第34話
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(くそ!なんだってんだこりゃあ!)
クレールは心の中で悪態をつく。
(ガキ一人身ぐるみ剥ぐだけだってのに、なんでこんな大騒ぎになる!)
途中までは上手くいっていたのに、あの女が割り込んできておかしくなってしまった。
こちらは埃まみれの体である。基本的に一か所に長居をしたくないのだ。
(これは引くべきか・・・)
サームズの方をちらりと見る。サームズにも意図が通じたのか、小さく頷く。
(ヴェイグを見捨てることになるが、自分が捕まっちまったら元も子もねぇ)
心を決め、タイミングを伺う2人の前にフランが立つ。
「あなた方がソロの冒険者を仲間に引き入れ、金目のものを奪い放り出すという、人間として屑な追い剥ぎに等しい行為を繰り返しているのは、既に調べがついています」
「!?」
キースが驚いて2人を見る。
「いや、キース、それは違う!我々はそんなことはしていない!」
サームズが慌てて否定する。
「プラオダール連合からこちらに流れて来る途中にもやりましたね。保護した被害者から事情を聞いたところ、特徴があなた方と合致しています」
「そんなはずはねえ!」
クレールがムキになって反論する。
「おい、やめろ!」
サームズが気づき慌てて止めるが間に合わない。
「あいつは今頃川の底だ!」
「やはりそうでしたか・・・あなた方の身柄を拘束します」
「くそっ!逃げるぞ!」
2人は身を翻し、走り出そうとするが、出入口前にはクライブがいた。人が通れるほどの幅が無い。
「ふん、ここを出られると思っているのか・・・?」
2人が一瞬怯んだところに、フランの神聖魔法が発動する。
「海の神ウェイブルトよ!この者達の手足を縛り、正しき罰を!< 縛 鎖 >!」
手足に光の鎖が巻き付き2人は床に転がる。複数人を対象に、さらに手足同時に発動できる神官はそうはいない。
「ぬおっ!何だこいつは!くそっ!」
2人はのた打つことしかできない。釣り上げたばかりの魚の様だ。
クライブは、アリステアに投げられ、意識をなくして倒れているヴェイグを縛り上げる。
(よし、こんなものか)
アリステアがクライヴを見て頷き、耳を塞ぐ。
それを見たフランも同じように耳を塞ぎ、「早く耳を塞いで!」とキースに声をかける。
キースは何が何だか分からなかったが、とりあえず真似する。
クライヴは大きく息を吸い込み
「うるせぇぞお前らぁ!静かにしろっ!」
怒号とそこに込められた威圧で、建物の壁がビリビリ震え、待合室で掴み合っていた冒険者の動きが止まる。
(うるせえってお前らが原因だろうに・・・)
カウンターの内側で騒動を眺めていたディックは、冷静に突っ込んだ。
かつての仲間だ。ちゃんと耳は塞いでいる。
アリステアはキースの方に向き直り、1歩ずつゆっくり近寄っていく。
キースはそれに合わせて下がっていったが、やがて背中が壁に当たる。
「それではこれからよろしくな!キース!」
自分の正面にいる、大柄で勝ち気そうな女性が満面の笑みで握手を求めてくる。
その右には、首から海の神のシンボルを型どった首飾りを下げ、小柄だがメリハリのきいた体つきの女性が微笑を浮かべ、左側には自分より頭二つ分ぐらい大きな、まさに筋肉の壁といった大男がうんうんと頷いている。
三方向を押さえられ、後ろは壁。
どうにも逃げ場のない事を悟った少年は、差し出された女性の手を取り
「よろしくお願いします・・・」
と小声で言うのが精一杯だった。
(さて、まずはこの悪党3人組を片付けるか・・・)
「おい、誰か門の詰所に行って衛兵を呼んできてくれ。追い剥ぎ行為を繰り返している冒険者を捕まえた、と伝えろ」
「承知しました!」
若い男性職員が走って出ていく。
「よし、じゃあみんな、テーブルと椅子だった物を片付けるのを手伝え。バラして薪として使うから、裏の倉庫の前に積んでおいてくれ」
(ふん、片付け費用が節約できたな。さて次は・・・)
「で、どうします?キースにはどこまでネタばらしするのですか?」
ディックはアリステアに近づき囁いた。
「私達の正体は言えないしな・・・さてどうするか・・・」
「ちょっと考えがあるので任せてもらってもいいですか?」
「お?じゃあお願いしよう。よろしく頼む」
「キース、ちょっといいか?」
ディックが近づきながら声をかける。
「・・・はい。何でしょうか?」
まだ呆然とした顔をし、焦点がちゃんと合っていない。大立ち回りの衝撃が抜けきっていないようだ。
「昨日からの君のパーティ参加関係の話なのだが・・・」
キースがハッとした顔をする。
「予想しているかもしれんが、君のおばあ様から連絡を受け、新規登録の停止とパーティを組ませない様にして足止めしてほしい、という連絡を受けていた」
「やはりそうでしたか・・・メンバー募集の取り下げの対応が、随分強引だなとは思っていたのですが・・・」
「連絡が来たのが、君が新規登録を済ませた後だったのでね。何としても王都の外には出せなかった」
(家にいないのが何時にバレたのかは分からないけど、家から王都と連絡をつける事ができるのか・・・僕の知らない魔導具が家にあるのだな)
「では、僕がここにいるのは冒険者になりたくて家出してきた、という事もご存知ですね」
「あぁ、知っている」
「そうすると、僕の『新規登録とパーティ参加を速やかに済ませ王都を出る』という作戦は失敗ですね。これは家に帰らなければならないかな」
キースは残念そうに笑う。
「それなんだが・・・条件はあるが、それを守れば君はこのまま冒険者として活動する事ができる」
「!? 本当ですか?」
「登録は済んでしまっている、という事を伝えたら、おばあ様はこう言っていた」
『 ディックの目から見て、キースを任せる事ができるパーティがあって、その人達が進んで受け入れてくれるのであれば、冒険者として活動しても良い』
「で、この3人組だが、以前から君のことを知っているし、おばあ様とも面識がある。おばあ様の知人の、弟子筋にあたる冒険者だからな」
ディックは3人を見る。
「しばらく地方を回っていたのだが、先日戻ってきた。彼らとであれば活動を認める。君も家出状態のままでは落ち着かんだろうし、現に3人は君を歓迎している、どうだ」
「分かりました。若輩者ですが、こちらこそ是非お願いします!」
(僕は遂に冒険者に・・・)
キースの瞳はキラキラと輝く。
「確かに先程の感じだと、無理やりパーティに入れた様な感じになってしまうからな!マスターが承認して、君のおばあ様も納得されている方が、こちらとしてもありがたい」
アリステアも笑顔だ。
(さすがディック、上手くまとめてくれたな)
「そういえば、なぜ我らが君の事を知っていたのか、という事なのだが・・・」
「あ、はい。それは不思議に思っていました」
「正確には、我々が君を少し離れたところから見たことがあるということなんだ。確か学院に入る前の頃だな。カルージュの家に師匠がお邪魔していたところに、我らでお迎えに行った事があってな。その時に君の事を見かけ教えてもらったのだよ」
「あぁ、なるほど・・・」
それなら自分が知らないのも納得だ。
「では、改めてよろしくね、キース」
「はい、皆さん!よろしくお願いします!」
(おばあ様ありがとうございます・・・僕頑張ります!)
キースは目を潤ませ、頬をほんのりピンクに染める、気持ちの高ぶりが表れている。
3人はその様子を笑顔で眺めていた。
(うるうる瞳とピンクのもちもち頬っぺ、そこに寝癖まで・・・今日も100点!)
いつも通りの3人であった。
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