第32話
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キースは、パーティ勧誘の作戦を変更する事にした。
昨日は、自分から声をかけていったが結果が出なかった為、今日は相手の興味を引き、向こうから声をかけさせるという手段をとってみる事にした。
まずはテーブルの前面に魔法陣が書かれた大きな紙を貼る。
そこに魔力を流して起動させると、募集告知の文章が浮かび上がった。
職員達が目をみはる。
(魔法陣ってあんな使い方できるの・・・?)
さらに、テーブルの上には魔法陣を書いた紙を何枚か置き、魔力を流し起動する。
すると魔法陣から音楽が聞こえてくる。
呼び出しベルのように、音を一音鳴らすという魔法陣は今までもあった。しかし、曲を演奏するように、様々な音が鳴り続けるというものなど聞いたことがない。
もう一つ別の魔法陣を起動すると、魔法陣の上に2匹の小さな兎の影が浮かび上がった。
その影の兎は魔法陣の上で追いかけっこを始め、自由自在に動き回る。まさに影絵だ。
キースはさらに別の魔法陣を起動させる。
今度は文章が浮かび上がり、下から上へ流れていく。よく読んでみると、誰もが知っている「心が壊れた魔術師 アイザック」のお話だ。
(この子は・・・一体・・・)
職員達が皆呆然としている。
(ハリー、お姉ちゃんこれならいくら騙されてもいいわ・・・)
と、音楽を聞きながら、影の兎にじっと見入るマーガレットだった。
アリステア、フラン、クライブの3人は、建物奥につながる扉の隙間から、キースの様子を伺っていた。
そして、キースのオリジナル魔方陣をよく見ようと、執拗な位置取り争いをしていた。
「クライブ、もっと頭下げろ!見えん!だいたいお前は大きいのだから後ろに回れ!」
「いやいや、アーティ、あなたもだいぶ大きいですぞ!人の事言えませんな」
クライブはこれ以上頭を下げると見えなくなってしまう。必死に抵抗する。
「2人とも静かにしてください。曲が聞こえません」
フランはどちらにしても見えないので、曲に集中している様だ。
「それにしても、なんなんだあの魔方陣は。あんなの聞いた事無いぞ・・・」
「さすが坊ちゃん、日夜研究しているだけの事はありますね」
「「「ほんと天才だな!」」」
うんうん。皆で頷く。
「それに見てください、皆の注目を浴びているのに気が付いた、あの少し得意げな顔・・・それに今日は、てっぺんの髪に寝癖がついてピョンってしてます」
「「「かわいすぎる!」」」
うんうん。皆で頷く。
(この3人・・・ほんとに孫可愛さだけで行動してやがる・・・いつもこんな事やっているのか・・・)
まだ今日は始まったばかりである。
(これが夜まで続くのか・・・長い一日になりそうだ)
ディックは大きな溜息をついた。
キースの「パーティメンバー募集特設ブース」は、注目の的になった。
出発前にギルドにやってきた冒険者達は、建物に入ると優雅な曲が流れ、テーブルの上で影の兎が動き回り、空中に文章が流れるその光景に呆然とした。
(なんなんだこれ・・・)
(あれ魔方陣か?どういう仕組みなんだ?)
(昨日勧誘してた少年だよな?学院首席って本当だったのかよ)
気にはなるが凄すぎて近寄り難い、という状況だ。
そこに一人の魔術師が近づく。
「おはよう少年。ちょっといいかい?」
「はい先輩、おはようございます!」
(あいつは・・・)
覗いていたディックが気が付く
「アーティ、昨日話した、悪巧みしていた3人組のうちの1人です」
「ほう、もう接触してきたのか」
「何を話しているか確認しましょう」
ディックは自身に< 聴 力 強 化 >の魔法をかけ様子を伺いつつ、話を聞きながら口に出し3人にも聞かせる。
「この魔法陣は君が考えたのかね?」
「はい、基本的なところはエレジーアが記した研究書からの引用ですが、それをアレンジして作成しています」
「なんと!あのエレジーアの研究書!?現存している物があるのだな・・・」
(こんな少年がエレジーアの研究書を持っている!?)
男は驚いた。
エレジーアは古代王国期の著名な魔術師で、特に魔法陣の研究で知られている。その彼が書いた研究書だ、大変な値打ち物である。
「原本ではなく写本なのですが・・・」
原本は家の自室の本棚に収まっている。昔アリステアが見つけてきたのだ。持ち歩ける様自分で写本を作った。
「いやいや、写本でも大変な物だ。大事にするといい」
「はい、ありがとうございます!」
(可愛いだけでなくそんなお宝まで持っているとは・・・これはますます楽しみだ)
魔術師の男は心の中で笑う。
(よし、研究書の確保もしたい。予定より早いがここで誘ってパーティに入れてしまおう)
「君はまだどこのパーティに参加していないのだな?」
「そうなんです・・・ちょっと色々とタイミングが悪いみたいで」
「よし、では私達と一緒に来ないか?もちろん君さえ良ければだが・・・」
「本当ですか?それはありがたいです!」
学院を卒業したばかりの魔術師は、知り合いや先輩の紹介が無いと、どうしてもパーティが組みにくい。
「君とは魔法陣を含め、もっと色々話をしてみたいのだ。魔術師が冒険者として活動する為のノウハウは私が教える事もできる。どうだろうか?」
「はい!ぜひお願いします!」
「よし、では私は仲間達を宿から連れてこよう。荷物も持ってこなければ。私だけ早く目が覚めてしまい、散歩がてらギルドに来ただけなのだ」
本当は、キースが他のパーティに誘われていないか、様子を伺いにきたのだ。
「承知しました。ではお待ちしております!」
「あぁ、ではまた後ほどな。お、そうだ。まだ名も名乗っていなかったな。私はサームズという。よろしくな。えぇと・・・」
男は右手を差し出しながら名乗る。
「僕はキースと言います!サームズさん、よろしくお願いします!」
その右手を両手で握りながらキースが名乗る。
(キースきゅんか・・・柔らかい手だ・・・)
「キースか・・・良い名だ・・・それでは少し待っていてくれ。すぐに準備を整えて来る」
「はい、僕も片付けをしておりますので。ごゆっくりどうぞ」
「いやいや、新しい出会いに胸が弾むよ。できるだけ急いで戻ってくる」
サームズと名乗った魔術師は、魔術師らしくない(?)弾むような足取りでギルドを出ていった。
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