第42話
【更新日時について】
書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。
通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。
ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)
キースは王都の東西南北を貫く大通りを、冒険者ギルドへ向かっていた。
大通りに面するだけあり、どの店も大きく立派な店がまえだ。
何とはなしに、店内に展示された品物に目をやりながら進む。
(あの髪留め、おばあ様に似合いそうだな・・・あれに魔法陣で障壁を付与して・・・)
そんなことを考えながら歩いていると、裏の細い通りの方から、一瞬何か聞こえたような気がした。
(人の叫び声?)
立ち止まって耳を澄ますが何も聞こえない。
(気のせい・・・ではないよな)
裏の通りへ向かいつつ< 探 査 >の魔法をかけ、曲がり角から先の様子を伺う。
裏通りから更に1本入った路地に、大きい、普通、小柄、という、人間と思われる反応が三つある。
路地の奥に小柄、その手前に大きい・普通が並んで立っている。
(小柄が追い詰められている?)
何か喋っているが良くは聞こえない。
< 聴 力 強 化 >の魔法を使い話を聞いてみる。
「ふぅ、やっと追いついたぜお嬢さん、手間をかけさせないでくれ」
「さ、おとなしく一緒に来てもらおうか、大丈夫、大人しくしていれば痛い目に遭うことはねぇよ」
(典型的な人拐いの発言だな・・・)
小柄な「お嬢さん」の声は聞こえない。
大人の男2人に拐われそうなこの状況だ、声が出せなくても仕方がない。
路地の曲がり角からそっとのぞき込む。
やはり手前に男が2人、奥に少女が1人、少女の身長はキースより少し高いが、年齢は同じぐらいだろうか。
買い物かごを抱え、こわばった顔で男達を睨みつけている。
(あの子を逃がす時間を稼がないと・・・よし)
キースが魔法を整え発動語を口に出した瞬間、微かに< 暗 闇 >という声が聞こえ、少女の体から魔力が放出された。
(魔法?あの子が?)
男たちの頭が真っ黒な球体で包まれた。魔力の暗闇で視界を塞ぐ< 暗 闇 >の魔法だ。
それとほぼ同時にキースの魔法も発動し、男達は地面に倒れ転がる。
男達はそれぞれ、右手首は左足首と、左手首は右足首を光る鎖で固定されている。
朝、ギルドの待合室でフランが使った< 縛 鎖 >の神聖魔法をイメージしてみた。
目が見えず手足も動かすことができない男たちは、完全にパニックになった。
「おぉ?!見えねぇ!なんだこれ!どうなってんだ!お、俺の手が動かねぇ!」
キースが角から路地に出て、少女に手招きをする。
少女はキースを見て一瞬体を硬くしたが、自分より小柄で可愛い姿を見て奥から出てくる。
人通りの少ない(あくまでも大通りと比べてであるが)裏通りを出て、そのまま反対側に渡る。
目の前に雑貨屋があった。
(この店の中にしばらく隠れよう)
ドアを開けて店の中に入る。
「はい、いらっしゃいませ・・・あらリリア!いらっしゃい」
店番をしていた女性が声をかけてくる。少女よりいくつか年上に見える。知り合いのようだ。
「あら?!あらあらあら!デートで買い物に来てくれたのかな?お姉さんサービスしちゃうよ!?」
「イリスさん・・・違うから・・・」
少女はキースをチラチラ見ながら、顔を赤くする。
「実はさっき・・・」
男達に拐われそうになったことを伝える。
「ええっ、何それ・・・もしかして前に言ってた話に関係あるやつ・・・?」
「多分・・・」
「じゃあ、しばらくここにいた方がいいよ。この辺りは人通りも多いから、一度見失えば探しようがないだろうし」
「うん、ありがとう」
「で、こちらの少年は・・・」
「通りかかって助けてくれたの」
「まだ名前も名乗っていませんでしたね。僕はキースといいます。18歳になります。この春魔術学院を卒業した魔術師です」
「18!?、しかも本物の魔術師!?」
2人の目が驚きに見開かれる。
(子供の魔術師の仮装かと思った・・・)
(本物のってなんだ・・・?もしかして)
引っかかるものを感じたキースは、そこを尋ねてみることにした。
「リリアさんも魔法を使えますよね?その力は本物なのでは?」
リリアは「あっ!」という顔をして下を向く。
(やはりこれは・・・)
「リリアさんは独学で魔法を学ばれたのですね?」
実際目の前で、< 暗 闇 >の魔法を使っていることもあり、ごまかしきれないと思ったのか、リリアは素直に頷いた。
「う、うん、魔力量も多くないし、まだまだ全然だけど・・・」
「そんなことはありませんよ!大人の男2人と向き合う追い詰められた状況で、きちんと成功させたではないですか!素晴らしいですよ!」
キースが本物の魔術師と知り、てっきり咎められると思っていたリリアは、力いっぱいの褒め言葉に目をぱちくりさせた後、小声で恥ずかしそうに「あ、ありがとう」とつぶやいた。
このように、「学院に入れるほどではないけど比較的魔力が多い人」というのはたまに存在する。
魔法は手順を踏んで成立しさえすれば発動する。
ただ学院に入りきっちり教えられるのと、最初だけ指導されあとは独学、というのでは、上達に雲泥の差が出る。
発動できるようになっているだけで大したものだ。
「魔法をもっと使えるようになりたいですか?」
「うーん、確かに色々できたらとは思うけど・・・別に特性が出ている訳じゃないし、実家の仕事も好きだし・・・」
「そうですか・・・もしちゃんと勉強したいということなら、魔術学院に入れるようにお手伝いできると思います。まぁ、その辺りはご両親ともよく相談する必要がありますが」
(恐らく訓練校に入る前は足りなかったが、成長して自分で練習しているうちに、だんだん増えてきたのだろうな)
基準値に足りていなければ不可、というのはこういうことも起こり得るが、どこかで線は引かなければならない。
このようなケースの方が稀なのだ、少ない方を基準には出来ない。
「うん、ありがとう。ちょっと考えてみる・・・」
「で、先程おっしゃっていた、前に言っていた話とはどんな話なのですか?」
2人は顔を見合わせる。
「これって言ってもいいの?あなたの家の話だけど・・・」
「もういいかな。魔法のことも知られちゃったし、助けてもらったし・・・」
少女が説明を始める。
聞いた話を一言で言うと「地上げ屋の嫌がらせ」だった。
彼女の家のお店と土地を欲がる商人がおり、売却の話を持ちかけてきたという。
しかし、売る気のない両親は話を断り続けていた。そうしたら、少し前から店の周辺でおかしなことが起こり始めた。
朝起きてみると、店の周囲にゴミが撒かれていたり、動物の死体が放置されている。買い出しに出た時に、目つきの悪い男達がずっとつけ回してくる。
客として店に来て、料理に文句をつけてきた事もあった。
しかし、ここまで直接的に接触してきたのは初めてだ。
「私もお店の仕事は好きだし、おじいちゃんとおばあちゃんが始めて50年近くやってきたお店だから、何とか守りたいのだけど・・・」
「分かりました。とりあえずもう少し様子を見てから、お店まで送りましょう」
(1の鍾には戻れないな・・・まぁ仕方がない)
「うん、ありがとう」
リリアは、話をして少し気が楽になったのか、小さく笑顔を見せた。




