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第44話

「それでは経緯を教えていただけますか?」


キースが父親を促す。


「あぁ、最初は・・・」


「アドル!ちょっとお待ち!」


その声と同時に、厨房から奥に続く扉から女性が2人、客席側に出てきた。


一人はお茶の用意を載せたワゴンを押している。


「お義母さん!フィーナ!」


「なに私達がいないところで話を進めようとしているんだい!」


「そうよあんた!大事な話なのだから呼んでちょうだいな」


そう言って人数分のお茶を入れ始める。



「いや、忘れてた訳じゃないんだが、話の流れで・・・」


アドルは女性2人組に押され気味だ。これだけでこの家のパワーバランスがわかってしまう。


(イネスとフィーナ・・・15年振りか。相変わらずだな)


アリステアは目を細めて懐かしそうに2人を見る。


2代続けて「食堂の肝っ玉お母さん」という言葉がぴったりな2人である。


「皆さん、妻のフィーナと妻の母のイネスです。この店は約50年前に、妻の両親が始めた店です」


「私は近所に住んでいた妻の幼馴染でした。自分の親の帰りが遅かった為、親の作った食事より、こちらでご飯を食べさせてもらった事の方が多いかもしれません」


「特性も、手先の器用さと味覚という、料理人向きなものが出ましたので、訓練校を卒業した後は、親父さんの味と技術を引き継ぐべくお店に入れてもらいました。もちろんフィーナがいた、というのが一番ですが」


「ちょ、ちょっとそれ言う必要ないじゃない!」


顔を赤くしたフィーナが慌てて言う。


「お父さんとお母さんは、いつも、とても、非常に、仲がいいのよね~」


「リリア!」


「親父さんは10年ほど前に亡くなりました。お客さん達は親父さんの味と遜色ないと言ってくれますが、そこで満足はできませんし、そもそも、自分ではまだちょっと納得いかない部分もあります」


「ふん!じいさんに比べればまだまだだよ!」


「おばあちゃんはそこは絶対に譲らないよね~」


「当たり前だよ!じいさんのレシピだ!じいさんが作るのが一番美味いに決まってるだろ!」


言葉は荒いが微笑ましいやり取りである。


「まだまだ4人で頑張っていきたいと思っているのですが・・・」


アドルの表情が苦いものになる。


「最初に向こうから接触があったのは半年程前です。食品や香辛料、調味料等を扱っている食品問屋、タンブロア商会のオーナーであるティボーという男と、王都にある飲食店を複数傘下に収め組合を作っている、ダルクという男が連れ立って店にやってきました。店舗の売却か、ダルクの飲食店組合に参加しないか、という話を持ちかけてきたのです」


「ふざけた奴らだよ、全く!今思い出しても腹が立つ!」


イネスが憤慨する。まるで、目の前に2人がいるかの様だ。


「買収額や組合に入る際に支払われる契約金も、金額的にはおかしなところもない、どちらかといえば若干高いぐらいでした。ですが、うちは経営的に行き詰まっている訳でもありませんし、商売自体をやめるつもりもない。売るにしてもグループに入るにしてもメリットがない。なので、当然話は断りました」


「その後、さらに2回話を持ちかけられました。提示される金額は少しづつ上がったのですが、そういう問題では無いという事は相手も理解した様で、最後に来てから既に3ヶ月ほど経ちます」


「露骨な嫌がらせ始まったのは先月からになります。店の周りに腐った生ゴミや、犬や猫の死体、何かの生き物の内蔵が撒かれる、という事が起き始めました。買い出しの間中、ニヤニヤしながら少し後ろを着いてくる、ということもありました」


「うちへの嫌がらせの為だけに犬や猫を殺すなんて・・・」


リリアは特に動物が好きなようで悲しそうな顔をしている。


「さらに、ランチや夕食時の、特にお客さんが多い時間帯に、客を装って嫌がらせをしてくるようになりました」


「・・・例えば?」、


「虫や髪の毛が入っていたという定番のものから、メニューに無いものを作らせようとする、複数で来店してたくさんの料理を注文し、一口だけ食べて無言で金を置いて出ていく、他のお客さんに絡む、とかですね」


「こちらに対してやってくるのはまだしも、いつも来てくれる、他のお客さんに迷惑をかけるのだけは許せないよ!店の雰囲気も悪くなるし・・・」


フィーナも下を向いて、膝の上でエプロンを強く握り締める。


「この、たくさん頼んでほとんど食べにずに帰る、というのも地味に効きます。一人一人好みがありますから、どうしても口に合わないという事はありますし、それは仕方がない事です。特にうちは特徴ある食材と味付けが多い。でも、作っている側からすると・・・」


皆渋い顔だ。


「今はまだ特に影響は出ていないのですが、お客さん達は嫌がらせをされていることは知っています。これがずっと続けば、うちに足が向かなくなることは十分に考えられます」


「ふむ・・・そもそも彼らはなぜこの店を欲しがるのでしょう?どんなメリットが考えられますか?」


「まず、実績ですね。うちは王都で約50年営業してきたという歴史があります」


「ご存知の通り、王都には飲食店など星の数程あります。その競争の激しい中でここまで営業を続けてくることができました。他にも南方系の料理を出す店はありますが、うちが一番古く、お客さんが多く、間違いなく一番美味しいです。そういう店を手に入れたい、傘下に加えたいというのはあると思います」


「それに関連して、うちを傘下にすれば他の店に対してのアピールになる、というのもあるかもしれません。あそこですら傘下に入ったのだから、うちも入った方が良いのかもと考える店も出るかと」


「なるほど・・・では、皆さんが彼らのグループに入らないのはなぜでしょう?メリットは本当に何もないのですか?」


「タンブロワで取り扱っている食材や香辛料、調味料が、若干割引価格で手に入るらしいです。ですが、タンブロワではうちがよく使う調味料の取り扱い種類が少ないので、他の店にも頼まなければならない。二度手間になるのです」


「それに、一番の問題は、ダルクの組合に入ると組合協賛金という名目の「あがり」を払わなければならない。結局のところこちらにはマイナスです」


「ダルクの組合の他のお店から、お客さんが流れてくるということはありませんか?」


「王都は広いし店も多い。何だかんだで、皆家の周辺にあるいくつかの店を巡っているだけなのですよ。馬車とか移動手段を持っているお金持ちの商人とかなら別ですが、庶民は、家から遠いお店にわざわざ行こう、という気には中々ならないものです」


「では、組合に参加しているお店はもしかして・・・」


「うちと同じように嫌がらせを受けたか、何かしら弱みを握られているか、よほど経営難だったのではないでしょうか。渋々参加しているんだと思います」


(決して一枚岩ではないということか・・・ちょっと何かあればバラバラになりそうだな)


「その中でも、ダルク自身がオーナーの店があります。一つの大きな建物に複数の店が入り、一度に様々な店の料理を楽しむことができるスタイルです。客ウケも良く味もなかなか、値段も普通から少し安い位です」


「素直にその路線で勝負すれば良いと思うのですが・・・何か意図があるのでしょうか」


「うーん、それはちょっと分からないですね」


「よし、では夕食がてらその店に偵察に行ってみましょう。皆さん、それでいいですか?」


「賛成!」


皆、若い頃は王都暮らしで、比較的自由になるお金の多かった冒険者だったこともあり、美味しいものを食べるのは大好きである。


「それにしても・・・皆さんはどうしてそこまでしてくれるんです?」


アドルが不思議そうに尋ねる。


「私はここの料理が大好きなんだ。余計なことに気を煩わせて味が落ちたり、ましてや店が無くなったりしては困る!」


「アーティは本当、よく来てましたものね。ご飯どこで食べますか?と聞くと、だいたいここの名前をあげてましたもの」


「ふふ、確かにそうでしたな。3食ここでも良いぐらいでは?」


「ああ、いいぞ!歓迎だ!」


(・・・?)


リリアは少し不思議そうにアリステア達を見つめる。


「あとはタンブロア商会ですが・・・こちらは取り扱い商品の卸先を増やしたいということでしょうか」


「はっきりとは分かりませんが、おそらく・・・」


「では、夕食前に先にこちらへ行って様子を見てみましょう。周りの店から何か話が聞ければと思います」


「よし、では早速行ってみるか」


アーティが席を立つ。


「では、ちょっと行ってきます。今日は戻ってくるかは分かりませんが、明日は来ますね」


「本当になんと言ったらいいのやら・・・色々ありがとう。よろしく頼みます」


アドルが頭を下げる。


4人は席を立ち、店の皆に見送られ出ていった。




キース達が店を出たのを見て、リリアがフィーナに尋ねる。


「お母さん、ちょっと訊きたいんだけど・・・」


「ん?どうしたの?」


「キース君は初めてだったみたいだけど、他の3人は何度も来たことある感じだったよね?特にアーティさんは、3食うちのご飯でもいいって言うぐらいだし・・・」


「でもさ、私、間違いなく今日初めて見たよ。あんな目立つ人たち忘れるわけないもん。私が訓練校に通っている間に来てくれてたのかな?」


「そう言われるとそうねぇ・・・」


フィーナも首を傾げる。


リリアの言葉を聞き、イネスの頭の中には1人の人物が浮かんでいた。


(昔、同じ様に3食ここでいいと言ってくれた人がいたけど・・・でも、呼び名は同じだけど年齢が合わないしねぇ・・・)


イネスは冒険者ではない。まさか、それが先程まで目の前にいた人物と(中身だけ)同じだった、などとは夢にも思わない。


自分の意識を人形に移す魔導具があるなどということは、一般人には想像すらできない事だ。



開店当初から足繁く通ってくれた、あの小柄な女冒険者を思い出す。


開店直後は、まだ王都では馴染みのなかった南方系の料理の店ということもあり、客足がなかなか伸びなかった。丸一日で5人ぐらいの日もあった。


だが、彼女が通うことで、この店が冒険者たちの中に浸透していき、さらにそこからお客さんの輪が広がっていったのだ。


現役の頃は1人で来ることが多かったが、怪我で引退してからは何人も仲間を連れ、食事をしに来てくれた。新人冒険者も、皆一度は彼女に連れてこられた。


何かのお祝い事の時には、貸し切りでパーティー会場として使ってくれたり、お店の経営という面からも非常に助けられた。


(最後にお店に来てくれたのは15年前ぐらいか・・・元気でいるかねぇ)


イネスは懐かしいその人物の顔を思い浮かべながら、4人が出ていった出入口を見つめていた。


【更新について】


この回以降は、書き上がり次第随時更新、となります。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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