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第339話 ー エピローグ ー

【更新について】


タイトルにもありますように、本編についての定期更新は今回が最終回となります。


どうぞよろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


譲位の儀や、イングリットへの依代の魔導具のプレゼント、アルトゥールからの労い等、予定されていた事は、少々の予定外もありましたが全て終えました。最後にキースが心からの労いを送り、イングリットの気持ちの上でも無事に整理がつきました。


□ □ □


「それにしても、本当に凄い所ですねキースさん!まさにお話の通りでした!」


「そうでしょう?ほんと、あの時下手こいていたら、北国境のダンジョンの周りがこんな風になっていたかもと思うと、ゾッとするよ……お、あのひび割れを避けるから、手摺りに掴まって」


「はいっ!」


キースは馬車の手網を取りながら、隣に座る妻に促す。イーリス(イングリット)は、キースの腰に両腕を回してしがみついた。


「……手摺りに掴まって、と言ったのだけど」


手綱を操り馬車の向きを元に戻しつつ、隣に座る少女にジロリと視線を送る。


「そんな事言わずに!手摺りよりこちらの方が安全なのですから」


「やれやれ……」


そう口にしつつも、顔は笑っている。愛する妻に頼られて悪い気はしないのだ。


現在、キースの操る馬車は、街道に出るべく荒野の中を突っ走っている。360度全方向、地面以外に何も無い。これが中心から外縁まで5kmに渡り続いている。


そう、彼らは、セクレタリアス王国王都跡である、クレーターを見に来ていたのだ。


セクレタリアス王国の王都と全ての街は、石力機構の不具合による爆発で吹き飛び、直径10kmにも及ぶ巨大なクレーターとなった、と目されている。


さらに、これも未確定だが、今だに草木一本生えず、虫一匹すら寄りつかないのもそれが影響していると言われ、生命と呼べるものが全く無い荒野が見渡す限り、ただひたすらに広がっている。


この、余りにも非現実的な景色を目の当たりにすれば、イーリスが最初の目的地として希望した事にも納得である。


「本当に、何回凄いと言った事か。語彙力も一緒に消し飛んでしまったかの様です……キースさん、一緒に来てくれてありがとうございました」


「僕もこの間の対応で来ただけで、じっくり見たのは初めてだったからね。30年越しの夢がやっと叶ったよ」


かつて、北西国境のダンジョンを確保した後、母であるマクリーンに『この後はどこか行きたい所はあるのか?』と尋ねられたことがある。その時にキースは『セクレタリアス王国の、王都跡のクレーターを見に行きたい』と返していたのだ。


今、キース達が目指しているのは、クレーターの最最寄りで外縁から北東に30km、南西街道沿いにある『マントゥーラ』の街だ。街道からクレーターへは分岐した道が引かれており、そのまま進んで行けば、自然とクレーターに到着できる様になっている。


地形としては特殊だが、はっきり言ってここには何も無い。わざわざ見に行く物好きなどほぼいないのだが、国の研究チームなどが訪れる事もある為、主要街道ほどではないが、道が整えられていた。


「また『凄い』ばかりですけど、昨日の夜の星空も凄かったです。色も大きさも色々で、空から星が溢れて落ちてきそうでした」


「ね。この空には一体どれだけの星があるのだろう。本当に不思議」


キース達は一昨日の昼頃にクレーターの中心に到着し、周辺を散策した後そのまま野営をしたのだ。


夕食を済ませた後、敷物を敷いて照明の魔導具を全て消して空を見上げた。明かりの全く無い漆黒の闇の中で広がった夜空には、大きさ、色、様々に輝く星が全方位に広がり、その余りの迫力に圧倒され皆が時間を忘れ見入った。


お互いに興奮も冷めぬままお喋りをしていると、クレーターから街道へと続く道を走り抜け、南西街道に入る。


今日はこのまま『マントゥーラ』の街に入り 、明日からは東へ進路をとり、エストリア王国最南端の街『ソランタス』に向かう。


キースの後輩であり、『ナインティズ』に席を占めるハリーとミューズの夫婦が住む街だ。ハリーが街の町長にあたる代官、ミューズが秘書官である。ミューズは『地形変化』の魔法の達人でもあるので、たまにそちらでの出番もある。


『ソランタス』の南には、都市国家の連合体だった旧プラオダール連合に所属していた都市もあるが、そこは『大連合に参加した自治都市』という体である為、正式なエストリアの領土、という点では『ソランタス』が最南端だ。


「2人とも、この姿を見たらびっくりするでしょうね」


「ふふ、そうだろうね。お互いに今や完全に別人だから」


イングリットは、先日同様に銀髪ツインテールの魔術師の姿なのは同様だ。そして、この旅からキースも依代の魔導具を使用している。


イングリットが20歳前後なのに、キースがそのままでは完全に親子であるし、キースの小柄で金髪、緑の瞳の魔術師姿という外見は、国内に完全に浸透している為、そのまま出歩いては大騒ぎになってしまうのだ。


その為、瞳の色と髪型はそのままに、髪色を黒、身長をイングリットより頭一つ程高くした。これで完全に別人であるし、お互いに目線が逆になった為、非常に新鮮でもあった。


「お、街の城壁が見えてきたね。イーリス、皆に声掛けて」


「はい」


御者台の中央にある『通話の魔導具』の呼び出しボタンを押し喋り出す。


「皆さん、間もなく街に着きます。準備をお願いします」


「分かった。ありがとうイーリス」


魔導具から聞こえてきた声はアリステアのものだ。今回の旅に同行しているのは、キース以外にはアリステア、フラン、クライブ、シリルである。


この同行者を決めるのも揉めに揉めた。誰もが『記念すべきイングリット最初の旅』に一緒に行きたがったのだ。皆の主張を整理すると以下となる。


□ □ □


・キース

この為に依代の魔導具の再現に取りくんできた。そもそも、妻のデビュー戦に夫が一緒に行かないなんて有り得ない。


・アリステア、フラン、クライブ、シリル

キースが行くのは当然。ならば、そのパーティメンバーが行かないでどうする。


※シリルはライアル引退後キースのパーティで活動していた為、こちらの枠である。


・ライアルとマクリーン

両親として娘をフォローする義務がある。私達には新人の指導実績もあるし、何事も最初が肝心。ここは私たちに任せてもらいたい。


・デヘント達

「……」

(なんとまあ、これが国内最高峰の冒険者一族とその仲間達の姿とは……やれやれだぜ)


□ □ □


結果的に、人数、主張内容、どちらも少し弱いライアルとマクリー折れ、キースとアリステア達が一緒に行く事となった。一緒に行けないのは残念だったろうが、ライアルとマクリーンは笑顔で娘の出発を見送った。


『マントゥーラ』の街は南西街道沿いにあるが、『ソランタス』に行く為には南街道に入らなければならない。その為、南西街道と南街道を繋ぐ道に入り、1000km程東へ東へと進む必要がある。


だが、どんなに距離が長くとも問題は無い。


馬車旅の最大の敵である揺れは『反発の魔法陣』の効果でそもそも発生しておらず、大人6人と馬車全体と荷台部分の重量は、『軽量化の魔法陣』で極限まで削ってある。座席もふんわりと座り心地良く、背もたれも各自の好みの角度に調整できる仕様だ。


さらに、馬達は<身体強化>の神聖魔法の効果により、朝から夕方まで、疲れを知らずに走り続ける事ができる。


しかも、以前なら多くの人が行き交った各街道も、今やほとんど人影は無い為、周囲を気にせず速度を出す事ができる。


では、世の中の人々はどうやって移動しているのか?そう、街から街へは転移の魔法陣で移動しているのである。今や、馬車を用いて長距離旅をするなど、時間と金に余裕のある金持ちがする贅沢事なのであった。現代で例えれば、豪華なクルーズ船での船旅の様な位置づけと言えるだろう。


そうしてほぼ無人の道を走り抜け、キース達一行は南街道に入った。南街道は、王都エストリオから海に沿ってほぼ真っ直ぐに延びている。


以前は、アリステアとフランが育った『バーソルト』の街の手前に山脈がある為、それを内陸側に迂回していたが、『地形変化』の魔法で海底を盛り上げて露出させ、そこに道を作った。それにより、山脈を大回りする必要が無くなり、真っ直ぐ南へと進める様になった。


南街道に入ったところで一度馬車を止め、街道の脇に馬車を避けると、キースとイーリスが御者台から降り海の方へと歩み寄る。アリステア達も後に続く。


この辺りは海面から高くなっており、断崖絶壁が数十kmに渡って続いている、有名な絶景ポイントだ。


遙か果てまで続く海には午後の陽光が降り注ぎ、崖の上から見ていると、まるで輝かしい光の畑の様だ。


「うん、昨日の星の輝きとはまた違って、これもまた凄いね」


「はい、とても眩しいですけど……それでもずっと見ていたくなりますね……」


イーリスは、この光景に目が離せず立ち尽くしていた。彼女の青石色の瞳にも海の輝きが映り込んでいる。


眼下では、海鳥たちがお互いを呼び合いながら海上を舞い、その鳴き声が風に乗って断崖にぶつかり、辺りに響いている。


「この国には、まだまだ僕達が見た事の無い景色や未知の生き物、知らない事象がたくさんある。僕はそれを自分の目で見て、肌で感じたくて冒険者になった」


「はい」


「もちろん、魔法に関する事も含まれるよ?未知の魔法陣や魔導具とか、今なら石力機構もだね。あれの研究はまだこれからだから」


「はい」


「僕が本当に満足するまで、探索や研究をやめるつもりは無いのだけど、それでもずっと一緒に来てくれる?」


「当たり前でしょう!今更何を言っているのですか!それに、貴方が簡単に満足しない事なんて、30年前のあの日、私の申し出を受けてくれた時から解っています!」


繋いでいた左手に右手を被せ、両手でキースの手を握り込む。笑顔だが目尻が少し光っている。


「ふふ、ありがとう。何か、この海を見ていたら改めて伝えたくなってね。では、これからもよろしく、イーリス!」


「はいっ!こちらこそ!どこまでも、いつまでも、共に参りましょう!」


笑顔で見つめ合った2人は、肩を抱き合い顔を寄せ合った。


「おいおい、私達もいるのだからな?あんまり2人だけの世界に入らないでくれよ?」


「いえいえ、もちろんアーティもですよ。フラン、クライブ、シリルもよろしく!」


「ええ、任せてちょうだい」


「魔術師には前に立つ人間が必要だからな」


「わたしもまだまだ周り足りないから。他の国にも行きたいし」


ライアルとマクリーン、マルシェやレーニアも旅に出る順番を待っている為、次回以降はメンバーを入れ替えて出発する予定だ。


そう、彼らとの旅は、これからもずっと続いてゆく。


アリステアは孫夫婦と仲間達を眺め、満面の笑みを浮かべた。


□ □ □


孤児院に引き取られた小さくて痩せっぽちの少女は、歴史上ただ一人の、特別な冒険者となった。


同じく孤児院に流れ着いた引っ込み思案な少女は、神の声を聞き、愛され、『海の神の娘』と呼ばれた。


若き戦士は、そんな神の娘を愛し守る事こそ我が使命とし、生涯をその任に費やした。


王女として生まれた女の子は、血縁には恵まれなかったが、夫を得ると同時に、彼女の事を心の底から愛してくれる家族を手に入れた。


幼少の頃から、魔術師として比類なき才能を備えていた少年は、『万人の才』と称えられた。そして、その力を遺憾無く発揮し、勇往邁進の果てに新たな歴史を作り出した。


だが、彼にとってそれはまだ道半ばである。


これまでの成果に満足する事無く、これからも前に進み続ける。


愛する妻を始めとする家族と、仲間達と共に。


□ □ □


本編はこれにて終了となります。


3年弱と長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!


近いうちに後書き的なものを更新する予定ですので、どうかそちらもよろしくお願いいたします。

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