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第38話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

王城は王都の中の北西の角にある。その周辺は貴族の屋敷が立ち並ぶ「貴族街」と呼ばれる区域だ。


アリステアはその貴族街と一般市民の区画(と言っても貴族街のすぐ近くなのだから金持ちの一般市民だ)の境目の通りを歩いていた。


(確かこの角を右に曲がると・・・お、あれだ)


一般市民側の区画だが、明らかに周囲の家より大きな屋敷がある。目当てはこの家だった。

敷地を囲む外壁は白く高く、貴族の屋敷と遜色ない。正門、門柱も重厚な、立派な作りだ。



門柱には魔石が一つ埋め込まれてあり、アリステアはそれに触れ魔力を流す。


来訪者が魔石に触れ魔力を流すと、家の内部へ来訪を知らせる、という仕組みだ。


玄関の扉が開き女性が一人出てきて門へ近づいてくる。


「いらっしゃいませ、ここはウォレイン男爵の屋敷でございますが、当主にご用でしょうか?」


「あぁ、ご当主は、マスターはご在宅か?」


「マスター」という言葉に家政婦の目がスっと細くなる。


(見た目は30歳以下に見えますが、引退して30年以上経つご当主をマスターと呼ぶ・・・?何者だ?)


「家政婦殿が怪しむのも無理はない。ご当主にこれをお見せして判断を仰いでくれ」


国王から下賜された短剣を鞘ごと渡す。


家政婦は目を見張った。そこまで詳しくない自分でも、大変な品だということはわかる。


「かしこまりました。少々お待ちを」


家政婦は家の中に戻ったが、すぐに出てきた。


「お待たせいたしました、ご案内致します」


「ありがとう」


家政婦に案内され家の中を進む。廊下には一枚の絵が飾られているだけで、他には調度品などはない。シンプルで実用一辺倒という感じだ。


(あの人らしい)


思わず笑みがこぼれた。


家政婦が扉の前で止まり、ノックする。


「お客様をお連れいたしました」


「入ってくれ」


声を聞いただけでブルッと身体が震えた。懐かしい声だ。


家政婦が扉を開け脇に避けアリステアが部屋の中に入る。


男は窓の方を向き扉に背を向けて立っている。


(だいぶ細くなったな)


アリステアは目を細めて見つめる。


あの壁のようだった背中はすっかり小さくなった。


それはそうだろう、あの当時で50歳前後ということは、現在90も半ばだ。


杖も突かずに立っているだけで大したものだ。


アリステアは昔と変わらない感じで声をかけた。


「ご無沙汰マスター、元気?」


その声を受け、男の様子が変わる。


恐らく短剣の持ち主にしては声が若いし、何か根本的に違うということを感じたのであろう。


戸惑っている様子が手に取るようにわかる。


「いつまでそっち向いてるの?こっち向きなよ?」


男がゆっくり振り返る。


眉間にしわを寄せ、こちらの姿を上から下まで時間を掛けて眺め、やがて目が合う


体の幅は小さくはなったが、目力はまだ十分力強い。


その目は、見知らぬ姿になったアリステアの目をじっと見つめる。その奥底にある何かを見極めるかのようだ。


アリステアは気負うこともなく涼しい顔をしている。


男は暫く見つめていたが、やがて大きくため息をつく。



「今度は何を企んでやがるんだ、お前さんは・・・説明しろ!」


「この姿について何も聞かないの?」


「まぁ気にはなるが・・・魔導具だな?」


「そうなんだけどさ、もうちょっといい反応を期待してたんだけどな・・・」


「そんなもん知るか!久々に会ったと思ったら全くの別人じゃ、逆に反応できねえ!そんなに若くねえんだ!」


「じゃあとりあえず説明するね」


アリステアは今回の経緯を一から説明する。


・キースが魔術学院を首席で卒業し、冒険者になりたがった

・それが高じて家出をしてしまった

・魔導具に意識を移してパーティを組み、キャロル・ヒギンズと一緒に一人前にする事にした


「その魔導具を持って帰ってきた時の話は覚えてるぞ。半月ぐらい騒いでいたものな・・・まさかそんなお宝だったとはな・・・」


「本当驚いたよ・・・で、キースがいっちょ前になるまでは一緒にあちこち回ろうと思ってるからさ。何かあっても近くにいない可能性が高いから挨拶に来たんだ」


「なんだお前それ・・・縁起でもねぇなぁ・・・」


「だってマスターいくつ?95、6位でしょ?いつお迎え来てもおかしくないよ」


「まあそうだけどよ・・・でもよ、ありがとな」


ハインラインはヘヘッと寂しそうに笑う。


「もうみんな死んじまって、俺のことを気にかけるてくれる当時のメンバーは、お前さんぐらいだ」


「・・・」


現役時代はほぼソロ活動だったが、それでもやはり、同じ時期に活動していたしていた冒険者達のことは懐かしく思う。


「でね、これを預かって欲しくて持ってきたの」


右腰から鞘ごと外しテーブルの上に置く。一振りの短剣だ。短剣よりは長く、ショートソードよりは少し短い。年季は入っているが、皮製の鞘には油がなじみ磨かれツヤツヤだ。


ハインラインは暫く見つめていたが、何かに気づいたようにハッとした。


「おい、これ確か・・・」


「そう、ミスリルの短剣を下賜される前に使ってたやつ」


国王陛下に「どのような武器を使っているのか」と尋ねられ、答えた結果、ほぼ同じサイズの短剣が下賜品になったのだ。


黒鋼製で、『鋭刃化』と『硬化』の魔力付与がされている。


非力なアリステアの弱点を十分にカバーする、かなりの良品だ。


「私が次に戻ってくるまで保管しておいて」


「おいアーティ・・・」


「約束だよ。王都に戻ってきたら取りに来るから」


「ちっ・・・昔から言い出したらきかねぇ奴だ・・・約束はできねぇが、そう簡単にくたばるつもりもねぇ。預かろう」


「うん、よろしくね」


ハインラインはアリステアをじっと見つめる。色々言いたいこともあるのだろうが、中々言葉にならない様だ。



「アーティ、気をつけてな。こんなじじいより先に死ぬんじゃねえぞ」


「キースを一人前にするまでは死ねないよ。あの子は贔屓目抜きに天才だよ。歴史に残る人物になる」


(お前は既に歴史に残っているんだがな・・・)


「せっかく若い身体を手に入れたんだ。今度は足をなくしたりすんじゃねぇぞ」


「これ、体の大きな欠損ってどうなるのかな・・・?」


「余計なこと考えるな!バカヤロー!」


「いや、ちょっと思いついただけだから・・・そんなに血相変えなくても・・・」


「お前さんは危なっかしいんだよ!」


アリステアはハインラインに近づき、ぎゅっと抱きつく。


背の低かったアリステアは、ハインラインの胸ぐらいしかなかったが、今は頭一つ低いぐらいだ。


ハインラインはアリステアの頭に手をやり、ポンポンと軽く叩く。


「じゃ、ちょっと行ってくるね!」


「あぁ、気をつけてな」


「マスターもね!」


アリステアはハインラインを離し部屋を出た。


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