第48話
【更新について】
「地上げ問題」解決までの分を一括更新致します。
12時で6話、16時で6話となります。なんでこんなに長くなった・・・
よろしくお願いします。
【度量衡について】
この世界では皆さんの知らない単位・呼び名で運用されていますが、読まれている皆さんが混乱したり、一々計算し直したりしていてはお話に集中できませんので、作者の方で勝手に分かりやすい単位に変換しました。
外来語や和製英語等が出てくるのも同様です。予めご了承ください。
お金だけは簡単なのでそのままです。
1リアル=5円
翌朝、アリステアは6の鐘の鳴る頃に目を覚ました。
シャワーを浴びてさっぱりし、朝食をしっかり摂る。昼前までに中途半端なレースを編みきってしまわなければならない。編んでいる途中でお腹が空いては集中が途切れてしまう。
(よし、いっちょやるか!)
アリステアは猛烈な勢いで編み始めた。
フランとクライブは、それを横目に静かに部屋を出て、馬車を仕舞ってある小屋へ向かう。
「では、俺が箱部分を掃除するから、フランは馬の世話を頼む」
「はい、分かりました」
2人は分かれて作業を開始した。
キースは8の鐘頃に目を覚ました。普段より少し遅めだ。さすがに色々あって疲れていたのだろう。
シャワーを浴びて食事を取り、朝のルーティンをする。
深呼吸を繰り返し集中すると共に、指先や手のひら、額、足の指先など、身体の各所に魔力を集中させたり、自分を中心にできるだけ薄く薄く広げてゆく。
魔力操作の準備運動的なものだ。魔術学院に入学した次の日から毎日行っている為、やらないと気持ち悪い。
宿を出る手続きをし、荷物を持ってリリアを迎えに『コーンズフレーバー』に向かう。
(最初に、昨日の午後判った話を伝えておきたいけど・・・)
『コーンズフレーバー』の前に着くと、店の煙突からは煙が立ち上っている。既に仕込みが始まっている様だ。
(昨日の話の説明は後にしよう)
勝手口をノックし扉を開けながら中に声をかける。
「おはようございます!キースです!」
「おら、おはよう!」
フィーナが野菜を切る手をとめてこちらを向く。
「フィーナさん、リリアさんのご都合はどうでしょう?これから魔術学院の理事長のところに行って、編入の件をお話してみようかと思うのですが・・・」
「あぁ、都合も何も、朝早くから準備万端で待っているから、すぐにでも行けるわよ」
「ちょ、ちょっとお母さん!」
リリアが慌てて出てくる。すぐ近くにいた様だ。
「そういうさ、誤解を招く様な言い方はやめてもらえる?たまたま早く目が覚めただけだから!」
「だからって、5の鐘前から準備し始めなくたっていいだろ?日の出前に出掛けるつもりだったのかい?」
「・・・」
フィーナの指摘に、リリアは顔を赤くして母親を睨みつける。
「じゃ、じゃあ行きましょうか。では、フィーナさんちょっと行ってきます。昼にギルドに集合するので、遅くてもその前には帰ってくる予定です」
「分かったよ!・・・キース、本当に何から何までありがとねぇ・・・よろしく頼むよ」
フィーナは頭を下げる。
「アーティさんは大事な仲間ですし、僕の保護者みたいな立場の人です。その人が大事にしているものなら、一緒に守りたいと思います。それに・・・」
「僕も、もっと色々な美味しい料理を食べたいですから」
「食事処としては、そう言ってもらえるのが何よりだよ・・・嬉しいねぇ・・・」
フィーナは笑顔で目を潤ませる。
「ではまた後で!」
「気をつけて行っといでよ!」
勝手口の扉を閉め、リリアに< 認 識 阻 害 >の魔法をかける。誰がどこで見ているか分からない。用心するに越したことはないだろう。
魔術学院に向う道中は、リリアからの質問に答える事で過ぎていった。
学院に入ってからの授業のスケジュール、一日の流れ、様々な決まり事などだ。
もちろん詳しい資料も貰えるが、卒業生から話を聞くのが一番手っ取り早い。
新しい生活に対する不安は、少しでも解消しておきたいと思うのはごく当たり前だ。
「着きました。ここが魔術学院です」
「見た事だけはあったけど、まさか自分がここの門をくぐるなんて・・・」
門柱の魔石に魔力を流し敷地内に入る。
石畳の道を歩きながら、門柱の魔石の仕組みと、施設内の各所に設置された魔法陣について説明する。
扉を開け受付を覗くと、今日も職員はマールだった。
「マールさんおはようございます!キースです!」
「あら!いらっしゃいキース!まさか2日続けて会えるとは思わなかったわ」
「はい、僕も嬉しいです!理事長先生はご都合いかがでしょうか?」
「あ、今ね、お客様が来ているのよ・・・ちょっと待っててもらえるかしら」
「分かりました。では、待合所で待たせてもらいます」
「ええ、その後はご予定は無いはずだから、お帰りになられたら声をかけるわね」
2人は連れだって受付の脇にある待合室に入る。
一般市民区域側の待合所だが、その作りはもちろん、調度品類も貴族の館に置かれる様な立派な物が置かれており、手抜きは一切感じられない。
(こ、これ座っていいのかな・・・)
せいぜい他の店舗や問屋、自宅のお店と訓練校ぐらいしか行った事の無いリリアは、あまりにも立派な内装と調度品に引き気味だ。
(これは少しでも色々な物に触れさせて、慣れさせた方がいいな)
「リリアさん、ちょっとこちらへ」
尻込みするリリアの様子を見てキースが手招きをする。
中央の大きなテーブルの上に、大きなキノコの様な物が載っている。照明の魔導具だ。
その笠の形をした部分の中心に真っ直ぐの支柱が差さり、四つ叉になった台座と繋がっている。笠の部分の内側に魔法陣が描かれているが、その表面は覆われ見えないようになっている。
支柱の途中には動力源として、10gの魔石が嵌められ輝いている。
「これは照明の魔導具の一種です。照明の魔導具には何種類かありまして、部屋や廊下の壁にかける型、この様に机の上に置いて使う型、用途と場面によって使い分けます。実際に見た事はありますか?」
リリアは勢いよく首を横に振る。
照明の魔道具は量産されるようにはなったが、まだ値の張る物だ。動力源として魔石代も掛かる。さすがに使用している一般家庭は少ないだろう。
「では、この魔石に触れて魔力を流してみてください」
リリアは恐る恐る手を伸ばし、そっと魔石に触れ魔力を流す。
傘の内側が青白く光った後、傘全体が暖かさを感じる、オレンジ色で光り出す。
「光った・・・明るいね・・・」
リリアはその光に見入る。
少々戸惑いつつも、自分が点けた事を喜んでいる様だ。
「では、もう一度魔石に触れて魔力を流してください」
今度は恐る恐るではなく、すっと手を伸ばし魔力を流し照明を消す。
(そう、最初だけなんだよね)
リリアは、その後も何度か点けたり消したりを繰り返した。
「では、次はこれです」
懐から、魔法陣が書かれた紙を出し机の上に広げる。
「これは僕の作ったオリジナルの魔法陣です。先程の魔石と同様に、魔力を流して『起動』と呟いてください」
「うん、やってみる」
リリアが魔力を流し「起動」と呟くと、魔法陣は青白く光り、2匹の影のウサギが現れ魔法陣の上で走り回る。
リリアからは先程までの戸惑いが消え、目と表情は輝き、感激に満ちている。
そんな姿をキースは優しく見つめる。
「これが魔法・・・」
しばらく影の兎を見つめた後、リリアがポツリと呟く。
「キース・・・魔導具って、魔法って凄いね・・・」
「私、こんな自分でも少し使えるから、それがどれだけ大変な事なのか、いまいち理解していなかった」
「まだここに入れてもらえるか判らないけど、入れたらほんと頑張るよ。もっと色々できる様になりたい」
「はい、僕も魔法の凄さに気づいてもらえて嬉しいです」
キースが笑顔で応える。
その時待合所の入口から、マールが声をかけてきた。
「キース、お客様がお帰りになるみたいよ」
「はい、ありがとうございます」
待合所の出入口へ向かっていくと、自然と正面から歩いてくる人物が目に入る。
なんとディックである。
「ディックさん、おはようございます」
「おおキース、おはよう・・・もしかして編入の件か?」
ディックはリリアにちらりと視線を向ける。
「はい、そうです」
「そうか・・・まぁ、編入自体はたまにある事だ。ダメという事はまず無いと思うが、無事に入れると良いな。今日は昼にギルドに来るのだよな?」
「はい、その予定です。それでは行ってきます」
キースはリリアと連れ立って階段を上がって行く。
自分の要件もキースに関わる事だったが、ディックは敢えて何も言わなかった。
(まぁ、あれ以上の事は知らないのだから、何を尋ねられてもボロの出ようが無いんだよな)
ディックはその後ろ姿を見ながらため息をついて魔術学院を出ていった。
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