第330話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
何とか無事に帰って来たキース。なぜ2ヶ月半も戻って来れなかったのかを説明しました。転移先はセクレタリアス王国の前王朝である、ウィルデンシュタイン朝の終焉の地であり、そこには屋敷用の石力機構がありました。
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キースの帰還から数日が経ったある日の、屋敷の地下にある研究室。
この日の執務を終え資料を取りにきたキースは、エレジーアとサンフォードにお茶に誘われた。
「それにしても驚きだねぇ。まさか『石力機構』がそのまま遺っていたなんて」
「はい、しかも小型なので、真似して屋敷で試すにはちょうど良いです。設計図と資料もありましたし」
「石力機構には守秘義務もあったが、サイード王とダニエルソン王は当事者だ。何を残そうが関係無いものな」
「元々の発案者とスポンサーですものね。誰に遠慮する必要もありません。しかし、凄いお話ですよね!『泣く泣く追放した前王朝の王族の生活を、秘密裏に現王朝の王が支援し助け続ける』……まさに、代々王になった者だけが知り得る機密事項、という気がします」
キースは熱々のお茶を一口啜ると、一つ息を吐きながらカップをテーブルに戻す。
最近のマイブームは、東方から輸入されている緑の茶葉を使って淹れるお茶だ。茶葉を発酵させない為、鮮やかな緑色のお茶が出る。渋味の中にもほんのり甘さを感じさせるその味わいは、普段飲んでいるお茶とは全くの別物だ。
王城の茶師や厨房の菓子職人達は、皆こぞってこのお茶に合うお茶請けの開発に勤しんでいる。
「『守護者』を付けて世話をさせていたという事は、王国が続いている間は、その引き継ぎをきちんと守り様子を見に行っていた、という事だな」
「『守護者』自体は王国末期に確立された物という事ですものね」
「それもお前さんの『依代の魔導具』が基礎になっていたとはねぇ。ふん、気に入らないけど大したものだよ」
「あ、ありがとうございます?」
(素直じゃないけどちゃんと言葉にするだけマシかな?)
再度お茶のカップに手を伸ばしながら、キースは心の内だけでニヤつく。
『依代の魔導具』の研究は、サンフォード→エミーリア→ヌレイエフと引き継がれ、ヌレイエフの弟子ミエスクが最終形を作り上げるに至った。
『守護者』についても、ダニエルソン王の書斎に遺されていた本の中に、その成り立ちなどを詳しく記した本があった。それにより、『守護者』を生み出した魔導具技師は、エミーリアの別の弟子から繋がっている事が判明したのだ。
『依代の魔導具』も『守護者』も、切っ掛けはサンフォードが『依代の魔導具』を作った事だ。弟子には厳しいエレジーアも、さすがにこれには褒めざるを得ない。
その『守護者』は遺跡に配置される事が多かったが、その遺跡というものも中々に謎な存在だった。
王国中期に生きたエレジーアとサンフォードがその存在を知らない事から、サンフォードが亡くなってから作られたものである事だけは、はっきりしていた。
一口に『遺跡』と呼んではいたが、地上数回建てで塔の様に登っていく、地下に数層広がり降りてゆく、城や大きな屋敷の中を探索するなど様々なタイプがあり、それに合わせて施設の大きさもバラバラだ。
作られ始めた時期以外、色々と謎の多い存在だったが、その中で共通している事といえば、近くにクレーター、即ち、セクレタリアス王国の街があった事だ。
誰が何の為に、金と手間を掛け街の近くにこんな施設を作ったのか。何故、その中にわざわざ罠を作りお宝を隠し『守護者』を配置したのか、その辺りについては不明のままだった。
だが、全ての疑問点は、10数年前に発見された、ある一冊の本によって解き明かされた。
その本とは、かつてアリステアが未踏破の遺跡の最深部で見つけ、それを同行した魔術師、クエイドが報酬として受け取り、そのクエイドの息子がキースの募集に応えて譲った、あの本の事だ。
「それにしても、ゴールした時の景品にタネ明かしが書いてあるとはな」
「でも当時の人たちにしてみれば、こんな内容は一般常識ですよね。なんでわざわざ書いたんでしょう?まあ、そのお陰で僕達は理由が知れて助かりましたけど」
その本の前書きには以下の文章が書かれていた。
□ □ □
この本は、エクストリームダンジョン( 以下EXD )を、最初に踏破した方への景品とする為に書かれたものです。
ご存知の通り、EXDは今や大流行の娯楽として国中に広まりました。イルゼンの街としても、そのブームに乗り遅れてはならじと取り組み、今般、無事開場に至りました。
EXDとしては後発という事もあり、かなり高めの難易度設定、そして、EXD初の試みである『複数経路からの複数パーティ同時進行』によるスリリングな展開、これらはいかがでしたでしょうか?お楽しみいただけましたか?
一定期間毎に新たな仕組みを取り入れ、ご利用の皆様を飽きさせない、刺激ある施設運営を行って参りますので、どうかこれからもご贔屓ください。
なお、この本は、当代一の魔術師、魔導具技師と名高い、ミエスク師に執筆していただきました。
かなり難解な内容ではありますが、師曰く『このダンジョンをクリアできる程の人物であれば、十分に活用する事ができる』との事。ぜひ、あなたの知識の源としてお役立てください。
イルゼン代官 ミーシャ・クラランス
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「まさか、あれらの遺跡が命懸けの娯楽だったとはねぇ……」
「ええ、冒険者達は最初に走破した事の栄誉と、道中や最後に設置された魅力的なお宝を目指して。それ以外の人々はその様子を『受像の魔導具』で観戦する。恐らく、誰が最初に最深部に辿り着けるか、という賭けも行われていたでしょうね」
「対外的な敵もいなくなり国も裕福とくれば、皆の意識が享楽的な方向に向いてもおかしくないだろうな。遠い異国の、違う時代の話だが、奴隷階級の者に武器を持たせ殺し合いをさせ、その観戦を国民の娯楽としていた国もあったそうだからな」
「クエイドさんは、おばあ様との仕事から戻って以降、二度と遺跡に行かなかったそうです。もしかしたら、これを読んで嫌気がさしてしまったのかもしれませんね」
「『俺達は遊びの駒じゃねぇぞ』みたいにかい?」
「はい」
「……まあ、その辺は人によって思うところは色々であろうが」
「既に誰も生きていないからねぇ」
「そうなんですよね。何百年も前の話なんです。クエイドさんは真面目な方だったのでしょう。僕なんかは何でも興味の赴くままですからね。全然気になりません……あ、そろそろ戻らないと」
「……イーリーはまだ落ち着かないのかい?」
「そうですね、まだ多少は……ですが、僕が勝手に気を回しているだけで、そこまで酷くは無いのです」
「そうかい……なら良いんだが」
「ではまた!お邪魔しました!」
「ああ、お疲れ様」
キースが転移で帰ると、残った2人はどちらからともなく溜息を吐いた。
2ヶ月半の留守から戻ったキースは、公私共に外出を減らし、できるだけイングリットの傍から離れない様に務めていた。
本人は何も言わないし、気が付いていないのかもしれないが、キースが外から帰ってくると明らかにほっとした顔を見せるのだ。その行き先が拠点の屋敷であってもだ。
明らかに、キースが返ってこなかった事の影響である。不可視の棘が心に刺さり、今もその痛みに苛まれているのだ。
「『譲位の儀』も間もなくだ。表舞台から退けば一緒にいる時間も増えるし、これまでとは全く違う新たな生活が始まる」
「はい。そうなれば、間違いなく彼女の心の傷は癒えるでしょう。あと数日の辛抱です」
そう言いながら、サンフォードはお茶のセットをワゴンの上に片付け始めた。
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イングリットの心の問題はあったが、王配であるキースが無事に戻った事で、『譲位の儀』は予定通り開催される。
女王とその補佐として最後の数日を無事に務め、イングリットとキースは、その立場に於ける最後の儀式に臨む。
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