第327話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
多少のイレギュラーはありましたが、危ない(かもしれなかった)石力炉破壊作戦は無事に成功しました。しかし、途中からキースが所在不明になりました。生きてはいる様ですが、彼は一体どこに行ってしまったのでしょうか。
□ □ □
キースが消息不明になってから2ヶ月が経過した。
王城の最奥にある女王の執務室では、今日もいつも通りに業務が行われている。アンジェリカやリアム、アネミエクらが机に付き、仕分けられた案件に向き合っている。
一見したところいつも通りの風景だ。
しかし、それはあくまでも上辺だけなのは言うまでもない。あのキースがいないのに普段通りである筈が無い。特にイングリットが。
その証拠に、キースが行方知れずとなってからのイングリットは、常にある物を手元に置く様になった。
例の書類筒である。
キースが魔法で鍵を掛けている書類筒。それは今やイングリットの心の支えであった。
『蓋が取れない=魔法の効果が続いている=生きている』という事だからだ。
執務中は机の上に置かれ、案件を考えながら半分無意識でクルクルと弄んだり、横にして蓋を引っ張ったりしている。
移動時は、側仕え兼護衛を務めるマルシェかレーニアが預かる。
寝る時も当然枕元に置かれている。起きた時に胸元にある事もしばしばだ。
(……それにしても、これは一体どういう状況なんだろう)
案件の書類を手にしながら、女王の筆頭補佐官で『ナインティズ』の1人であるリアムは考える。
(転移の魔法陣があるのに帰ってこない、通話の魔導具もあるのに連絡すら無い。でも生きてはいる。もうこの時点で意味が分からない。通話の魔導具なんて、極端なことを言えば半身不随とか、首だけしか動かせない状態でも使えるでしょうに。そもそも、そんな状態なら当然食事も摂れないのだから、2ヶ月も生きていられない。という事は世話をしてくれる誰かがいるということになる。その人が代わりに連絡してきたっていいでしょうにそれすら無い。どうなっているの……)
この疑問も、毎日2回は考えている。それでも理由はさっぱりだし結論も一緒だ。
キースの身の安全は何よりも優先すべき事だが、他にも大事な予定がある。ちょうど一ヶ月後に、イングリットからアンジェリカへの『譲位の儀』も行われるのだ。
『大連合』発足に絡んで延期となっていたところで、『北国境のダンジョン』の件が発生した。どちらもきちんと片付いた事で心置きなく執り行える筈であったが、流石に王配が行方不明では延期である。
細かい事を言えば、王配は王族では無い為『譲位の儀』には直接関係無い。必要なのは王と継承者であり、儀式を行うだけならいなくても可能だ。
だが、イングリット達にはそんなつもりは無いし、対外的なものや国民感情というものがある。公私共に女王イングリットの最高のパートナーであり、希代の魔術師としてその名は周辺国にも轟いている。国民達も、この王配がどれだけ国に貢献し、自分達の生活を向上させてくれたか知っている。
キースが行方不明のまま儀式を行ったら、周辺国はイングリットに対する見方を変えてしまうだろうし、国民達はまず間違いなく『恩知らず!』と罵り支持をしなくなるだろう。
(どこで何やってるのかしら……もう、早く帰ってきてください)
リアムは手に持った書類に意識を戻したが、その中身は一向に頭に入ってこなかった。
□ □ □
縦穴での石力炉の破壊が終わった後、連絡を受けたイングリットらは『転移の魔法陣』を設置してある大講堂の控え室で対応者達を出迎えた。無事に帰ってきたダンジョン組と『ナインティズ』ら縦穴組を、笑顔で声を掛けながら労う。
しかし、最後にシリルとマシューズだけが転移してきたのを見て首を傾げた。キースも含めた3人で最終確認を行うと聞いていたからだ。
「シリルお姉様、キースさんは……」
「穴に入ってから行方不明」
シリルの明瞭簡潔過ぎる答えに、イングリットやアンジェリカ、国務長官であるベルナルらは、皆無表情で固まってしまった。
(何ともこれ以上無いお答えだ。これが言えるのはシリル様だけだろうな)
「女王陛下、私からご説明をさせていただきます」
この言い出しにくい話のとっかかりを、これ以上無い形でシリルが作ってくれた。マシューズは、この機を逃してはならぬとばかりに説明を始める。
後に、この時の事を振り返ったアンジェリカは、「説明を聞いている間母様の後ろにいたけど、倒れたら支えなければと思う程身体が震えていた」と、アネミエクに漏らしている。
本当なら、気持ちのままに通話の魔導具を起動し、キースを呼び続けたかっただろう。だが、イングリットはそんな姿を見せなかった。身体を震わせながらも理性で心を押さえ付け、あくまでも冷静に話を聞き、女王として、国の最高責任者としての態度を貫き通した。
周囲の人々は当然、『永遠の新婚夫婦』とまで言われる2人の仲の良さを知っている。感情に任せて振る舞ったとしても、『女王のくせに取り乱して』などと後ろ指を指す者もいなかっただろう。
「……承知しました。まずは各担当からそれぞれのお話を聞かせてください。王配殿の事はその後話し合いましょう」
□ □ □
ダンジョン組、縦穴組が大講堂の席に着くと、情報の共有を行うべく報告が行われた。
ダンジョン組で話を進めるのはジェラールだ。顎を引いて胸を張り、堂々たる態度と流れる様な、それでいて落ち着いた口調で、明瞭簡潔に説明を行う。
集まった人々は、態度にも表情にも出していないが、作戦前、対応の指名を受けた時との余りの違いに、内心目を丸くしていた。
「……石力炉を切り離した直後、階層を揺るがす、とても立ってはいられない程の大きな揺れが発生しました。先程、古の先生方にもお尋ねしたのですが、『構成物に手を加え、形状を大きく変えたからではないか?』とのご意見をいただきました。これについては、今後の研究課題としたいと考えております」
「……揺れの影響により、私が保持していた外殻が斜めに傾いてしまっておりました。そこに気がつけず修正できなかった事で転送の事前連絡ができず、傾いた状態で外殻を送ってしまう結果となりました。王配殿下の行方不明には、間違い無くそれが影響していると考えます。これは、一重に私の力不足です。皆さんにご尽力いただきましたのに、誠に申し訳ありません」
「……先程ジェラール殿下から謝罪のお言葉がございましたが、殿下が外殻を傾けてしまったのは、私が転びそうになったところをお助けくださったからでございます。殿下に責はございません。誰が悪いのかであれば、転びそうになった私でございます」
ジェラールの説明に続いてミューズが補足した。
皆の報告を受聞き終えたイングリットが立ち上がった。
「皆さんが現場で最善の対応をしてくれたのは確信しております。その結果について、一々責を問うつもりはありませんし、そもそも取る必要があるとも思えません。本当に、ありがとうございました」
笑顔で大講堂全体を見渡しながら、対応に当たった人々と目を合わせる。
「王配殿の事は確かに心配ではあります。転移も、魔導具での連絡もできないという状態とはどういうものなのか、全く想像できません。ただ、間違い無く生きてはいる。ならば、必ずや状況を打開して戻ってくるでしょう。それに、まだ全てが終わった訳ではありません。私達は最後まで気を抜かずに、しなければならない事を行いましょう。引き続きよろしくお願いします」
危険は去ったと思われるが、『北国境のダンジョン』とその周辺から避難させた人々については、深層域の構成が変わるまではこちらに留め置く事にした。念には念をという事と、実際に避難キャンプを運用してみた結果が欲しいのだ。
考えうる用意は整えているはずだが、やはり実際に使ってみて初めて気がつく事もある。そういった点を修正し、次回に繋げていかねばならない。
「それでは皆さん、お疲れ様でした。そして、本当にありがとうございました。さすがは私の『ナインティズ』でございます。報奨については追ってご連絡しますので、どうかお楽しみに。それでは解散致しましょう」
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