聞けばいい)
「まぁ、昨日初めてあった方達ですから僕に訊かれても・・・」
キースもちょっと困り顔だ。
(困った顔も可愛い!)
カウンターの中から変な電波が飛んだ。
「まぁ、そうだな・・・お、噂をすればなんとやら、だ」
アリステア達が建物に入ってきた。
「お、待たせてしまったか」
「いえ、僕も今来たところです」
そこにサイモンが書類を手にやってくる。報告をまとめたものの様だ。
「皆さんお待たせしました。いかがしましょうか?ご自分達で読むか、私の解説付きか選べますが」
「解説付きで!」
「分かりました。では会議室へ参りましょう」
実際に情報を整理したプロの見解は貴重だ。会議室に入りそれぞれ席に着く。
「あ、開始前に一点。リリアの編入の件は理事長の許可がいただけましたので問題ありません。ただ、店の件が終わってから話を進めよう、という事になりました」
「うん、もっともな話だな」
それには3人も納得した。
「よろしいでしょうか?それでは始めます」
サイモンが書類を片手に口火を切る。
【ロワンヌ商会の生業】
先代の頃はほぼ服飾一本の商会でしたが、3年前に先代が急な病で亡くなりました。先代の息子であるファクト(44歳)が継いでからは、服飾はもちろん、飲食店経営、運送業、不動産取引等、手広く事業を展開しています。
【ロワンヌ商会の業績が落ちてきている理由】
ファクトは若い頃から、質の悪い奴らと付き合い遊び歩いていたそうで、先代夫婦はかなり苦労していた様です。なお、今もその性質は治っておりません。その為、先代はファクトを信用していませんでした。跡継ぎとして指名もせず、商会の重要なポストにも就けませんでした。
先代は亡くなる前日まで元気だったのですが、夜寝たら翌朝亡くなっていました。心臓の病だったとの事です。余りにも急だった為、後継を指名する事もできませんでした。それで息子であるファクトがオーナーに就いた、という事です。
ファクトは本業である服飾も扱いつつ、様々な事業に手を出しています。ですが、新規事業のノウハウがある訳でもありませんし、その業界から腕利きを引き抜いて任せたり、という事もしていません。
要するにその時の思いつき、行き当たりばったりの様です。ですので、ファクトの代になって始めた新規事業はどれも赤字です。その赤字が、本来の服飾関係の利益を食いつぶしている為、業績が落ちてきているのです。
【ダルクについて】
王都で複数の飲食店を傘下に収め、飲食店組合を運営していますが、店子へのキツい縛りや法外な違約金の設定等、非常に評判が悪い人物です。ファクトとは同年代で、若い頃からつるんでいた遊び仲間です。今も一緒に酒を飲んだりと、行動を共にする事が多いとの事です。
【タンブロア商会のオーナー、ティボーについて】
皆さんも御存知の通り、彼は商会の4代目で、義兄であるファクトとは違い堅実な商売をしており、評判も決して悪くありません。
ですが、彼は酒を飲むと、途端に色々とだらしなくなるのだそうです。主に賭け事と女ですね。遊び人のファクトとダルクに、酔った挙げ句の賭け事で作った借金の精算、女遊びの尻拭いを何度かしてもらっており、二人には頭が上がらないそうです。
しかし、賭け事も女も、ファクトとダルクがイカサマありの賭博場に連れて行ったり、自分達で美人局を仕掛け、そこを助け恩着せがましくしている、という話もありました。いわゆる「マッチポンプ」というやつですね。
【ファクトの母親の高級衣料品販売について】
彼女は、ファクトが継いでから商会の運営には関わっていません。ですので、これは商会とは完全に別枠になります。母親が王都やその周辺に住む個人生産者から手工芸品を買い取り、先代の頃から付き合いのある貴族や大店の夫人相手に、直接販売をしているそうです。夫人自身がこういうハンドメイド製品が非常に好き、というのもあるようですね。この売上をロワンヌ商会へ回して補填している、という話は聞けませんでした。
最後に、ダルクの店では「店子が特定の食品系問屋からしか仕入れる事ができない」という縛りがありますが、その各食品系問屋も、ティボーの様にに弱みを握られている様で、不平等な契約で搾取されているとの事です。
その仕組みですが
「店子が仕入れ代金を問屋に支払う」
↓
「各食品系問屋は原価と利潤の2割を得る」
↓
「利潤の8割はダルクとファクトで折半」
これで報告は以上になります。
サイモンの説明が終わっても、誰も言葉を発しなかった。
(これは酷い・・・)
ファクトとダルクが絵図を書いて、そこにティボーを巻き込み使いっぱしりにしてこき使っている。
さらに、複数の食品系問屋とダルクの店の店子からも、恐喝に近い要請と詐欺的な契約で金を巻きあげているのだ。
各問屋には、原価と僅かな儲けを渡す事でこの取引で赤字にはしない。
潰してはダメなのだ。潰れなければずっとむしり取る事ができるのだから。
「『コーンズフレーバー』の買収は、ダルクとファクトが企んでいる事で、ティボーは交渉には出てきはしたが、タンブロワ商会自体は別に店や土地が欲しい訳でも無いのだな」
「はい。ですが、他の店を買収する時に比べると、少々執着が強い気もします。なぜあの二人があの店にそこまで拘るのか、という話はありませんでした」
「この二人は法を犯している訳では無いので、国に訴え出ても何もできないのでしょうね。あこぎな内容ですが、店鋪、個人間で契約が成立してしまっているのでは、他人が横から口を出す事はできません」
「それに、問屋達は握られた弱みを公表されたくない。その為に利益を減らしてでも金を払っている。しかし、この件が表沙汰になったら、その弱みも一緒に表に出てしまうだろうな。そうなると、人によっては協力を拒否する可能性もある」
「解決したいが、表から真っ向勝負、という訳にはいきませんな・・・さて・・・」
その時、キースが皆を見渡し、静かに手をあげた。
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