第40話
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キースは魔術学院の建物を見上げる。
いつ見ても石造りの重厚な、立派な建物である。
(さすが国に一つしかないだけの事はあるよな)
門柱には2つの魔石が埋め込まれている。
「魔力登録済みの人用」と「来訪者用」である。
魔力登録済みの人用は、生徒・職員・その他(卒業生や個別に登録された人々)、来訪者用は魔力登録されていない人の為のものだ。
登録済みであれば鍵が開き中に入れるが、来訪者用であれば当然鍵は開かず、職員が対応する。
キースは門を開け石畳を歩きながら周囲を見渡す。
街中だが、敷地内は森のように鬱蒼と木が生い茂る。この石畳の道もまるで森の小径だ。
しかし、この石畳にも魔法陣が仕込んであり、発動する魔力や刃物に反応し、その周囲を結界で囲む仕様になっている。
魔術学院は、出入口、廊下、部屋、外周等に魔法陣が設置され、セキュリティレベルは王城次ぐレベルである。
希少な魔導具、魔術書はもちろんだが、何より将来の魔術師達の安全確保のためである。
魔術師は存在自体が希少なのだ。
建物に入るとすぐ脇に受付があり、その奥には50過ぎほどの女性が座っている。
「マールさん、こんにちは!キースです!」
「あらあらまぁまぁ!久しぶりね~元気だった?」
「はい、お陰様で!マールさんはいかがですか?」
「私はキースが卒業してしまって寂しくて元気ないわ・・・」
「・・・アハハ」
困ったように笑う。
年齢問わず、キースの女性人気は高い。
「で、今日はどうしたの?」
「はい、所属先が決まりましたので、理事長先生に報告をと思いまして。ご都合いかがでしょうか」
「あら!それはよかった!では、冒険者になれたのね。おばあ様が反対されていると聞いていたけど・・・」
「はい、そこは許可が出ましたので。おばあ様の知人のお弟子さんにあたる方達のパーティに、入れてもらえる事ができました」
「キースならどこにでも入りたい所に行けるとまで言われたのに、結局あなただけ所属が決まらなかったから・・・おばさん安心したわ」
「ご心配おかけしました」
「あっ、私と話していたのではしょうがないのよね。理事長先生は・・・特に予定は入っていないから、お部屋にいらっしゃると思うのだけど・・・ちょっと確認するわね」
マールは、メモに「キース来訪、面会希望」と書くと、物質転送の魔法陣に起き、魔力を流し転送する。
転送し終わり青い光が消えたと思ったら、即、魔法陣が起動した。もう送り返されてきたようだ。
送ったメモ紙に赤で「可」と大きく書かれている。
「どうやらOKみたいね。見てこの殴り書き、よほど急いで書かれたのね」
マールも苦笑いだ。
「ありがとうございました。では行ってきます」
理事長の部屋は教員棟の4階だ。
建物全体の中央に教員棟があり、それを挟んで北側が「貴族棟」、南側に「一般棟」がある。教員棟からはどちらにでも行けるが、一般棟と貴族棟の行き来はできない。
生徒の出入口は貴族棟は貴族街に、一般棟は一般区画に面している。貴族棟から一般区画、一般棟から貴族街という出入口もあるが、非常用であり通常時は鍵が閉まっている。
一般棟の4階から教員棟に入り、東側の一番奥にある、理事長室へ向かう。
扉の前で髪の毛を撫でつけ、ローブを軽くはたく。問題ないのを確認し、ノックをする。
「理事長先生、キースです」
「どうぞ」
「失礼いたします」
扉を開け中に入る。
目の前には濃い茶色の、文箱が置かれた大きな執務机があり、理事長はその向こう側の椅子に座っている。
「久しぶりねキース、変わりないかしら?」
椅子から降り、執務机を回り込みながら理事長が言う。
「はい、先生元気に過ごしております」
「そう、よかったわ。今日はどうしたのかしら?」
「はい、冒険者として活動できることになりまして、そのご報告にあがりました」
「まぁ!ではおばあ様の許可が出たのね!卒業式の時のあのご様子では、難しいかと思っていたけど・・・」
「はい、ちょっと強引でしたが・・・なんとかなりました」
この2日間の出来事を一から説明すると、理事長はさすがに呆れ顔になった。
「またずいぶん思い切ったわね・・・」
「やるだけやってみようと思いまして」
キースも苦笑いだ。
「これで失敗したらどうするつもりだったの?」
「時間はかかりますが、両親へ手紙を書いて了承を得ようと思っていました。おばあ様もそこをずっと懸念されてましたから・・・」
アリステアは両親不在時に何かあったらということを最重視していた。ライアルとマクリーンが許可を出せば認めないわけにはいかない。
(それは口実で、あの方は、あなたを遠くにやりたくなかっただけだと思うけど・・・)
理事長は心の中で呟く。
「そう・・・何にせよ、あなたが自分の進みたい道へ向かう事ができたなら、それに越したことはありません。おめでとう」
本当は理事長も、近衛騎士団か国務省管轄の組織に入ってもらいたかった。
冒険者を見下すつもりは無いが、その辺はやはり貴族である。そちらを重視するのは当然であろう。
しかし、この国では「本人がやりたくない仕事を無理にやらせるのは害悪である」という考えが、国の上から下まで浸透している。
アリステアの様に、孫可愛さの余りごねるのがおかしいのだ。
「もうパーティは組めたのかしら?」
「はい、おばあ様の知人のお弟子さんにあたる方達で・・・」
キースは、ディック経由で聞いた「冒険者としての活動を許可する条件」を説明する。
「なるほど・・・その方達はお幾つぐらいなの?」
「だいたい20代後半程です」
(あのアリステアさんが可愛い孫を託すぐらいなのだから、かなりの腕達者なのでしょうね・・・)
(でも、あの人にも面識があってディックも認める20代後半程の冒険者・・・そんな人達いたかしら?)
「それだけの方達なら、私も聞いた事があるかしら?お名前はなんて仰るの?」
「双剣使いの女戦士がアーティさん、双剣はなんとミスリル製です!海の神の神官で、フランシスさん、フランさんと呼んでいます。この方はなんと、海の神様の啓示を受けられているのです!盾役の大柄な戦士がクライブさんです。フランさんとクライブさんはご夫婦です」
「そ、そう・・・う~ん、私は聞いた事ない方達ね・・・」
「王都周辺より、地方に出ている事が多いというお話でしたので、そのせいでしょうか」
「そうかもしれないわね・・・でも、ディックが大丈夫だと言うのであれば問題ないでしょう」
「さらにパーティのリーダーを任されまして・・・」
「あら!それは良い事ね!年上の人達の後ろに着いていくだけではなく、自分から前に出て色々な事を経験してほしいわ」
「はい、皆さんもそうおっしゃっていました。父を目指し超えてほしいと」
「それはかなり高い壁ね・・・でも、それだけに乗り越え甲斐もあります。これは私も楽しみになってきました」
「はい、良い報告ができるように頑張ります!」
「この後はどうするつもりなの?」
「各地方を廻りながら依頼をこなしたり、遺跡を探索したりと、高度の柔軟性を維持して臨機応変に対応したいと思っています」
(なんかそれは凄くダメな気もするけど・・・何故かしら)
「そ、そう・・・分かりました。では最後になりますが、何をするのでも身体が資本です。健康でなければ何かを成し遂げるどころか、朝顔を洗う事すら大変になります。くれぐれも無理をしないこと。やる時はやる、休む時は休む、これを意識して行う事。いいですね?」
「はい、ありがとうございます!行ってまいります!」
キースが部屋を出て、扉が閉められた。
キースの気配が間違いなく遠ざかっていくのを感知すると、先程まではにこやかだった理事長の表情は、眉間にしわを寄せた訝しげなものに変わる。
(キースのパーティの3人・・・どうも引っかかるわね・・・アーティって言ったらあの人しかいないでしょ!海の神の啓示を受けた神官?やっぱりあの人でしょ!その夫の大柄な戦士?あの人じゃない!でも20代後半というのはどういう事なのかしら・・・ディックは承知しているみたいだし、確認するしかないわね)
理事長は、早めに時間を作ってディックのところに行く事に決めた。




