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第43話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

12の鍾が鳴るのと同時にアリステアが冒険者ギルドに戻ると、そこではフランとクライブが待っていた。キースの姿は見えない。


学院の理事長に挨拶に行くと言っていたが、話が盛り上がっているのだろうか。


「ふむ・・・キースはまだか」


「えぇ・・・理事長先生も、キースの進路が決まらなかった事をかなり気にかけていましたから、中々離してくれないのかもしれません」


「十分ありうるな」


アリステアは苦笑いだ。自分のせいだという自覚はある。


「仕方がない。腹も減ったし伝言板に書き残して店に行ってみるか」


「「はい!」」


伝言板に店の名前、場所、自分達の名前を書きギルドを出る。



「アーティ、行き先はあの店ですな?南方の国の料理を出す、お気に入りの」


「あぁ、前回来た時は行かれなかったからな。またしばらく王都には戻らないだろうし、今日はぜひ行きたい」


既に頭の中で何を注文するかを考えている様で、とてもよい笑顔だ。


「あのお店も、開店して50年ぐらい経ちますか?」


「あぁ、確かダンジョンを見つけた年だから・・・私が23歳で・・・今年で46年か」


王都でそれだけ長く営業できているのは、色々な要因があるだろうが、やはり美味しいからであろう。


(定番の辛くて酸っぱい具沢山のスープに、麺を野菜や魚介と一緒に炒めた物と、野菜とエビを薄い皮で巻いて甘辛いタレに付けて食べる巻物にしよう)


思い浮かべたメニューの美味しさを思い返していたところ、曲がり角から出てきた人とぶつかりそうになる。


「きゃっ」


「おっと失礼」


アリステアにしては珍しい。注文を考えるのに気を取られ過ぎていたのだろうか。


しかし、原因はそれだけでは無かった。ぶつかりそうになった女性には< 認 識 阻 害 >の魔法が掛かっていたのである。


< 認 識 阻 害 >の魔法は、姿を隠す訳では無いが、対象者の事を正面から見ていても意識に残りづらい効果がある。


「連れが失礼しました。お怪我はありませんか?」


ぶつかりそうになった女性の隣を歩いていた男性が声を掛けてくる。


(!?)


キースである。


キースが、女の子と、連れ立って歩いている?


3人の目がスッと細くなり気配が変わる。周囲の空気が一瞬で冷えた。


「あれ!? 皆さんじゃないですか!あ、今からお昼ごはんのお店に行く所ですか?」


「そうだが・・・そちらの女性は?」


「お昼ごはん楽しみうふふん」というほんわかな空気は一変した。キースに近づくこの少女の正体を見極めなくてはならない。


少女は、無意識のうちに身体を引いて下がっている。生物の防衛本能というやつであろう。


「ここではちょっと・・・取り敢えず、彼女を家まで送りたいのです。ご飯より先にそちらへ行っても良いですか?すぐそこだそうなので」


キースは辺りを気にしながら提案する。


「・・・わかった」


キースと少女が並んで前を、3人はその後ろを歩く。


(わ、私何かしたのかしら・・・)


リリアはその背中に3人の視線とプレッシャーを受け、自然と早足になる。


「後ろの方達は、僕のパーティの仲間です。僕なんかより強い方達ですから、さっきの奴らが出てきても簡単に片付けちゃいますよ!」



「そ、そうなんだ・・・すごいね・・・」


(私が片付けられそうな空気なんだけど・・・)


キースは笑顔だが、リリアの表情は引きつっている。



「あの茶色い屋根のお店よ」


リリアが指差す先には、1階が店舗、2階が住居、というこの辺りではごく一般的な建物があった。


(よ、良かった・・・無事着いた・・・)


「ん?ここが君の家か?」


3人が『コーンズフレーバー』と書かれた看板を見上げている。


「は、はい・・・そうですが・・・何か?」


「いや、私達はここでお昼を食べようと思っていたんだ」



皆で中に入ると、昼過ぎとあって店内はとても混雑していた。


「あ、奥に一箇所空いているテーブルがありますね!あそこでいいですか?」


「あぁ、大丈夫だ」


アリステアは店の中をぐるりと見渡す。壁には南国の砂浜を描いた、額に入った大きな絵が飾られている


(あの絵は、私が通い始めた頃からあるんだよな)


隅に置かれた観葉植物、タペストリー、全てが懐かしい。



リリアは、店の厨房で忙しそうに動き回る男性に向けて声を掛ける。


「お父さんただいま!」


「おう、お帰り!遅かったな?」


「うん・・・ちょっとね・・・」


「まさか・・・!?またあいつらか!」


父親は鍋を振りながらも顔を強張らせる。


「とりあえず後にしよう。今はお客さんもいるし」


「・・・分かった」


父親は難しい顔のまま鍋を振り続けていた。



「お水お待たせしました!ご注文はお決まりですか?」


リリアがキース達のテーブルに水を置きながら尋ねる。


この店はフランとクライブも何度か来ているが、アーティ程メニューに詳しくは無い。


それに、ここに来たがっていたのはアーティなので、彼女が食べたい物を中心に頼むことにした。


キースは初めてで、どんな料理かもわからない為全部お任せだ。


「これとこれとこれを人数分頼む」


予め決めていた「辛くて酸っぱい具沢山のスープ」「麺を野菜や魚介と一緒に炒めた物」と「野菜とエビを薄い皮で巻いて甘辛いタレに付けて食べる巻物」を注文する。


「はい、かしこまりました!少々お待ちください!」



「で、どういう話なんだ、キース」


「はい、それがですね・・・」


・この店が地上げを目論んでいる商会に嫌がらせを受けている。

・今日は遂に彼女が拐われそうになった。そこに出くわし助けた。

・土地を欲しがっている商会が指示を出していると思われるが証拠も無いし、手の打ちようがない


「この店は私のお気に入りなんだ!そこに手を出すとは・・・何という商会なんだ?」


「あ、そこはまだ聞いていないんです・・・」


「お待たせしました~!」


ちょうどリリアが注文をした料理を運んできた。スパイスの効いた、食欲をそそる芳しい香りが辺り一面に漂いだす。


「・・・続きはとりあえず食べてからにしよう。冷めてしまうしな」


皆で取り分け食べ始める。


3人はどんな料理か分かっているが、キースは初めてである。


「えっ?酸っぱ!?あっ辛っ!」とか「・・・なにこれ・・・美味しい・・・」


など、何かを食べる度にとてもよい反応をしている。連れてきた甲斐がある。


(リアクション可愛すぎでしょ・・・)


3人は料理以外も堪能した。


さらに肉の串焼きを追加し、さすがのアリステアも満足した。


「はぁ・・・やはりここは最高だな・・・久々だったから余計だ」


昼の営業は2の鐘までという事もあり、アリステア達が食べ終わる頃にはほぼ空席になった。



既に新たな注文も受けていない為、手の空いたリリアの父親が厨房から出てきて、アリステア達のテーブルにやってきた。


片付けをしていたリリアもやってくる。


「さきほど娘から話を聞いたのだが・・・少年、今日は娘を助けてくれてありがとう。お礼が遅くなって申し訳ない」


「ほんとに助かったよ。その後も着いてきてくれて心強かったし・・・ありがとうキース」


リリアと父親はキースに向かって深々と頭を下げた。


「彼女は自分の力だけでも十分に難を逃れられたと思います。僕のした事など大した事ではありません。お気になさらず」


キースは爽やかな笑顔で応える。


「・・・確かに多少は使えるが、きちんと学んだ訳では無いのでな。実際発動するかどうかは最後までわからんのだよ。なのであまりアテにし過ぎるのもな・・・」


「その事なのですが、入学前は学院に入れる程の魔力量では無かった、という事なのでしょうか?」


「そうなんだ。僅かに足りない、というぐらいだった。その年は基準を上回っている子が例年より多かったらしく、娘は残念ながら入れなかった」


魔力量が基準を上回っている子が少なければ、少し足りていなくても人数合わせ的な意味も込めて、入学させる年もあるという。ツイてなかった。


(二人の話っぷりからも、学院に入れるなら入りたい、という感じがするけど・・・)


「お父さん、リリア、今からでも学院できちんと学ばせたい、学びたい、という気持ちはありますか?」


父親とリリアは顔を見合わせる。


「俺はリリアが通いたい、というのなら行かせてやりたい」


「今からでも行けるならいってみたいな。中途半端より、きちんと身に付けたい」


「分かりました。それでは、学院の理事長先生にお話をしてみましょう。実際に発動までできていますし、学期の途中からでも大丈夫だと思います。まだ始まったばかりですしね」


「おお・・・ありがとう!」


「私が魔術師に・・・こんな、いいのかな・・・」


リリアは少し目を潤ませている。



「では、ご主人。そろそろ問題の嫌がらせ行為の話をしましょう。何かお手伝いできることがあるかもしれません。皆で知恵を出し合いましょう」


キースはにこやかだった顔を引き締め、父親を促す。


(場を仕切って話を進めるキース・・・リーダーっぽいぞ!可愛い!)


3人はこの場はキースに任せる事にして、リーダーっぽいキースを堪能する事にした。

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