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第328話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


キースが行方不明になって2ヶ月が経ちました。1ヶ月後には、イングリットからアンジェリカへの『譲位の儀』も行われる予定です。誰もが落ち着かない日々を送っています。


□ □ □


今日でキースが行方知れずになってから2ヶ月と半月が過ぎた。


生きているのは間違い無いからそこに関しての心配は無い。だが、変わらず連絡一つ無い為、皆、内心やきもきしながら執務を行っている。


現在女王の執務室で業務を行っているのは、長女のアンジェリカ、その腹心で補佐官と護衛も兼ねるアネミエク、『ナインティズ』の1人であるリアム、さらに第3王子のレオンハルトと、末の姫であるコーデリアだ。


ここ数年のキースは、こういった日常業務より冒険者(魔術師)としての活動に重点を置いていた為、執務の取り扱い分はそこまで多くない。その為、キースが不在となってからは、レオンハルトとコーデリアの扱い分として追加された。


レオンハルトは16歳、コーデリアに至ってはまだ13歳ではあるが、仕事が増えてもきっちりこなしている。能力があるのは間違いないが、教える側の質も高い為、伸び具合が素晴らしいのだ。


特に、コーデリアはこういった文官系の仕事にかなり適性があるようで、文章の不備や帳簿の数字の齟齬など、他者が見つけられなかった指摘箇所をきっちり見つけ出す。その仕事っぷりは、既に役人達の噂の的だ。


執務中のお茶休憩の時の話題は、何を差し置いてもキースの事なのだが、ここ数日は『譲位の儀』が話題になる事も多い。


そろそろ、公式に実施の可否を決めなければならないからだ。


正直なところ日付には融通が利く。


国外からの賓客はもちろん、王都に駐在している周辺国の大使すら参加しないからだ。身内だけならなんとでもなる。


だが、それでも王家としては最重要な儀式で、周辺国にとっても『あのイングリット』が引退するというのは、影響も大きいしそれだけ関心も高い。いつまでも中途半端な状態にはしておけない。


そして、午後のお茶休憩で、ちょうどその話をしていた時にそれは起きた。


イングリットの通話の魔導具の魔石が、短く2回ほど点滅したのだ。


キースからの連絡を待ち焦がれているイングリットも、何の前触れも無い突然の点灯には、即座に反応できなかった。


魔石に触り魔導具を起動しようとした時には、光は消え元の状態に戻っていた。皆(何故か)息を潜めてしばらく様子を窺っていたが、再び光る事は無かった。


「……これは、やはり父様でしょうか」


アンジェリカの言葉に、イングリットは無言で頷く。目は魔導具を見据えたままだ。その様子からは『次は絶対に見逃さない』という強い意志が感じられる。


キースの持っている通話の魔導具は、イングリットは勿論、共に執務を行うアンジェリカ、国務長官であるベルナル、ゲオルグ以下の子供達、さらに国内全ての官公庁を呼び出す事ができる。


先程の受信はここの場にいないゲオルグやジェラールの可能性もあるが、ならば途中で切る必要は無いし、官公庁の役人達がイングリットの通話の魔導具に直接連絡してくる事は基本無い。そんな畏れ多い事はできない。そうなると、やはりキースだったと考えるのが妥当だ。


休憩時間のはずの執務室は、息をするのもはばかられる程の重い空気で満たされ、誰もが動きを止め、イングリットの左手首の魔導具を見つめている。


それは永遠に続くのかと思わせたが、不意にイングリットが顔を上げた。


飛び跳ねるかの様に席から立ち上がると、隣の部屋に続く扉に向けて駆け出す。50歳間近という年齢を、全く感じさせない程の勢いである。


取り残された人々は、ポカーンと口を開けてイングリットを見送ったが、気を取り直し慌てて追いかけた。


皆が開け放たれた扉から中に入ると、そこには、床にうつ伏せになり、子供の様に声を上げて泣きじゃくる我らが女王の姿があった。


一体何事かと思いながらもよくよく見てみると、イングリットの身体の下から手足が覗いており、バタバタと動いている。


イングリットが誰かを押し倒しており、下にいる人物が潰れそうになっているのだ。では、下になっているのは誰なのか。


言うまでも無く、そんな人物はこの世に1人しかない。


「か、母様!父様が!父様が!」


アンジェリカは、後ろから母親の肩を掴み引き剥がそうとするが、どれだけの力で抱きついているのか、全くピクリとも動かない。『もう絶対に離さない』という気持ちの現れと言える。


下にいるキースの手足は先程より激しく動き、手はイングリットの肩を叩いている。かなり切羽詰まっている様だが、イングリットは全然気が付いていないのか、変わらず泣きながら抱きついている。


「<身体強化>!失礼します」


魔法により筋力を強化したベルナルが、イングリットとキースの間に腕を入れ、イングリットの身体を引き上げる。さほど力を入れた様にも見えなかったが、イングリットをキースから引き剥がした。


仰向けになっていたキースは激しく咳き込みながら呼吸を繰り返した。イングリットはその間も横座りで泣き続けた。


「……はぁ、ほら、おいでイーリー、大丈夫、大丈夫」


呼吸を落ち着かせたキースが呼び掛けると、座り込んでいたイングリットは、そのまま四つん這いでキースに近づいてゆく。


手の届くところまで来ると両手で顔を挟む。暫くそのまま見つめていたかと思うと、歯と歯がぶつかるのでは?というぐらいの勢いで口づけをした。


(今度はこっちで窒息するのではないかしら)

(……長いですね。まあ、鼻で呼吸はできますから大丈夫でしょうけど)

(気持ちは分かりますが、こちらが照れるなぁ)

(うわ〜うわ~、お母様凄い……)


キースが背中を軽く叩くと、イングリットはようやく口を離した。色々な液体で顔中もうぐちゃぐちゃである。


「もう!!遅い遅い遅い!!どこ行ってたの!!連絡もしないで!!」


眉間に皺を寄せ鼻をすすりながら、涙目&上目遣いで睨みつける。


「うんうん、そうだね。ごめんね。これから説明するからね」


今度はキースから抱きつきゆっくり背中を撫でる。


「……今日の業務は終わりにしましょう。仕事ができる状況ではありませんから。アニー、『王配殿下無事帰還』と一斉連絡をお願いします」


「承知しました」


アンジェリカの指示にアネミエクが身を翻し執務室に戻る。執務室にある大型の通話の魔導具には、王城内はもちろん、別棟である国務省や近衛騎士団の管理棟、各街の代官らに連絡する機能が付いている。キースが身に付けているものと同等のものだ。


「お二人とも、イーリーをもう一度整えてあげてください。それと、屋敷にも連絡をお願いします。おばあ様達にも心配掛けてしまいましたから説明しませんと。あ、集合は食堂にしましょう。おばあ様や子供達も来るとなると、ここでは流石に狭いです」


イングリットはマルシェとレーニアに抱きかかえられる様に連れていかれ、リアムも通話の魔導具へと向かう。


「ただいまみんな。レオンハルトとコーデリアも変わり無さそうで何より。凄い話を持って帰ってきたからね。楽しみにしてて欲しい」


後ろで一つに結んである髪を揺らしながら、キースは自分よりも大きいレオンハルトと、少し小さいコーデリアを一緒に抱きしめた。


□ □ □


結局、説明は夕食後にする事となった。


ただ集まるにしても準備に時間は掛かるし、近衛騎士団員であるゲオルグとジェラールは当番で勤務中だ。


話が長くなりそうという事もあり、ならば皆で一緒に夕食をとり、その後でゆっくり聞こうという事になった。


呼ばれたのは、屋敷にいるアリステア、フラン、クライブ、両親であるライアルとマクリーン、シリルとニバリ、アンジェリカら子供達5人、国務長官であるベルナルにアネミエク、さらにリアムとミューズ、マシューズまでいる。


ベルナルやアネミエクはまだしも、リアム、ミューズ、マシューズは、自分達も呼ばれた事に非常に驚いた。錚々たる参加者に恐縮しきりである。


だが、キースに『ナインティズとして作戦に参加したのだからぜひ聞いて欲しい』と請われては断れないし、そもそも王配からの招待を断る事などできるはずも無い。


「全く……本当に心配したぞ!」

「そうよ、今度は何をしたのかと……いつも以上にウェイブルト様にお祈りしたわ」

「我らのいない場ではどうにもしてやれぬからな。気を付けなければ」


控え室に集まったアリステア達や両親は、口々にキースに声を掛ける。


「どうもご心配お掛けしました。でも、それに見合った収穫はあったのですよ。"かの国"の王族だけの秘密です」


「ほう、それは楽しみだねぇ」

「まさか今になってそんな事を知る事ができるとはな。ありがたい話だ」


キースの言葉にエレジーアとサンフォードが食いついた。魔術師は未知の知識に心惹かれるものであるが、彼らにしてみれば、自分が実際に生きていた頃の王族だけの秘密だ。喉から手が出る程知りたいだろう。


「皆様、お待たせいたしました。準備が整いましたのでご案内いたします」


マルシェの声が控え室に響いた。


□ □ □


「それではそろそろ始めましょうか」


皆に食後のお茶が行き渡ったのを見て、キースが口を開いた。各々隣の席の人と話をしていたが、皆口を閉じキースに注目する。


「まず、なぜ2ヶ月半もの間、戻る事は勿論、連絡すらできなかったのか、なのですが……空間が閉ざされた場所に入ってしまい、その仕組みを解除するのに時間が掛かったから、です」


誰も言葉を発しない。皆『さっぱり分からない』という顔をしている。


「まあ、これだけでは何の事か分からないですよね?なので、穴の底に降りて物質転送の魔法陣を設置したところから話をします」


キースはお茶を一口啜り喉を湿らせた。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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