第33話
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3人とディックは覗いていた扉を閉め、顔を突き合わせる。
「あれは・・・イカンだろう」
アリステアが物騒に笑う。
「許されませんね。罰が必要です」
フランは満面の笑みだ。怒っている時の表情である。
「色々切り取って魚の餌にしましょう」
クライブの右目の上辺りの血管がピクピクしている。
(おお、怖い怖い。キースが絡んだら何でもありっぽいからな)
「で、どのタイミングで接触します?」
内心を表に出さずディックが尋ねる。
「魔術師が他の2人を連れて戻ってきたらだな」
「余罪もありそうでしたし、3人まとめてふん縛って衛兵に引き渡しですな」
「承知しました。一人の名前が判明しましたので、ちょっと登録内容を確認してきます」
冒険者証には小さい魔石が埋め込まれており、最初にそこに自分の魔力を込め紐付けされる。依頼の受注・達成の報告、国や街への出入りの際は、その込められた魔力により全ての履歴が残る仕組みだ。
ディックが戻ってきた。
「あの魔術師が王都に入ったのは4日前です。おそらく他の2人も一緒でしょう。出身地はプラオダール連合に所属している都市、ヴァランガでした」
プラオダール連合は、エストリア王国の南に位置する都市国家の連合群だ。
「この国の人間では無かったか」
「悪さをしながら流れてきたのでしょうか」
「確かに、一箇所に定住するより足がつかなそうではありますな・・・まぁ、いずれにしても碌でもありません」
「「「キースを気持ち悪い目で見る奴は◯刑!キースを気持ち悪い目で見る奴は◯刑!」」」
3人が右手を振りかざしながら声を揃える。
(若返るとはこういう事なのだろうか・・・このままでも良い気がしてきた・・・)
ディックは遠くを見やりながら、ちゃんと衛兵に引き渡せるか心配した。
この勢いでは、あの3人の今夜の寝床は牢屋では無く、◯体安置所になるかもしれないのだから。
3人は建物の裏口から外へ出た。ギルドの向かいにある定食屋でお茶を注文し、テラス席に座る。ギルドの待合室では目立ち過ぎるのだ。
「確かあの魔術師とスカウト風の男、大柄な戦士だったな?」
「はい、そうです。奴らがギルドに入ったら続いて入り、キースを誘っているところに割り込む、という事でよろしいですかな?」
「ああ、そうだ。それにしてもキースを食い物にしようとは・・・身の程知らずにも程がある」
「目にもの見せてやりましょう」
ウフフとフランが笑う。周囲の空気が少し冷えた感じがする。
(一番容赦しなさそうなのがフランなんだよなぁ・・・)
そんな事を考えながらお茶を啜っていると、魔術師を先頭に3人組がやってきてギルド内に入っていく。
「よし、それじゃ行ってみるか」
「「はい!」」
「お前さんがキースだな?俺はクレールってんだ。よろしくな!」
「お、俺はヴェイグ」
スカウト風の男と大柄の戦士が挨拶をする。
「はい、キースといいます。若輩者ですがよろしくお願いします!」
(とりあえずここを早く出たい。ここは人目が多すぎるからな)
サームズは提案する。
「とりあえず今日は顔合わせという事にしようと思う。報酬は少なくても良いから、何か適当な依頼を受けて連携や動きを確認していこう。キースも集団戦には不慣れだしな。皆もそれでいいか?」
「あぁ、問題ないぜ!」
「わ、わかった」
(よし、いくぞ)
アリステアが他の2人に目線を送る。2人は頷き返す。
「おおっ!?キースじゃないか!久しぶりだな!おばあ様は、アリステアさんはお元気か?」
(!?)
キースは声のした方を見るが、そこには赤毛で背の高い見覚えのない女性がいる。
(誰だ?僕を見ておばあ様の名前が出るという事は、会った事のある人なのかもしれないけど・・・)
「大きくなったな・・・学院は卒業したのだな?冒険者になったのか?」
「あ、はい・・・登録したばかりなのですが・・・」
(やはりおばあ様の知人か!まずいな・・・)
キースは焦る。おばあ様のところに話が伝わってしまうのは面倒だ。
「やはりそうか!どこかのパーティに参加しているのか?君ほどの魔術師だ、下手なメンバーではおばあ様も許さんだろうからな!よし、私達と行くか!それならアリステアさんも安心だろう!」
回りの冒険者が聞き耳を立てているのを承知で「アリステアおばあ様」を強調しつつ、3人組とのやり取りに強引に割って入る。
(アリステアおばあ様って「あのアリステア」か?その孫?マジかよ・・・)
エストリアの冒険者で「国王に認定された歴史上唯一の白銀級冒険者アリステア」を知らない者はいない。誰もが新人の頃にその恩恵に預かっているのだ。
しかし、他国出身の3人組はそんな事は知らない。
「おいおい、姉さん。キースは俺達の仲間になったんだ。ちょっと行儀が悪いんじゃねぇか?」
「そうだ、こちらが先約だ。遠慮していただきたい」
クレールとサームズが主張してくる。まぁ最もである。
しかし、初めからそんな主張を聞くつもりは無いのだ。先約だろうがなんだろうが知ったことではない。
わざとらしく、上から下まで値踏みする様に2人を眺める。
「・・・ふん。お前さん達では彼には釣り合わん。全くの力不足だ。帰れ帰れ。帰って酒でも飲んで寝てろ」
手をひらひらさせながら鼻で笑う。
「なんだと・・・こっちが大人しくしていれば調子に乗りやがって!」
「エストリアの冒険者は随分とタチが悪いのだな!痛い目に合わないとわからん様だ!」
2人が怒り出す。獲物を逃がす訳にはいかないのだ。
「なんだ、弱っちい犬コロがキャンキャン吠えているな。文句があるなら冒険者らしくかかって来い!」
アーティが「ほれほれ」と手招きをしながらさらに煽る。
(さすがに挑発が上手いな・・・)
ディックは妙なところで感心する。
「ヴェイグ!この女とっ捕まえろ!礼儀ってもんを教えてやる!」
「おおっ!」
ヴェイグが掴みかかってくるが、ここはギルドの待合室だ。テーブルや椅子、他の冒険者もいる。そんな中では、向かってくるにしても勢いが足りない。
アリステアは余裕を持ってヴェイグを避け、足をかけて転ばせる。ヴェイグは後ろのテーブルに頭から盛大に突っ込んだ。
そのテーブルでは、他の冒険者達が、昨日の依頼報酬を山分けしているところだった。そこに大柄なヴェイグが突っ込んだ為、テーブルは潰れ金貨・銀貨が床に散乱する。
落ちた硬貨を他の冒険者達が拾い出すと、山分け中だった冒険者達が怒鳴りつける。
「おい!俺達の金だ!触るんじゃねぇ!」
「あぁ?!落ちたから拾ってやってるんだろうが!泥棒呼ばわりする気か!」
「そんな事誰も頼んじゃいねぇだろ!余計な事すんな!」
直接関係ないところでも掴み合いが始まる。
立ち上がったヴェイグは、再度アリステアに向かってくる。あれだけ派手に突っ込んだにしては、勢いは落ちていない。かなり丈夫な様だ。
(ふん・・・頭は弱そうだがその分タフさはあるか・・・ではもう一丁いくか)
殴りかかってきたヴェイグの拳を顔を横に倒すだけで避け、右腕を左手で掴むと同時に右手で胸元を掴む。
懐に入り反転、相手の勢いを利用して背中にヴェイグの身体を乗せ、そのまま一気に投げ飛ばす。
ヴェイグの下敷きになったテーブルと椅子がさらに壊れ、こちらでも冒険者同士が揉め始め、混乱はさらに加速する。
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