第37話
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「あとは今後の我々の方針なのだが、時にキース、懐具合はどうだ?」
キースのためならいくらでも出すのだが、成人した社会人としてそれはよくない。きちんと自分の分を賄ってもらう必要がある。
「あっ、お金は大丈夫です。というかかなり余裕がありまして・・・」
「ほう!」
(学院にいる時に渡していたお金を貯めていたのかな?)
学院で学んでいた時には、ある程度自由に使えるお金を渡していた。だが、卒業し、自宅に戻ってからは渡していない。お金が欲しいと言ってくることもなかった。
「実はですね・・・」
キースが荷物の中から紙を数枚取り出し、テーブルの上に広げる。
魔法陣だ。そのうちの一枚を起動させる。
魔法陣は青く光り、影のウサギが飛び跳ね始める。
「朝ギルドで勧誘用のブースを作って座っていたのはご存じだと思うのですが・・・」
「あぁ、私達も見たぞ!凄かったな!」
「ええ、あのようなものは初めて見ましたな」
「とても綺麗でいい曲でしたね。そのウサギも可愛いです」
「ありがとうございます。あれは、学生の頃から作っていた僕のオリジナル魔法陣なのですが、先生方や他の生徒に研究発表として見せているうちに、譲ってほしいという声があちこちからかかるようになりまして・・・」
学院の理事長、近衛騎士団長等高位の貴族達が買い求めていったという。
「価格はお気持ちで」と言っていたら、理事長が30万リアルを支払ったため、それが基準になったという。
(さすがには魔法陣一枚30万は高くないか・・・?)
その辺りは貴族のメンツや力関係やら、色々あるのだろう。
「あいつが30万出したのなら、それ以下はありえん!私も30万だ!」みたいな。
「ちなみに・・・どれだけ売れたの?」
フランが興味深そうに尋ねる。
「2年前ぐらいから希望者が出始めて、25枚ぐらいですね」
「750万・・・」
「私の子供の頃は、カゴとかザルを一個300リアルで売っていたのに・・・」
「手に入れた方が他の方に自慢して、というのが宣伝になった様で・・・」
「全く貴族というのは・・・」
皆呆れ顔だ。
「では、取り急ぎ路銀が尽きる心配はないのだな。そうなると行動はかなり自由がきくな・・・」
アーティは何やら考えている様だ。
「よし、リーダー、私達はどこに行こうか? 」
アーティはキースを見つめる。
「えっ、リーダーですか?僕が?」
さすがに戸惑っているようだ。
「そうだ、キース、君が私達のパーティのリーダーだ」
「ですが、僕冒険者になって2日目ですよ?歳も一番下だし・・・」
「リーダーを選ぶ時に決める要素は、経験や年齢ではないのだよ、なんだと思う?」
クライブが静かに尋ねる。
「年齢と経験以外・・・強さ、では、戦士と魔術師では比較できませんし、うーん・・・」
キースは腕を組み、目を閉じて考える。
(いつも何を聞いてもサッと答えるキースの悩む姿・・・これはレアだ!かわいい!)
「うーん・・・ちょっと分かりません・・・」
「それはね、『他のメンバーが納得したら』よ」
「えっ?、それだけですか?」
「そう、それだけ。でも重要なことよ」
「なんであいつがリーダーなんだという気持ちを持ってる人がいると、どこかでギクシャクしてくるものなの。些細なことで口論になったりね」
「特に、戦いの時に前に出て戦う役割の人は、『俺は一番前で命を張っている』という意識からも、パーティー内での発言力も大きくなりがち。だけど、それとリーダーに向いているかどうかは全く関係ないわ。リーダーと言うのは、性格を含めた個人の資質の問題だから」
「その時、その時、一瞬の状況を見て、どう立ち回れば最良の結果になるのか、またはそれに近い結果が出るのかを常に意識して考えることが出来る人。皆の意見を取りまとめ、調整し、最終決定を下してパーティやそれ以上の大きな集団を引っ張っていく、そういう人物がリーダーです」
「それができるのがライアルさん、キースの父上だな」
「お父さん・・・」
両親とは小さい頃は一緒にいることも比較的多かったように思う。
今思えばそういう依頼を中心に受けていたのだろう。
学院に入って家を出てからはほとんど顔を合わせていない。
自分が学院の寮に入ったことと同時に、国発注の依頼で遠征に出た結果、戻れない状況になって4年が経つ。
出発直前に王都で顔を合わせ、挨拶したのが最後だ。
この依頼は、北西のアーレルジ王国との国境付近に発見されたという、ダンジョンの帰属問題についての話し合いをする、使節団の護衛というものだった。
複数の冒険者のパーティが護衛として同行している。冒険者側の取りまとめ役がライアル達のパーティである。
国の使節団なのだから、国軍で良いのではないかという見方もあるが、国軍という正規兵だと何か間違いがあった時に「国同士の戦い」という状況になってしまう。
「国の使節団に付いてる冒険者なのだから一緒だろ」という意見もあるが、所属が正規・不正規というのはまた違うらしい。
「私達はキースに、そういう人物になってもらいたいのです。もしかしたら全く向いてないかもしれません。でも今の段階では向き不向きすらわからない状態です」
「ですので、まずはこのパーティであなたにリーダーになってもらい、足りないところは皆で補いながら見極めていきたいなと思います。ベテランの私達がいるからと後を付いて来るのではなく」
「分かりました。お引き受けします。どれだけ出来るのか分かりませんが・・・」
「最初から何でもできる人はいないわ。そんなに気負わなくても大丈夫」
「はい!よろしくお願いします!」
(気合いの入った真剣な顔・・・可愛い!)
「よし、では皆さん、これからの具体的な行動を決めたいと思いますが、何かご意見のある人はいますか?」
「私は神殿に少々用事があるので行っていきたいです」
フランが手を上げながら言う。
「あぁ、そうだな。早く行かないとまずいな」
アリステアがフランを見ながらニヤニヤしている。フランは無視だ。クライヴは遠くを見ている。
キースは、最初はそんな3人を見て不思議そうな顔をしていたが、すぐに気が付いて下を向き顔を赤くした。
(確かにちょっと法衣のサイズが色々合ってないよな・・・いや、神官様を、しかも既婚の女性をそういう目で見るのは・・・イカンイカン)
「あ、あぁ~分かりました。ではフランは神殿ですね。お二人はどうしますか?何かありますか?」
「私は久々に王都に来たから挨拶をしたい人がいる。その人のところ行ってみようと思う」
「分かりました。僕も学院の理事長先生に、所属先が決まった事をご報告に行こうと思います。進路のことで色々気を揉ませてしまいましたので・・・」
「では私はフランと一緒に行くことにしよう」
「皆それほど時間はかからないか?先程10の鐘が鳴ったから、12の鐘にギルドの待合室に再集合して、昼食という事でどうだろう?もし話が弾んで時間を過ぎそうなら、その時は無理に戻らなくてもいい」
「では、もし間に合わなかった人がいたら、伝言板に行き先を書いておきます」
「分かりました!」
お茶のセットを片付け、部屋を出る。
「マスター、部屋ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして・・・これからどうするんだ?」
「各自挨拶や用事をしに行ってきます。12の鐘に合わせてここに再度集合の予定です」
「そうか、3人は王都も久々だろうからな」
「よし、では一時解散です!皆さんまた後で!」
ディックが「おっ」という顔をする。
(キースがリーダーか・・・なるほどな)
エストリアの冒険者は後輩の育成をしなければならない。この支援制度も始まって40年を超えた。
今や当たり前過ぎて誰も疑問を持たない制度だが、これをゼロから生み出し定着させるのは本当に大変だっただろうなと思う。
(今度機会があったら本人に聞いてみるか・・・)
ディックはそう思いながら4人を見送った




