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第329話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


『譲位の儀』まで後半月というところで、連絡すら無かったキースが帰って来ました。泣きじゃくるイングリットに抱き締められ、文字通り締まりそうな事にw 身内や関係者達にどういった事だったのか説明します。


□ □ □


【キースの話】


えー、それでは始めますね。縦穴を降りて、底に物質転送の魔法陣を広げたところからです。


ちょうど壁の方を向いていて、魔法陣に背を向けていた時に、魔法陣の起動を感じました。


慌てて振り返ると、外殻の壁が倒れかかってきていたんです。皆さんもジェラールから聞いていると思いますが、ダンジョンが揺れた事で、斜めに傾いた状態で転送された為ですね。


これには流石に慌てました。


後で振り返れば<念動力>の魔法でも使えば良かったのでしょうが、あの時はそれすら思い付きませんでした。


よく憶えていないのですが、身体を動かした時、紙が何かに擦れる様な、「ガサッ」っという音がしたんです。


おばあ様達は憶えていると思いますが、探索中に国王の私室で、隠されていた転移の魔法陣を見つけましたよね?そうです、書き写して後回しにしたやつです。


その書き写した紙が、ローブの隠しに入ったままになっていたんです。それに気が付いた僕は、取り出しもせずにローブごと握って魔法陣を起動しました。


どこに転移するか分かりませんでしたけど、潰されるよりはマシかなと思って。


転移した場所は小部屋でした。足下に転移の魔法陣があるだけで、他には何もありません。王城にもありますが、転移をする為だけの部屋、というやつですね。


目の前にある扉を開けると、隣は普通の部屋でした。いわゆる書斎です。


家具類も、どれもとても立派な誂えで、デザイン的には男性用。物音一つしない、とても静かな部屋でした。


窓があったので、外を見ようと近づいた時の事です。


視界の隅で何かが動いたのです。慌ててそちらを見ると、自動人形、いわゆる『守護者(ガーディアン)』が立ち上がるところでした。


僕が室内に入った事を感知して起動したのでしょう。そちらに向き直り、いつでも魔法を発動できる様身構えました。


その『守護者』は遺跡にいる大きな『守護者』とは違い、人型で僕よりも頭一つ分小さい姿をしていました。可愛さすら感じる程です。様子を窺っていると、こちらをじっと見つめた後、その場に右膝をついて跪きました。


「確認しました。お帰りなさいませご主人様」


小さな『守護者』は確かにそう言いました。勿論面識はありませんよ?困惑しましたが、少し考えて一つ思いつきました。


この『守護者』は『部屋に転移して入って来た人=主人』と認識する様に設定されていたのではないでしょうか?そうすれば、王が交代しても主人となれますから。


僕は彼にいくつか質問をしました。現在地、この部屋の住人、他に誰がいるのか、などです。その答えは衝撃的でした。


「どこかの島だとは教えられましたが、詳しい場所は分かりません。私はこの屋敷の敷地から出た事はありませんので」


「この部屋の、屋敷の現在の主は、ダニエルソン12世様です。私は主の一族方にお仕えする為に作られました」


「私は先程休眠状態から再起動しました。どなたがいらっしゃるのかはこれから確認しますが、屋敷内には、ご主人様以外の魔力反応がありません。……皆様は屋外にいらっしゃるのでしょうか」


ダニエルソン、そう、セクレタリアス王国ウィルデンシュタイン朝の最期の国王、サイード王らゴドルフィン一族を取り立てた、あのダニエルソン王です。


彼はサイード王の支持者達に迫られ国王の座を譲りました。そして、ゴドルフィン朝で貴族として遇されましたが、最終的にどうなったのかは記録に残っていません。


部屋の本棚にはダニエルソン王の日記も遺されていまして、そこに書かれていたのですが、実は、彼ら前王朝の王族は、クーデター未遂に絡み追放されていたのです。


サイード王に対してのクーデターの情報を掴んで犯人を捕まえたところ、犯人達は『正当な王であるダニエルソン王を玉座に戻すのだ』と主張したそうなのです。


ダニエルソンはサイード王に『私がいる限りこういう事が起こる。後腐れが無い様に私を殺すなり何なりした方が良い』と自ら提案したそうです。


ですが、サイード王はダニエルソン王に恩義を感じていますし、望まぬ立場だったとしても結果的に王位を奪っています。さらに、本人はこのクーデターとは直接関係無く、復権も望んでいない。それで処刑はあんまりだという事で流刑としました。


その流刑地がこの屋敷のある無人島だったのです。


少し話は飛びますが、イーリーとマルシェさん、レーニアさんは、北国境の城塞跡にあるエレジーアさんの部屋に初めて行った時の事を憶えていますか?


屋上でお昼を食べたり本を読んだりして過ごしましたよね?その時、お二人のうちどちらかが『"かの国"の昔話を集めた本を読んだ』と仰ってましたよね?確かマルシェさんでしたか?


そこに収められていた『漁村に豪華な馬車が連なってやってきて、煌びやかな格好をした人々が無人島に渡って行った。そのうち何人かは戻って来なかった。その日以来、その島の周囲は常に強風が吹き荒れ、今までに無かった潮が流れる様になった』というお話。


それがダニエルソン王が追放された時の事だったのです。


はい、おばあ様どうぞ。


□ □ □


「話の途中すまんが、その無人島と言うのは、バーソルトの沖にある島の事だと思うぞ。なあ、フラン」


「ええ、今のお話もバーソルトに伝わっている昔話と同じです。街で育った者なら誰もが知っている、とても有名な昔話よ」


「……なんとまあ、それは知りませんでした。そうか……近くなら外からも見に行けますね!その時はまたお付き合いお願いします。では、話を戻しますね」


□ □ □


サイード王は密かに私室とこの島を転移の魔法陣で繋ぎ、ダニエルソン王とその一族が不自由無く暮らせる様に、屋敷と畑を整え、外から誰も島に入れない様にと、強風と潮の流れを生み出す処置をしました。


さらに、転移による移動も、特定の魔法陣以外からはできない様にした。


勿論、屋敷には『石力機構』も設置されました。小さなものでしたが、石力水のプールと石力炉も確認しています。屋敷一軒分ですからね、それで十分だったのでしょう。


あ、イーリーが怖い顔で見ているので一応言っておきますが、それを研究していたから戻って来なかったのではありませんからね?ちょっとアンジェリカ!君までなんですか!た、確かに、少しは見ましたけど、違う理由がちゃんとありますから!この後それも説明しますので!変な空気出さないで下さい!


最初に言いましたが、あの島全体は、周囲と空間を途絶させられていました。それに最初に気が付いたのは、『守護者』とのやり取りを終えて通話の魔導具を起動した時です。とりあえず無事である事と、結果的に外殻がどうなったのかを知りたかったので。


ですが、魔導具は起動するのですが、相手先を選んでも応答待ちの待機状態にならない。という事は繋がっていない、という事です。通話相手を替えても同じでした。


通話が駄目なら転移して帰ろうと思いました。


ですが、やはりこれも駄目でした。紙に書いた魔法陣は起動するのですが、転移しないのです。


この結果について『守護者』に尋ねると、『島の外とは物理的にも魔法的にも切り離されている』という返答でした。物理的にというのは、先程の強風と潮の流れの事ですね。


この返事にはさすがに焦りました。


人為的な強風と潮の流れはまだしも、魔法的に空間を切り離すって……そんな手法聞いた事もありません。


転移してきた魔法陣なら戻れるのでは?と思い試したのですが、何故か駄目でした。『守護者』は僕の事をご主人様と呼びましたが、何か他にも条件があったのかもしれません。


すぐに帰れない、連絡も取れないという事が確定してしまったので、とりあえずできる事をしようと思い立ちました。


幸いにして、屋敷の中ですから雨風も凌げるし、『石力機構』のお陰で室温は快適です。食事は『守護者』に言えば整えられて出てくる。


書斎の本棚には資料や本がたくさん収まっていましたので、この『切り離し』について書かれたものが無いか探しました。


探し始めて、それ程時間は掛からずに資料は見つかりました。それによると、魔法陣と範囲指定の魔導具を組み合わせて構築されていたのですが、『切り離し』自体を解除する方法は書いていませんでした。


それでも、仕組みさえ判明すればどこに手を加えれば崩れるのかも解ります。なので、実のところ、帰ろうと思えばすぐに帰る事はできたのです。


では、なぜそれをしなかったのか。


サイード王がダニエルソン様と一族が心穏やかに暮らせる様に、と作り上げたものを、全く関係の無い、横から紛れ込んだだけの僕が壊してしまうのは違うだろ、と考えたんです。


確かに、あの島には小さい『守護者』以外、もう誰もいません。


子孫を残すにしても、どうしても血が重なっていきますからね。新しい血を取り入れる事ができない状況では、いずれは子供ができにくくなって産まれなくなり、一族は絶えます。現に、屋敷の裏庭には、草に埋もれた、数え切れない程のお墓がありました。


そんな、ウィルデンシュタイン朝の終焉の地とも言える場所を、荒らす様な真似はしてはいけない。これからも、小さな『守護者』が墓守として世話をしながら、ひっそりと静かに時が流れ遠い未来に朽ちてゆく、そういう場所にしておかなければならないのです。


ですが、僕はそうのんびりしていられません。何としても帰らなければならない。


よくよく考えてみれば、物理的な切り離し、即ち強風と潮の流れさえ稼働していれば、あの島には誰も立ち入れないんですよね。既に国王の私室が存在しない訳ですから。


なので、魔法的な空間の切り離しだけを解除する事ができれば、連絡も取れるし帰る事もできる。さらに、またここに来て石力機構の研究もできる。よし、ではそれを目指そう!となりました。


資料を元に小さい『切り離し』の仕組みを組み上げて、どうやったら魔法的な部分だけ解除できるかと色々試したのですが……これがまた全然上手くいかない。


しかも、一度試して駄目だったら、最初からやり直しなんです。思い付きを一回試すのに、仕組みを作って組み上げるところから始まる。これが本当にキツかった。


さっきはあんな格好良い事言いましたけど、何度全部ぶっ壊してしまおうかと思ったか……


それがようやく上手くいったのが今日の昼間でした。


通話の魔導具が一瞬繋がった時は、本当に踊り出しそうでしたよ。もう一度ゆっくり、心落ち着かせて転移の魔法陣を起動したら、無事転移できて帰って来れた、という訳です。


本当に、長い事留守にして、心配掛けて申し訳ありませんでした。


ですが、遂に、動いている石力機構を見つけました。あれを元に再現してみせますので、どうかお楽しみに!

ブックマークやご評価、いいねいただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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